14 212年前 始祖の覚書
十一海母の月16日
この世界は完全ではない。
世界は争いと不平等に満ち、人の尊厳は富あるものの所にのみ存在する。
神は完全なる世界を創れなかった。
ならばどうする。 嘆くか? 壊すか?
それとも自分で完全なる世界を創らんとするか。
世界が不完全ならば、その不完全さを利用して生きる。
それが私、大魔導士ベルナルド・アマーリエの選んだ道だ。
世界は完全ではない。
完全ではない世界にはズレがある。
ズレはやがて溜まっていき、いつかそれが反動として現れる。
圧政に対する暴動。
乱獲に対する飢饉。
私の訪れたこのアサトリュークという国は、溜まった反動が解放されることなく、ズレだけが消えてしまっていた。
大陸中央に起こったアズマダー帝国は東西に版図を広げた。
アサトリュークも帝国の侵攻を受け、周辺同盟国に助けを求めた。
助けは来ず、アサトリューク半島全域が帝国に支配された。
半島を見捨て、北の連峰を守りの境界線とすることを選んだのだ。
帝国としても西海に面したアサトリュークさえ採っていればよく、それ以上は損害の方が大きいと判断した。
暗黙の裡に両者合意が為され、アサトリュークは生贄の羊として帝国に支配された。
それから700年。
アサトリュークは帝国の支配より解放された。
勝ち取ったものではない。
帝国で内紛が頻発し、その勢力を縮小させた、支配地域から撤退していっただけだ。
後に残ったのは、700年の支配で疲弊した国と、それを生贄の羊に差し出した周辺国だけ。
この国には行き場のない、貯められたよどみが蠢いている。
私がそんな政情不安定な国に赴いたのは、世界のズレを求めてのことだ。
世界には不完全ゆえのズレがある。
大地のズレは溜まり、やがて地殻変動を生む。
空のズレは光を貯め、雷を生む。
時間にもそのズレがある。
一角獣の月から始まり、一二熾翼の月まで12ヶ月。
一月はすべて30日。
一年は360日。
暦ではそうなっている。
しかし、私の観測した限りでは違う。
一年は365日。
正確には365と、四分の一。
四年で1460と1日だ。こうなっている。
だが、暦は問題なく運用されている。
計測が正確ならば、暦のズレが誰の目に明らかなズレとなって現れるはずなのだが。
それがないということは、時間のズレは、誰にも認識されず、その反動もまた誰にも認識されず解消されているということ。
世界には時間のズレを是正する力が働いている。
不完全を一見完全と見せかける力。
時間を正しき流れに戻さんとする力。
その力を魔力で利用し、時間に干渉する。
私はこれを時間魔法と名付けた。
その時間のズレが強く現れる土地を探して、私はこのアサトリューク半島にたどり着いた。
この国は混乱の只中にある。
帝国の支配から解放された民は、帝国にすり寄り甘い汁を吸っていた同胞を襲い、その富を奪っている。
各地に邦を名乗る勢力が乱立し、争いは激化の一途をたどっている。
そんな中でこの国を立て直さんとする一人の若者に出会った。
その若者だけは、私が会ったどのこの国の者とも違い、別のものを見ていた。
私はこの若者に協力することにした。
国勢が安定していないと時間魔法の研究にも支障があるからな。
……いいや、それだけもないか。




