表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第2章:炎と蛇



炎に照らされた森の広場は、まるで悪夢の舞台のようだった。

アレックスはまだ膝をつき、荒い息を吐きながら、ゆっくりと近づいてくる戦士から目を離せなかった。彼の一歩ごとに枝が砕け、周囲の空気は灼熱のように重くなっていく。


「お前は……誰だ?」

額に汗をにじませながらも、アレックスは必死に落ち着こうと問いかけた。


カエルは薄く笑い、侮るような自信を浮かべて答えた。

「俺の名はカエル。太陽神インティのアバターだ。……そしてお前は、ただの虫けらに過ぎない」


アレックスは後ずさりしながら、必死に頭を回転させていた。ほんの数分前まではただの高校生だったのに、今や腕に刻まれた謎の紋章と神との繋がりを持ち、命を狙われている。


「俺に……何をするつもりなんだ?」


カエルは炎の剣を掲げ、刃先をアレックスに向けた。

「単純なことだ。他のアバターを全て倒し、インティの加護にふさわしい存在だと証明する。それだけだ」


言葉が終わるや否や、カエルは炎の奔流のような速さで突進した。アレックスは咄嗟に地面へ飛び込み、辛うじて剣を避けたが、炎の熱が袖を焼き焦がした。


『動け、若者!』

ケツァルコアトルの声が脳裏に響く。


「動いてるだろ!」

アレックスは叫びながら、必死に転がって次の斬撃をかわした。


カエルの攻撃は止まらない。剣の軌跡は炎の嵐となり、木々すら燃やし尽くしていく。

「逃げてばかりでは終わらんぞ! 立ち向かえ!」


カエルは剣を天へ掲げ、火球を生み出した。燃え盛る球体は瞬く間に大きく膨らみ、森全体を飲み込みそうなほどに輝きを増していく。


「……勝てるわけない!」

アレックスの心臓は激しく脈打ち、恐怖に支配されかけていた。


『では諦めるか? いや、違う。お前には我が力がある。風を感じろ。それを武器とせよ!』


ケツァルコアトルの声に突き動かされ、アレックスは一瞬だけ目を閉じた。ざわめく木々の葉、頬を撫でる風――その存在を強く意識した瞬間、腕の紋章が光を放ち、力が体を満たしていく。


「やってみる……!」


カエルが火球を放った。アレックスは咄嗟に腕を伸ばし、掌から突風が放たれる。炎の塊は逸れ、爆発が森を揺るがしたが、アレックスは立ち続けていた。


「今のは……?」

カエルは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。


アレックスは息を整え、口元に笑みを浮かべた。

「どうやったのか分からないけど……悪くないな」


再び炎の剣を構えたカエルは、さらに激しい攻撃を仕掛けた。だが今度はアレックスも応戦する。風を操り、攻撃を逸らし、素早く身を翻し、風の盾で刃を防ぐ。

それでも力の差は歴然だった。ついにカエルの一撃が肩を打ち、焼ける痛みが走る。


「悪くはない……だが力不足だ」

炎の剣を振りかざし、止めを刺そうとするカエル。


その時、突如として強烈な風が森を吹き抜けた。

アレックスの体は本能に従い、右腕を突き出した。すると光が集まり、羽を持つ蛇の形をした槍が手の中に生まれる。


立ち上がったアレックスは槍を構え、鋭く言い放った。

「……まだ終わってない」


カエルはその姿をしばし見つめ、剣を下ろした。

「面白い。今は見逃してやろう。だが次は容赦しない……ケツァルコアトルのアレックスよ」


そう言い残し、炎と共に姿を消すカエル。

広場に残されたアレックスは力尽き、膝をついた。


「……一体、何が起きたんだ?」

腕の紋章を見つめながら呟く。


『これは始まりに過ぎぬ。お前を狙う者は、まだまだ現れるだろう』

ケツァルコアトルの声は厳しさの中に、わずかな誇りを帯びていた。


星空を見上げながら、アレックスは胸の奥で理解していた。

――もう普通の生活には戻れない、と。


第2章・終



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ