表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/132

第九十二段 棚なし小舟

【本文】

 むかし、恋しさに、来つつかへれど、女に消息をだにえせでよめる。


 蘆べ漕ぐ棚なし小舟(をぶね)いくそたび

   ゆきかへるらむ知る人もなみ


【現代語訳】

 昔、恋しいあまり(もしかしたら逢えるかもしれないと思って)家の前まで来てはみたが帰ってゆくというのを繰り返していた男が、女には便りを出すことも出来ずに次のような歌を詠みました。


 蘆の繁る河辺をゆく船棚さえもないような小舟は、何十回も行っては帰ってを繰り返しています。(蘆の陰に隠れて)誰にも知られないので。



【解釈・論考】

 恋する女に逢えるかなあ、と一縷の望みをかけて家の前を訪れ、為すすべもなく帰っていくのを繰り返すという哀愁漂う状況が前提となっています。

 歌をみていきましょう。「棚なし小舟」とありますが、ここでいう「棚」とは舟の舷側につけた板のことです。舟の両側の(へり)に、波が舟べりを越えて入ってくるのを防ぐと共に、水夫がこの板の上に立って舟を漕ぐように打ちつけられていた舷側板のことです。歌の中では、そんな棚板も打ちつけられていないような小舟ということで、非常に頼りなげな印象を受けます。「いくそたび」の「そ」というのは十という意味で、幾度という言葉の間に十がついている訳ですから、「何十回も」という意味になるのです。船棚さえつけていない小さな舟が何十回も蘆の陰に隠れながら行きつ戻りつしている様子は実に頼りなく、女に便りさえ出せない男の恋がこの先心細い結末を迎えるであろうことを暗示しているようでもあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ