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第二十八段 あふごかたみに

【本文】

 むかし、色ごのみなりける女、出でていにければ、


 などてかくあふごかたみになりにけむ

   水漏らさじと結びしものを



【現代語訳】

 昔、色好みな女が家を出て行ってしまい、残された男は次のように詠みました。


 どうしてもう逢えなくなってしまったんだろう。二人の仲は水も漏らさぬほどに堅く結び合ったものだったのに。



【解釈・論考】

 またも女に出て行かれてしまう話です。ひょっとしたら第二十一段(出でていなば)の派生であるのかもしれません。


 歌については、「あふご」が逢う時という意味と、おうごという天秤棒のことを表す掛詞(古文で「あふご」と仮名表記された場合、読み方は「おうご」の音になります)。「かたみ」は難み(難しい、の意)と、筐(かたみ。竹かごの意)を表す掛詞。竹かごは編むものだから「結ぶ」を導く縁語。そしてその「結ぶ」は水をむすぶ(すくう、の意)と、契りを結ぶという意味を表す掛詞です。

 「あふご」「かたみ」「水が漏れる」「結ぶ」という村の生活での縁語に恋の意図をはめ込んだ歌という風になっており、貴族の詠んだ歌という印象はあまり受けません。掛詞が多く編み込まれているのが面白く、この歌を紹介したくて物語を創作した段であるのかもしれません。

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