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第四十八段 待つ苦しさ

【本文】

 むかし、男ありけり。馬のはなむけせむとて、人を待ちけるに、来ざりければ、


 いまぞ知る苦しきものと人待たむ

   里をばかれず訪ふべかりけり



【現代語訳】

 昔、ある男がいました。旅立っていく人の送別の宴をしようと待っていましたが、当人が来なかったので


 なかなか来ない人を待っているのはこんなにも苦しいものだと今知りました。私を待っている女のいる里にはもっと足しげく通っていくべきでしたね。



【解釈・論考】

 この歌は『古今集』雑下969にも収められており、その詞書によると見送られる予定だった人間は紀利貞という人だったようです。歌は第三八段のものに似ており、また言葉数の少ない段でもありますが、送別会をすっぽかされるという非礼を受けてなお、さらりと女を思いやる歌に変えてしまう業平の自制心と心の優しさこそ賞賛されるべき話であるように思われます。

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