11: 崖っぷち
なんだか今日は、色々なことが起きすぎて、疲れがどっと出てきた。
小屋の外を撫でる風。
ノクターンの鏡湖。
女神さま、ノスタルジア。
足の治癒。
わちゃわちゃした妖精たち。
極め付けに、小屋に勝手に作られた地下室。
……なんだかもう、お腹いっぱいだ。
コハナがフーを抱えたまま、じっとルシナを観察する。
「ルシナ、疲れた? もう休む?」
「うん……そうする。今日はなんだか、情報量が多くて……」
今後の不安も重なって、思考がぐちゃぐちゃだった。
ベッドに戻ろうと階段を登り始めると、フーが後ろからついてこようとする。
「フー、ルシナ疲れてるから、今日はここで寝て」
フーは「わかった」と言わんばかりに、ラグの上のクッションをホリホリし始め、せっせと寝床を作る。
「じゃあ、コハナ。おやすみ」
「おやすみ」
階段を登り切ると、小屋の中(地上)にはルシナひとり。
静かな空気に、少しだけ寂しさを感じながら、ベッドに潜り込んだ。
まだ寝るには早い時間な上、いろんなことが起きすぎて眠れないはずなのに、
案外、すぐに眠りにつくことができた。
――夜。
ルシナが目を覚ますと、やけに頭が冴えていた。
このまま眠ることもできそうではあるが、なんとなく外の空気を吸いたくなり、小屋を出る。
起きたついでにトイレも済ませ、夜風に身をさらした。
風は優しく、頬を撫でていく。
(確か……裏は崖だって、コハナが言ってたな)
昼のことを思い出しながら小屋の裏へ回ると、そこから三十メートルほど先は崖になっているようだった。
特に安全柵もなく、切り立った境目の向こうには、ただ空が広がっている。
満天の星。
思わず息を呑むほど美しい。
流美でも、ルシナでも、こんな星空は見たことがない――たぶん。
(崖の下は、隣国だとも言ってたっけ)
崖の縁ぎりぎりを、四つん這いになって進み、そっと下を覗き込む。
暗くてよく見えない。
それでも、崖下は想像以上に遠く、落ちたらひとたまりもないことだけは分かった。
崖の手前には木々が生えており、その先は、町の灯りが滲んでいる。
(あれが、隣国の町…どんなところなんだろう)
四つん這いから立ち上がり、もう一度、星空を仰いだ。
風はなく、心が不思議と落ち着く。
少しだけ肌寒さを感じ、そろそろ戻ろうと振り返った――その瞬間。
突風が吹いた。
思わず体がよろけ、足元の石が、がらりと崩れる。
(ぎゃ!これ……またやっちまった!)
落ちる――。
「ふぎゅあぁぁぁぁ――!!」
突然の落下に、叫ばずにはいられなかった。




