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第三十段 つらき心のながく

【本文】

 むかし、男、はつかなりける女のもとに、


 逢ふことは玉の緒ばかりおもほえて

   つらき心のながく見ゆらむ



【現代語訳】

 昔、ある男が、ほんの少しだけ関係があった女に、次のような歌を贈ったのでした。


 お逢いしている間のことはまったく短く思えて、逢えない時間のつらさは長く思えることです。



【解釈・論考】

 「はつか」は、わずかという意味です。

 歌に関しては、「玉の緒」というのは玉を繋げる細ひものことです。平安時代では命を意味する言葉でもありました。なので、この歌では上の句が玉と玉の間の紐の長さの短さ、あるいは命の短さという意味を反映して「逢ふこと」のできた時間の短さを表現しており、下の句の「つらき心のながく」との対比となっているのです。

 この歌は『新勅撰集』の恋五にも「読人しらず」として採られています。

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