13 2月12日 ダンサーの追憶
二角獣の月一二日 5
「君に足りないのは……そう、殺気だよ。うん」
それがモンテカルロが国立バレエ団の入団試験で試験官に言われた言葉だった。
「人を押しのけてまで訴えかけるものがない。テクニックは素晴らしいが感情表現に力強さがない。なんとなく楽しくて、なんとなく心地いいが、それだけでは足りない。そう、殺気が足りないのだよ」
なんだというのだ!
何が殺気だ!
ふざけるな!
モンテカルロがいかに異議を唱えようが、採用権は向こうにある。
それ以来バレエそのものが馬鹿らしくなった。
しかし、幼少期よりダンスしかやってこなかったモンテカルロに、他に口に糊する手段もない。
モンテカルロは今日も人にダンスを教えて暮らしている。
親に習わされてやる気のない子供たち。
幼き日の自分が内心で侮蔑して蹴散らしていたものたちに、己の研鑽の成果を教授せねばならない。
暇を持て余したマダム。
暇と性欲を持て余した醜怪な輩に迫られ、拒絶すれば教室の経営に支障が出るとオーナーよりクビをちらつかされる。
何故!
何故、自分がこんな目に会わなければならないのか。
あの試験官のせいか?
殺気とやらがなかったせいか?
……なら、身につけてやろうじゃないか。
人を殺す気。殺気とやらを。
普段から鬱屈していたモンテカルロ・フェルナンデスは、そのダンスの通りに優美で繊細な外見の持ち主。さらにその精神もまたダンスに準じるものであった。
ループに遭遇したモンテカルロは、その時間で人を殺すための技術を磨いた。
ただし、それは優美で繊細な精神のままやることではなかった。
二角獣の月一二日 27
人が死んだ。いや、死んでいないかもしれない。
確認もせずに逃げ出した。
モンテカルロは前回のループで磨いた殺人技術を初めて披露した。人を襲った。
ナイフで人を斬りつけた。
その瞬間、強烈な罪悪感に襲われた。モンテカルロはすべてを捨て逃げ出した。
一月にも満たない期間の訓練。元の筋力などは成長することがない。さらに凶器を振るうに至っても、美しさを追求した切り方。
これで本当に人を殺せているのか、はなはだ疑問だが、モンテカルロにとってそんなことはどうでも良かった。
彼は事故の犯した罪に絶望し、自己の感情に押しつぶされる。
相手のことは顔も思い出さない。
いきなり襲われて、結構印象に残る表情を見せていたのだが、まったく記憶にない。
あるのは自分のことだけ。
モンテカルロは罪に屈し、自害した。
美しく鮮血をまき散らして。
二角獣の月一二日 107
当然、モンテカルロは生きている。
死んでもすぐにループしていていた時に時間が戻る。
モンテカルロは何度も自殺し続けた。
そして、何度もループした。
何故、自分がこれほどに苦しまなければならないのか。
死による救済すら許されないのか。
勝手な事を思い、モンテカルロは悲嘆にくれる。
神よ! 何故! …………神?
モンテカルロの信仰する神は自死を戒めていた。
ループも100回を超えて、モンテカルロはいまさらそれを思い出した。
そうか、これは神が下された罰だったのですね。
モンテカルロは神に責任を負わせた。
自殺はできない。でも死にたい。死んで罪を償いたい。
同じ時間を繰り返すループ者は、罪人の証明。死こそふさわしい。
そこでモンテカルロは最近巷での噂を思い出した。
この王都に通り魔が出るという話だ。
すでに何人も被害者が出ており、治安維持局への不満があちこちで囁かれていた。
そうだ!
通り魔なら自分を殺してくれるかもしれない。
モンテカルロは身勝手な願望を抱き、王都の夜に出没するようになった。
もし、自分と同じループ者が、在任がいたら……。




