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親愛なる君へ


「ねぇ、おばあちゃん、私目が覚めないほうがよかったのかもしれない……」

 彩夏は、悲しげにそう呟いた。

 祖母は、彩夏の手をとりこう言った。

「そんなことは言ってはいけないよ。皆あなたが目覚めることを願っていたよ。あなたはこれから幸せになるの」

「おばあちゃん……」

「それにね、あの男の子、深彗君だっけ? 毎日面会に来てくれてね……あなたに話しかけてくれていたわよ。なんていい子かしらね……ふふふ」

 祖母は、柔らかな笑顔で彩夏を見つめた。

「深彗君が毎日来てくれたの?」

「そうよ……」

 そこへ、受け持ち看護師が訪床し会話が聞こえていたのかその話題となった。

「彩夏さんは眠っていたから知らないでしょうけど、あのイケメン君は、毎日面会終了時間まであなたと過ごされていましたよ。ひょっとして、彼氏さんですか?」

 彩夏は、その言葉に反応し頬をわかりやすいほど紅潮させ視線を泳がせた。

「水星君でしたっけ。彼は凄いわね。家族や看護師がいても気に留めることなく、あなたの手を握って沢山話しかけていたわよ。そしてね……これ話しちゃってもいいのかな……帰り際に必ずあなたの額や頬にキスしていくのよ~。も~見ていてこっちが恥ずかしいくらい。覚えてないなんてもったいない~! 彼、今日も来るわよ~彩夏さんを見たらさぞかし驚くでしょうね~」

 彩夏は、穴があったら入りたい心境だった。

「それなんだけど……深彗君はもうここには来ないよ。なんでもお父さんが体調崩したとかで、急遽アメリカに帰国することになったそうよ……昨夜あなたに会ってから帰ったよ。あ、そうそう、それでね、手紙を預かったの。あなたが目覚めたら渡して欲しいって」

 なんという運命のいたずらだろうか。二か月ぶりに覚醒したというのに、二人は会えずして離れ離れになってしまった。

 彩夏は、祖母から手紙を受け取ったその時、強い頭痛を覚えた。

「大丈夫ですか? 覚醒したばかりなのに頭を使い過ぎたのかもしれませんね。医師に報告してからお薬を用意して参ります。少しお休みください。その間何かあったらナースコールしてください。では失礼します」

 看護師はそう言うと、足早に病室を退室していった。

「無理をしないで少し休みなさい」

 深彗の手紙の内容が気になったが、言いつけ通りに少し休むことにした。




 彩夏が再び覚醒すると、病室の窓辺から煌々と差し込む月明りに包まれていた。

 月の光はなぜか太陽のようにあたたかく感じられた。

 彩夏は、まだ夢の中を彷徨っているような気がして、夢と現実の区別がつかなかった。

 ふと病室の窓から空を見上ると、澄み切った夜空にはひときわ大きな満月が燦然(さんぜん)と輝いていた。

 彩夏は、思い出したかのように深彗からの手紙を手にすると、月明りの中で手紙に目を通した。


 親愛なる 彩夏へ


 この手紙を読んでいるということは、君は覚醒したということだね!

 君はついに奇跡を起こした!

 ただ、僕は君の傍にいられないことがとても残念だ……

 君は寂しい思いをしていないだろうか

 悲しみに押しつぶされてはいないだろうか

 一人ぼっちで泣いていないだろうか 

 泣き虫で強がりの君のことが心配だ

 僕の頭の中はいつだって君のことでいっぱいなんだ

 ああ、今直ぐにでも君に会いたい

 君の笑顔が見たい

 そして、君を抱きしめたい……


 彩夏、いつか二人で見た満月を覚えているだろうか。

 地球のどこから見ても同じ月を見上げて、僕は君を想う……

 どこにいても僕たちの心はいつも一緒だよ

 僕は君を愛してる

 彩夏、必ず君を迎えに行く

 だから、それまで待っていてくれないか

 約束だよ

 あと一つだけ我儘を言ってもいい?

 手紙を書いてくれないか? 楽しみにしている


 水星深彗




 深彗に会えない寂しさはあったが、二人の想いは固い絆で結ばれていた。

 彩夏は、手紙を胸に月を再び見上げた。

 その柔らかな頬には、月の滴のように煌めく涙が幾重にも零れ落ちていった。



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