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第五十一段 菊を賀す

【本文】

 むかし、男、人の前栽に菊うゑけるに、


 植ゑしうゑば秋なき時や咲かざらむ

   花こそ散らめ根さへ枯れめや



【現代語訳】

 昔、ある男が、ある人の(やしき)の庭先の植込みに菊を植え込んだとき、次のような歌を詠みました。


 しっかりと植えましたから、秋のないときは咲かないでしょう。でも毎年秋は来るでしょうから、きっと咲いてくれることでしょう。また花は散ることがあるでしょうけれども、根までは枯れることはあるでしょうか、きっとそんなことはありません。



【解釈・論考】

 この歌は『古今集』秋下に在原業平の歌として収められています。菊の花は毎年きっと咲くでしょう。その根はずっと枯れることはないでしょう、という意味で、邸の主人のことを祝福する歌です。

 菊の花は『万葉集』では詠まれておらず、『古今集』によく詠まれていることから平安時代の初期に中国から伝わったものと推測されます。同時期に伝わったと考えられる重陽の節句においては無病息災の祈りの象徴でもあります。

 菊の花が現在のように皇室の御紋となったのは、鎌倉時代に後鳥羽上皇が菊の花の意匠を好んだことに由来するそうです。ですので、伊勢物語の時代のこの頃は、宮中とは直接の関係はありませんが、お目出たい花としては認知されていたのでしょう。

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