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第三十六段 峰まではへる玉かづら
【本文】
むかし、「忘れぬるなめり」と問ひ言しける女のもとに、
谷せばみ峰まではへる玉かづら
絶えむと人にわが思はなくに
【現代語訳】
昔、「私を忘れてしまったのですか?」と聞いてきた女に対して、次のような歌を詠んだ男がいたのでした。
狭い谷底から、山の峰まで生えていく玉鬘のように、貴女との仲が絶えることがありませんように、と思っていましたよ。
【解釈・論考】
「問ひ言しける」は解答や釈明を求めるような強い調子で、詰問してくることを意味しています。
この歌は『万葉集』の東歌の中の「谷せばみ峰にはひたる玉かづら絶えむのこころ我がもはなくに」という歌の類歌であるとみられています。元の歌もこの段の歌と大意はあまり変わりありません。




