第3話:「構文ってのは、祈るよりめんどくさい?」──マギアの文法と失われた除霊アルゴリズム
【1コマ目】
祈りってのは“感じる”もんだ!
文法なんて忘れちまえ!
悪いけどな、トランプ……
霊を感知するには文法が必要なんだよ。
【2コマ目】
いや、実は違う!
そのアルゴリズムはもう時代遅れさ!
ほら見ろ!
文法なんてゴミ箱行きだ!
【3コマ目】
最適解を達成したぞ!
さあ、“シナゴグΩ”に向かおう!
石造りの修道院、その地下にある円形の演習室。ノア・ウィンザーは、数列の書かれた白板の前で苦悶していた。
「違う……構文の第七位変調が、祈りの位相と同期していない。これじゃ“祈祷プロトコル”じゃなくて“構文矛盾”だ……」
その横で、ドーナル・トランプは腕組みしながら堂々と叫んだ。
「要するに! 祈りってのはもっとこう……心で“感じる”ものだろ? いちいち文法なんて必要か?」
ノアは額に手を当てた。
「あなたは間違ってはいない……だが、マギアコードでは“祈り”も“構文”として設計される。想念のゆらぎを、記号化し、同期させなければならない」
そこに、イセカイ・マスクがAI式ゴーグルを装着して入ってきた。
「まったく……君たちはまだ“除霊アルゴリズム”の旧仕様で喧嘩しているのかい?」
「……旧仕様?」ノアが反応した。
「うん。バチカンがかつて使っていた、構文ベースの“祓いの術式”は、20年以上前に破棄された。理由は簡単──構文が重すぎて、実戦で使えなかった」
トランプが叫ぶ。
「だから言っただろ! 構文なんか使わなくていいんだよ、魂の叫びをぶつける! それがアメリカンだ!」
「いや、物理的には構文を捨てられない」ノアは呟いた。「魂の共鳴周波数を定義するには、どうしても文法とアルゴリズムが必要になる」
マスクは苦笑しながら言った。
「じゃあ、折衷案だ。祈り構文をAIに最適化して、構文を意識せずに“感じるだけ”で動作するよう設計する……」
ノアは目を見開いた。「それってまさか……Project: Code-Free Prayer(コードフリー祈祷)?」
「そう。祈りの感情波形と構文トークンをリアルタイムで変換する。いわば、“意味”を超えたマギア」
トランプがガッツポーズ。
「それなら俺にもできるな!」
イセカイ・マスクは一歩踏み出した。
「次の目的地は、かつてそのアルゴリズムが封印された施設──“シナゴグΩ”だ。そこに、失われたコードが眠っている」
そして三人は、静かに地下演習室を後にした。
世界の祈りが、再び“構文”という名の迷宮に飲み込まれる前に。
次回:「魂の値段、いくらですか?」──金と祈りと、マーケットの神話
※この物語に登場する人物・団体・概念はすべてフィクションです。
実在の人物・団体・国家・超富豪・超天才とは一切関係がありません。むしろ、異世界の住人です。
*(1)...20年以上前にバチカンが廃止(改訂)した「構文ベースの祓いの術式」としてイセカイ・マスクが言及しているのは、**ローマ典礼儀式書(Rituale Romanum)**の中に収められた、悪魔祓いのラテン儀式を指しています。
1999年の「新儀式書」が悪魔祓いを改訂
バチカンは1999年1月に、従来の1614年版「De exorcismis et supplicationibus quibusdam」(悪魔祓いと特定の祈願)を改訂しました 。
※本作およびその世界観、登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨など)は、シニフィアンアポリア委員会により創出・管理されたオリジナル作品です。無断転用や類似作品の公開はご遠慮ください。