1.気づき
待ち侘びた11月、指定校推薦にしてそこそこの大学に合格し、周りより早く受験から解放された私はかなり満足していた。極めて頭がいいわけではない私が入るには十分すぎる程のネームバリューの大学だった。
小・中学校で特にスポーツに力を入れたわけでもなく、勉強に打ち込んだわけでもなかった私は身の丈に合った高校に進学し、小・中学校の延長の様な高校生活を送った。つまり、この大学に合学するということは私にとっては初めて身の丈をはみ出た瞬間といえた。
帰りのHRを終えた私は、この後も受験勉強の為に追い出されるまでこの場に残るであろう同級生たちを横目に教室を立ち去った。解放感と優越感によって異常なまでに浮足立った私は勢いのままに下校中遠くに見えた本屋に立ち寄った。何度も往復した登下校路ではあったが、本屋の存在は初めて知った。
というのも、毎日一人で登下校をしていた私にとって、群れて登校し、群れて生活し、群れて下校する生徒たちへの劣等感をは計り知れなかった。あろうことかその劣等感はここまでの約2年半弱まることもなくこともなく、重くのしかかったそれは視界にさえも影響を与え、狭い視野の中での生活を余儀なくされてしまった。これは、ただの被害妄想だ。
こうして、思い出された劣等感と存在していた解放感、優越感が中和され、完全に地に足がつき、私は極めて自然な状態で本屋に入った。嫌いでもなく好きでもない本屋特有の匂いの中で、先のことなど考える暇もない中学生たちに紛れ漫画コーナーに立ち寄った。受験を意識するようになった二年生の冬休み明けから半年以上たち、本棚の顔触れにはちらほら初対面の作品もあった。あろうことか私はその中から今最も世間から推されているだろう漫画に目がついてしまった。表紙には学ランを着たつり目の男の子、いわゆる学園モノだ。単行本を手に取り、近くに貼ってある店長によって書かれた作品紹介に目を通す。友情だの恋愛だのと、つらつらと書かれた文章の芯には私が目を背けてきた2文字の存在があった。その2文字は私が触れてはいけないもので、私には関係のないものだった。店長の紹介はこうして締めくくられた、「求めたすべての思春期たちに青春はやってくる。」
単行本を棚に戻し店を出た。私が青春の本来のあり方に気づいた日の出来事である。