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第十一段 雲居のほど

【本文】

 むかし、男、東へゆきけるに、友だちどもに道よりいひおこせける。


 忘るなよほどは雲ゐになりぬとも

   空ゆく月のめぐりあふまで



【現代語訳】

 昔、東国へ旅だって行った男が、その道中に京の友達にこのような歌を贈ってきたのでした。


 貴方達からみると雲の彼方ほどにも遠く離れてしまいましたが、私のことをどうか忘れないでください。空を行く月がまた帰って来るように、再び戻ってきますから。



【解釈・論考】

 伊勢物語には短い段が多くありますが、それだけに歌の佳さが際立つものが多いですね。この段もそういったものの一つです。月の満ち欠けを、「空ゆく月のめぐりあふまで」と言い換える点が実に詩的です。こうした自然物を人のように言い換えて自らの心情を託す表現は、現代短歌でもしばしばみられる技法ですね。


 さて、この美しい歌ですが、この歌は実際には『拾遺集』雑上470にある橘忠基の作品であるようです。彼が遠国に赴任するとなったとき、京の恋人に贈った歌であるらしいです。彼は天暦年間に駿河守に任命されていますが、これは在原業平が亡くなった後、約七十年後のことです。この歌を借りて主人公の東国への旅の歌として載せられたということは、『伊勢物語』が必ずしも業平の歌だけで成立しているのではないことの証明にもなるでしょう。また、この物語が時代が下るにつれていくつかの話が足し合わされたことも示唆しているといえるでしょう。

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