10: 小屋の下
ルシナは、ノスタルジアが消えた湖面を、呆けたように見つめていた。
妖精たちは、まだ湖面の上をふわふわと舞っている。
「コハナ、女神さまのこと……知ってたの?」
そう尋ねた声は、なぜか小さくなっていた。
「うん……知ってた」
コハナも、なぜか小声で答える。
“コハナも、きたことあるのー”
“まよってたから、あんないしたのー”
「ルシナ、歩ける?」
そう言われて気づく。
足が痛くない。松葉杖を使わなくても、立てていた。
恐る恐る、足を踏み出す。
――痛くない。
歩くことが、できた。
“ルシナ、あるけたのー”
“めがみさま、すごいのー”
妖精たちが、ルシナの周りでパチパチと光る。
まるで拍手をしているみたいだった。
「帰ろう」
コハナに促されて、来た道を戻る。
その足取りは、
まるで――羽が生えたみたいに、軽かった
小屋に着くと、扉の前でフーがキュンキュンと鳴いていた。
「フーちゃん、ただいま」
そう言ってお尻を撫でると、嬉しそうに尻尾を振る。
「ルシナ、ハーブティー飲む?」
コハナが淹れてくれたハーブティーを口にしながら、小屋の中を見渡す。
この小屋に来たばかりの頃は、絶望感でいっぱいだった。
それなのに、今はこんなにも賑やかだ。
ほっと心が落ち着いたのは、ハーブティーの効果だけではないはずだった。
(魂の選択……一体、何が正解なんだろう)
(流美の体は、どうなっているの?)
ピリリと痛む心と足に蓋をするように、ルシナはハーブティーを飲み干した。
夜ーーー。
ベッドに入ろうとしたが、ふと気になってコハナに尋ねる。
「あれ?コハナは、どこで寝てるの?」
コハナは表情を変えずに、床を指差した。
それから、その下を示す。
「……ん? どういうこと? 床?」
床は床だけど、
その“下”とは一体――。
よく見ると、小屋の奥に、ほんのわずかに色の違う部分があった。
コハナがそこを外すと、階段が現れ、
その先には広い空間が広がっていた。
「……コハナ、これは?」
驚きを隠せずにいると、コハナは一言だけ答える。
「妖精たちが、作ってくれた」
“そうなのー”
“つくったのー”
“どーんってー”
妖精たちが、自慢げに瞬く。
「どーん? 作る?」
さらに謎が増えた。
(妖精って……そんなことまでできるの?)
「中、入って」
案内されて降りてみると、
崖をくり抜いて作られたその部屋は、小屋よりも広く、
室温もちょうどいい。
たくさんのクッションや柔らかいラグ、フーのおもちゃも置かれていて、ちゃんと生活感のある空間だった。
「小屋、勝手に住んだら怒られるから」
コハナが、ぽつりと呟く。
(いや……勝手に穴を開けるのは、もっとダメでしょ)
ルシナは、内心そう突っ込まずにはいられなかった。




