2: 崖上小屋
ここは一体どこなのか。
考えたいのに足が痛くて、それどころではない。担架が揺れる度に傷に響く。
痛みと恐怖に震えながら声を押し殺していると、男たちが悪態をつき始めた。
「ったく、これから俺らこの道往復すんだろ?」
「あぁ。勘弁してほしいよな。しかも荷物ありだぜ?」
「それによぉ…」
どの世界でも仕事の愚痴はつきものらしい。
息を切らせながらも、愚痴が止まらない様子で流美は黙って男達の会話を聞いてた。
「お、見えてきた」
痛みに耐えながらも首を動かすと、峠の上に小さな小屋が見えた。
「あれが曰くつきの見張り小屋か」
(曰くつき?なにそれ……)
状況を掴めず青ざめる流美を見て、男は意地の悪い笑みを浮かべた。
「あぁ、嬢ちゃんかわいそーだなー。ははっ」
「足切られた上に、あんな幽霊小屋にぶち込まれるんだからよ」
「ここはな、魔獣も幽霊も出るんだとよ」
「なんでも魔獣に喰われた子どもが、笑いながら親を待ってるって噂だ」
「おうおう。本当にかわいそうだ」
「安心しろよ。俺たち警備隊モーヴェが、食材は届けてやる」
「せいぜい一人で怯えながら、反省でもするんだな」
(反省?モーヴェ?一体なんなの……?)
「ところでよぉ、上の奴らに意見したり、余計なことしたやつは消されるって噂、お前聞いたか?」
「あぁ。解雇じゃなくて消されるってやつだろ?この仕事続けるの、躊躇うよな」
(消される?だから一体なんなのよ!)
「金払いがいいのも納得だよな」
「あぁ。まっ。余計なことせずに、言われたことだけやってりゃ良いだけの話だ。よし。着いたぞ」
そこには、貧相だがしっかり整えられた小屋があった。
男が乱暴に扉を開けると、必要最低限の家具が並び、小屋の割に小綺麗な空間が広がっていた。
男たちは、小屋の中のベッドを見つけると、流美を乱暴に放り投げた。
「――っ‼︎……くっ……」
声にならない痛みが流美を襲う。
「なんかここ、獣臭くないか?」
「やめろよ。これで仕事も終わりだ。帰るぞ。」
「ちょっ……待って……ください……!」
引き上げようとする男たちを止めようとしたが、一瞥されただけだった。
「食料は七日に一度運ぶ。これも仕事だからな」
「俺たちを恨むなよ。嬢ちゃん」
事務的に発せられた言葉は冷たく、酷く距離を感じるものだった。
(……確かに、獣臭いかも)
訳の分からないこの状況も、痛みも、恐怖も。
全部まとめて流美を押し潰そうとしてくる。
流美はただ耐えるように、うずくまった。
ふふふ。あはは。
子どもの笑い声がする気がする。
意識が曖昧になった、そのとき……
“ねむるのー”
”やすむのー”
確かに、耳のそばで囁き声が聞こえた
――。




