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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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19/69

18: モーヴェ便

この小屋に来て、七日が経った。


足は完全に治癒している。

それでもノスタルジアの言った通り、不安を覚えたり、迷ったり、記憶の奥に触れた時だけ、鈍い痛みや痺れが走った。


ハイヒールを眺め、前向きな気持ちを整えていると、コハナが地下からフーと一緒に上がってきた。


「あ、コハナ。おはよう」


慌ててハイヒールを隠し、立ち上がって駆け寄る。


「ルシナ、おはよう」


フーは尻尾をぶんぶん振りながら、足元にまとわりついた。


おはようと言いながらも、日はすでに高く上がっている。

ここへ来てから、朝はゆっくり過ごすことが多かった。


「コハナ、今日はどこか出かける?」


問いかけると、コハナは無表情のままルシナを見つめ、こくりと頷く。


「そ……そうなんだ」


もう少し話をしたかったが、出かけるなら夜でもいいかと視線を落とした。


「フーだけになっても、妖精たちが見ていたから、私もよく一人で出かけてた」


コハナは左腕につけたシルバーの腕輪に、そっと指先で触れながら、まっすぐ告げる。


「だから、ルシナも出かけていい」


どうやらフーは、妖精たち付きで留守番できるらしい。


「ハーブティー、今日は私が淹れるね。コハナは座ってて」


ルシナはコンロで湯を沸かす。

生活魔法も、すっかり自然に使えるようになっていた。


(洗濯も生活魔法だもんな。もう魔法っていうより家電だな)


どう切り出そうか悩んでいると、突然、フーが鼻に皺を寄せ、低く唸り始めた。


「え? フーちゃん? どうしたの?」


小声で問いかけた瞬間――


ドンドンドンドン!!


扉が力任せに叩かれた。


暴力的な音とフーの唸り声に、身がすくむ。


「なっ、なに?」


動揺して視線をさまよわせるルシナと、扉を無表情に見つめるコハナ。


“あいつらだよー”

“やなやつー”

“とっととかえれー”


妖精たちがぷんすこ怒りながら、扉をすり抜けていく。


やがて戻ってきて告げた。


“ルシナー、あいつらかえったー”

“なんかおいてったー”


フーはもう唸っておらず、いつもの丸い目でルシナを見上げている。


扉を開けると、食料と水が置かれていた。

遠くに、モーヴェたちの小さな後ろ姿が見える。


「置き配かよっ」


思わず突っ込まずにはいられなかった。


“ずっともんくいってたー”

“はやおきしたんだってー”

“ねー、かえりみち、ころばしちゃおっかー”

“いいねー”


妖精たちの物騒なイタズラ計画を聞きながら、コハナと一緒に荷物を小屋へ運び入れる。


届いたばかりのパンに、昨日コハナが採ってきてくれた実を挟む。

そこにコハナ持参のバターをのせると、甘酸っぱさとよく合って、思わず頬がゆるんだ。


食べ終わると、コハナは静かに出かけていった。


(やっぱり私、コハナに頼りきりだ。早く働いて、もっと美味しいものを食べよう)


フーは二度寝する気満々で、ルシナのベッドの下に潜り込み、丸くなっている。


「……私も出かけるか」


カイに仕事を紹介してもらおう。

妖精たちにフーを頼み、ルシナは町へ向かった。

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