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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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14/16

14: 群生地

外は空気が澄んでいて、心地よい風が吹いていた。


コハナとフーの後を追って森へ入り移動する足取りは軽く、景色を見る余裕すらある。

湖の方向から少し外れた場所に、ぽっかりと開いた空間があり、そこには野草や木の実の群生地が広がっていた。


「ここ」


短く呟くと、コハナはカゴを置き、実を摘み始める。

ルシナも同じように手を伸ばした。


2人に会話はないが、鳥のさえずりや木々のざわめきが心地よく、この距離感が不思議と落ち着く。


フーは羽根のような耳と、長い尻尾の毛をなびかせながら、妖精たちを追いかけていた。


やがてコハナがぽつりと言う。


「ルシナ、好きなように過ごしていい」


突然の言葉に、ルシナは目を瞬かせた。


「ここも小屋も一緒に使う。でも、お互い無理しない」


作業を続けながら、淡々と話す。


「話したい時は話す。ひとりでいたい時は、そっとする」


無理して合わせなくていい。互いに気を遣わない…干渉しない…

そのやさしさが、コハナの人柄なのだろう


気を遣うのも、遣われるのも慣れてはいるけれど、その申し出に、ルシナは胸の奥がゆるむのを感じた。


(大人びてるな……まだ15歳なのに。一体何があったんだろう……)




小屋へ戻ると、自然とそれぞれの時間になった。


コハナは地下へ入り、フーはルシナの膝の上を占領する。



ーーー


夕暮れが近づいた頃、ルシナが簡易キッチンで夕食の食材を確認していると、コハナが地下から上がってきた。


「モーヴェ達が置いていった食材はこれ」


コハナが示した先には、野菜類、バゲット、水、干し肉が並んでいる。


「調味料は、わたしが持ってるやつ使って」


材料はあるのに、調味料はなし。

(やっぱり雑な扱いだな……)


「あれ?でも井戸があるよね?水?」


「モーヴェたち、井戸があるの気付いてなかった」


“ざつなのー”

“まわりみてないのー”


妖精たちが呆れたように光る。


水みたいに重いものを持って、あの悪路を長距離歩いてきたのかと思うと、少しだけ気が晴れた。


「ちょいざまぁ……」


ふふっと笑いながら呟くと、コハナがわずかに眉を動かしてルシナを見る。


「そういえば、ここって監禁とか隔離のために作られた小屋なのかな?その割には設備が整ってる気がするけど……」


運ばれていた時、見張り小屋とか幽霊小屋とか言っていた記憶がぼんやり浮かぶ。


「ここは隣国を見張るために作られた」


ルシナをまっすぐ見ながら、コハナは答える。


「けど和平条約が結ばれてから、数年は使われてなかったみたい」


「そこにコハナが来たってこと?」


コハナはこくりと頷き、サンドイッチを作り始めた。

ルシナも隣で手を動かす。


「モーヴ大国も落ち着いたし、都心部からも離れてる。隔離小屋っていうのも、間違いじゃないかも」


(ここに足の腱を切られて運ばれた私……。確かに余計なことをしたけど、そこまでだったんだろうか……)


記憶の奥に触れた途端――左足に鋭い痛みが走る。


がくりと膝が落ちた。


「大丈夫?」


フーも慌てて近づき、心配そうに足を舐める。


「ごめん……急に痛んで……」


「ルシナ、座ってて。ここまで一緒に準備してくれたから、すぐにご飯できる」


「うぅ……めんぼくない……」


フーを抱えて椅子に座り、毛並みに顔を埋める。

お日様のような匂いに、少しずつ気持ちが落ち着いていく。


するとフーは、ぺろりとルシナの唇を舐めた。


「ふふ……フーちゃん、くすぐったいよ。ありがとう……」


その小さな優しさに、胸の奥のざわめきがすうっと静まっていく。

フーは満足そうにフスンと鼻を鳴らし、もっと撫でろと言わんばかりに体を押し付けてきた。


「かわいいな〜」


耳の先の長い毛が、髪の毛のようにぴょこぴょこ揺れるたび、つい撫でてしまう。


ーーー


「落ち着いた?」


コハナがサンドイッチをテーブルに置きながら、わずかに眉を下げてルシナの様子を伺う。


「癒されました……」


すっかりもふもふを堪能したルシナは、満足そうに頷いた。


「これから、どうなるんだろうね」


何気ない問いかけに、コハナは答えず、ただ静かに見つめ返す。


「ここは安全だった」


その一言だけを残して、視線を落とした。


いつも以上に感情を見せない様子に、ルシナは少し首をかしげる。


「……まあ、先のこと考えても仕方ないか」


肩をすくめて、天井を見上げた。


「なんとかなるでしょ。今が安全なら、それでいいよね」


そう言って笑うと、コハナはほんのわずかに目を細めた。


それが笑顔だと気づいたのは、もう少し先の未来ーーー。


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