伊勢物語の成立と概観
伊勢物語の成立は、10世紀頃と言われています。今が21世紀ですから、おおよそ1100年程前にできた物語ということになりますね。同じ頃に成立した文学作品では「竹取物語」や「古今和歌集」があります。
伊勢物語のそれぞれの段は小さなストーリーといくつかの和歌で構成されています。このような和歌にまつわる説話を集めて一つの作品とするスタイルを歌物語と呼びます。ほとんどの段が「むかし、男ありける~」から始まる点が伊勢物語の特徴の一つですね。この一節をとって伊勢物語の主人公を昔男と呼ぶこともあります。
主人公は在原業平が擬せられています。これは、伊勢物語の歌の中のいくつかが、古今集などに在原業平の歌として詞書とともにおさめられていることなどから、そのように推定されたようです。
歴史上の人物としての在原業平をみてみましょう。825年生誕、880年死没。阿保親王の皇子にして平城天皇の孫です。兄に在原行平がいます。
在原業平についての記録がわずかに残っています。「日本三代実録」には「体貌閑麗、放縦拘わらず、ほぼ才学なきも、よく和歌を作る」と評されています。現代語で言うと、「スタイル良くてイケメン、性格は自由気まま、あまり勉強はできないが和歌は上手に詠む」といったところでしょうか。もういかにも女の人にモテそうな感じです。
「古今和歌集」でも六歌仙の一人として挙げられており、業平の歌について次のように評されています。「その心あまりて、ことばたらず。しぼめる花の色なくて匂ひ残れるがごとし」現代語に直すと、「心が豊か過ぎて、それを表す言葉が足りない。しぼんでしまった花が色を失って(言葉が足りなくて)、しかし匂い(溢れるような心)は残っているようだ」というような意味になります。情熱的な歌人であったことが伺えますね。
高貴な生まれで、臣籍に落とされた悲劇の人。イケメンで、自由気ままで、歌がうまい。実在の彼も、やっぱり多くの人を魅了するヒーローだったのでしょう。
以上、簡潔ではありますが概要をおさえたところで、早速本文に移っていきましょう。




