表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/132

第三十二段 しづのをだまき

【本文】

 むかし、ものいひける女に、年ごろありて、


 いにしへのしづのをだまき繰りかへし

   むかしを今になすよしもがな


といへりけれど、なにとも思はずやありけむ。



【現代語訳】

 昔、いっとき関係をもっていたが仲が絶えていた女に、何年か経ってから


 古代の倭文(しず)織りの糸巻のように、繰返し引き戻して、昔を今にもどすことはできないものでしょうか。


と歌を詠んで贈りましたが、女の心には響かなかったようで返事もくれないのでした。



【解釈・論考】

 モテる男として描かれることの多い主人公ですが、めずらしく空振りしている段です。どんなモテ男でも成功率100%というわけにはいかないということでしょう。


 この段の歌は、『古今集』雑上888に「(いにしへ)の しづの()だまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり」という歌から創作されたものだろう、と考えられています。倭文は古代の織物であり、「いにしへの」と「しづ」が縁語の関係になっています。そして「しづのをだまき」が「繰りかへし」を導き、下の句の「むかしを今に…」へと連鎖していくのです。たいそう技巧的で、それでいて厭味がなく良い歌であるように思われますが、女の心には響かなかったようです。女は女で、今の生活に満足しており、男とのアバンチュールを選ばない冷静さもまた、この段の面白さですね。


 時代は下って鎌倉時代、源義経の妻・静御前が鎌倉側に捕らえられた際、この歌の初句だけを「しづやしづ」と変えて頼朝の前で白拍子の舞を舞ったという伝説が残されています。この話は「(しず)苧環(おだまき)」という題で江戸時代、長唄にもされており、日本舞踊の題材にもなっています。

 時代を越えて愛唱された秀歌だったということですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ