表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/132

第六十四段 玉すだれ

【本文】

 むかし、男、みそかに語らふわざもせざりければ、いづくなりけむ、あやしさによめる。


 吹く風にわが身をなさば玉すだれ

   ひま求めつつ入るべきものを


返し、


 とりとめぬ風にはありとも玉すだれ

   誰が許さばかひま求むべき



【現代語訳】

 昔、ある男が、(好意を寄せている女がいたが)ひそかに逢って語り合うこともできず、女の所在もどこにいるのか分からなくなってしまって、次のような歌を詠んだのでした。


 私のこの身を吹く風に変えることができたなら、貴女のお部屋の玉簾(たますだれ)の隙間を吹き抜けて中へ入っていきますのに。


女は次のような歌を返しました。


 たとえとらえようのない風だとしても、誰が許したら玉簾の隙間を探し求めることができるというのでしょうか。誰もそんなことは許しませんよ。



【解釈・論考】

 この段は、二条后(藤原高子)の恋の後日談という風に解釈されることがあります。この段においては「玉すだれ」が皇族を暗示するとも考えられています。「玉」は美称で、美しい立派な(すだれ)という風に解釈できます。物語文の「いづくなりけむ、あやしさに…」は、第四段(「月やあらぬ」)で「ありどころは聞けど、人のいき通ふべき所にもあらざりければ…」を想起すると状況を理解しやすいかでしょう。彼女は女御として天皇の傍仕え(後世の言葉で言えば側室にあたります)をする身となっていました。そして平安貴族の男女は、祭りか遊びか何かの饗宴の際に使用人に託して歌の贈答をすることができました。そのため相手の居所は分からなくても歌を贈ることはできたのです。


 男の歌の「ひま」は隙間のことです。男はこのような歌を詠みつつも本当に女を探し求めて部屋に入っていくような不躾なことはしません。まさしく風のようにさらりとした懐旧の情を感じられる歌です。女も、部屋に入ってきてはダメですよという意味を歌の中にやんわり込めています。おっとりとした箱入りのお嬢様だった人ですが、彼女ももはや殿上人です。立場を弁え、男の侵入を許すことはしません。

 お互いに大人になった二人のやり取りの歌ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ