平面少女
きみはまるで平面みたいだ。立体感がまるでない。
――いいところに目をつけました。さすがです。そうだよ、わたしは二次元で生きてるの。
なんだって。そりゃどういう理屈なんだい。
――あなたはすぐに理屈にこだわる。そんなことはどうだっていいじゃない。これがリアルなんだから。曖昧にしておいた方がいいことだってあるよ。
でもはっきりとさせた方がいいことだってある。きみの口からリアルって言葉を聞くと、なんだかスーパーロボットとリアルロボットで言うところのリアルみたいだ。まるでリアリティがない。
――リアルにリアリティなんて無縁ですから。それはそう。リアルはどこまでいってもリアル。リアリティは架空にだけ通じる合言葉。
彼女は平面だ。どこまでいっても平面だ。頑固なまでに平面だ。平面部分しか見せてくれない。そんな彼女に恋をした。だからデートに誘った。彼女は海が見たいらしい。海の近くで育った身からすると、海なんて珍しくもなんともないのだけど、海の近くで育ってない身からすると、海はとても魅力に溢れたものらしい。
だから横須賀線に乗って鎌倉の海にきた。
まさか部屋から出るなんてね。
――なにが言いたいの。
別に。ただ部屋から出たなあって思っただけだよ。口に出しちゃまずかったかい。
――まずいとかまずくないとか、いつもそんなことばかり気にしてるんですか。
そんなことはないよ。時と場合によるよ。いまはなるべくきみの機嫌を損ねたくないから。
――海にまで来て、小さいことを気にしないでほしい。わたしはあなたの言葉で機嫌が変わることなんてありません。
それはつまり、振られたってことかな。
――好きに受け取ってもらって構いません。どう思おうがあなたの勝手。わたしはあなたの気持ちに干渉したくないもの。
でもきみと一緒にいるってだけで、ぼくの気持ちは揺さぶられるよ。そしてなぜだろう。こんなに近くにいるのに、きみがすごく遠くにいるみたいだ。
――だってわたしは二次元で生きてるもの。どう頑張ったってあなたの近くになんて行けないもの。だから最初から頑張らないし、あなたにも無駄なことは考えてほしくない。
ぼくの気持ちに干渉したくないんじゃなかったっけ。
――それって気の利いたことを言ったつもりなんですか。
ぜんぜん違うよ。
――じゃあなぜ笑っているの。勝ち誇ったみたいに。不愉快。一応、言っておくけど、あなたの言葉で機嫌が変わることはないけど、あなたの態度では普通に機嫌は変わります。
それはつまり、愛の告白ということかな。
――ぜんぜん違います。
気づくとぼくは鎌倉の海にひとりでいて、それはまあ予想どおり過ぎて悲しくもなかったけど、せっかく久しぶりに部屋を出て鎌倉まで来たのだから、しばらくそのへんを散歩してみた。
リスがいっぱいいた。




