18: モーヴェ便
この小屋に来て、七日が経った。
足は完全に治癒している。
それでもノスタルジアの言った通り、不安を覚えたり、迷ったり、記憶の奥に触れた時だけ、鈍い痛みや痺れが走った。
ハイヒールを眺め、前向きな気持ちを整えていると、コハナが地下からフーと一緒に上がってきた。
「あ、コハナ。おはよう」
慌ててハイヒールを隠し、立ち上がって駆け寄る。
「ルシナ、おはよう」
フーは尻尾をぶんぶん振りながら、足元にまとわりついた。
おはようと言いながらも、日はすでに高く上がっている。
ここへ来てから、朝はゆっくり過ごすことが多かった。
「コハナ、今日はどこか出かける?」
問いかけると、コハナは無表情のままルシナを見つめ、こくりと頷く。
「そ……そうなんだ」
もう少し話をしたかったが、出かけるなら夜でもいいかと視線を落とした。
「フーだけになっても、妖精たちが見ていたから、私もよく一人で出かけてた」
コハナは左腕につけたシルバーの腕輪に、そっと指先で触れながら、まっすぐ告げる。
「だから、ルシナも出かけていい」
どうやらフーは、妖精たち付きで留守番できるらしい。
「ハーブティー、今日は私が淹れるね。コハナは座ってて」
ルシナはコンロで湯を沸かす。
生活魔法も、すっかり自然に使えるようになっていた。
(洗濯も生活魔法だもんな。もう魔法っていうより家電だな)
どう切り出そうか悩んでいると、突然、フーが鼻に皺を寄せ、低く唸り始めた。
「え? フーちゃん? どうしたの?」
小声で問いかけた瞬間――
ドンドンドンドン!!
扉が力任せに叩かれた。
暴力的な音とフーの唸り声に、身がすくむ。
「なっ、なに?」
動揺して視線をさまよわせるルシナと、扉を無表情に見つめるコハナ。
“あいつらだよー”
“やなやつー”
“とっととかえれー”
妖精たちがぷんすこ怒りながら、扉をすり抜けていく。
やがて戻ってきて告げた。
“ルシナー、あいつらかえったー”
“なんかおいてったー”
フーはもう唸っておらず、いつもの丸い目でルシナを見上げている。
扉を開けると、食料と水が置かれていた。
遠くに、モーヴェたちの小さな後ろ姿が見える。
「置き配かよっ」
思わず突っ込まずにはいられなかった。
“ずっともんくいってたー”
“はやおきしたんだってー”
“ねー、かえりみち、ころばしちゃおっかー”
“いいねー”
妖精たちの物騒なイタズラ計画を聞きながら、コハナと一緒に荷物を小屋へ運び入れる。
届いたばかりのパンに、昨日コハナが採ってきてくれた実を挟む。
そこにコハナ持参のバターをのせると、甘酸っぱさとよく合って、思わず頬がゆるんだ。
食べ終わると、コハナは静かに出かけていった。
(やっぱり私、コハナに頼りきりだ。早く働いて、もっと美味しいものを食べよう)
フーは二度寝する気満々で、ルシナのベッドの下に潜り込み、丸くなっている。
「……私も出かけるか」
カイに仕事を紹介してもらおう。
妖精たちにフーを頼み、ルシナは町へ向かった。




