表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

第8話 首相親任式

平助が次期内閣総理大臣に指名された。

 

 と云っても指名したのは衆参両院ではない。

 ネット政変後、ネットで選ばれた閣僚・官僚人事委員会がそれぞれの部門の候補者をネットアンケートで告示、国民の信を問うのだ。

 そのネットアンケートで投票できるのは、政府が主催・運用するネット政治教養講座で規定の単位を修得した者に投票権が与えられる。

 つまり、現状全国民の約7割以上に投票権があり、国民の向上心と努力次第で投票権の保有率が変化する。


 その厳しい(?)選考手続きを経て竹藪平助が第5代次期内閣総理大臣に選任されたのだ。(平助が招集されたのは第4代内閣が一年の研修を経て発足した直後であり、その第4代の任期満了に伴い、研修を終えた平助が5代目を引き継いだ。)

 それと同時に他の閣僚たち、上級官僚たちも選任される。

 そして平助は皇居に於いて次期首相親任式を受ける。

 つまり、衆参両院の名目上の議長(ネット案件審議・諮問委員会メンバーの長)の見守る中、天皇の国事行為として「次期内閣総理大臣に任命します」との宣言を受け、官記(辞令書)手渡された。

 


 もちろん下層庶民に過ぎない平助が皇居に赴くに相応しいモーニングの礼服など持っているわけがない。

 この場合、専門の政府御用達貸衣装屋さんの斡旋で、一日500円のレンタル料金(格安でしょ?)で借り受け、天皇謁見に臨む。

 

 えッ?タダじゃないの?貸衣装代は政府負担じゃなくて自己負担?だって国事行為でしょ?

 あまりにセコ過ぎない?

 実際、後日貸衣装屋さんから500円の請求書が来た。

 その領収書を持って板倉の所に行っても、ソッポを向いて受け取ってくれなかった。

 日本国政府って、もしかして正真正銘のブラック企業?そうした思いが平助の頭の中をマジによぎったのは言うまでもない。


 だけど流石に皇居までの送迎用車両は無料で出迎えてくれた。

 (と云っても後述するが、こちらの車両も実にセコイ!)


 緊張した面持ちで生まれて初めて皇居内に入る。

 首相専属教育係の板倉から何度も任命式の手順のおさらいを受けるが、顔が引きつり、手が震えるのは仕方ない。

 そして極度の緊張のあまり、幾度練習しても頭の中に手順が入ってこない。

 実際過去の事例でも、政変前の新任衆議院議長が緊張の末、手順を間違え、天皇に宣誓書を直接手渡してしまう凡ミスをしてニュースになっている。

 それ程天皇に拝謁すると云う事は緊張を強いられるのだ。


 板倉から多少の細かい指摘を受けたが、何とか宮殿【松の間】で親任式を終えた平助。

 (やれ天皇を前にして、足が短いくせにガニ股っぽかっただの、ニヤけて締まりの無い顔してないで、もっとキリとした男前の表情をしなきゃダメだの・・・・・って、親から授かった生まれつきの顔にケチつけてんじゃねぇ!これが精一杯だっつうの!!)


 そんな難問の壁を何とか乗り越えた平助に、息つく間もなく次の難題が待っていた。


 それは研修終了後、首相に着任後、公邸に住むかどうか?を決めなければならない事である。


 首相公邸とは代々の首相が住まうための住居。

 首相としての執務を執り行う首相官邸と同じ敷地内にある。

 そこは元々、1929年(昭和4)に建てられた首相官邸であった。

 近年老朽化から新官邸が建てられた後、全面改修の末、元の官邸が首相の住まい(公邸)として再活用されることに。

 でも元官邸だったために、その威容は庶民の平助には恐れ多過ぎた。

 だって元官邸だよ。

 内閣発足や改造のたび、その旧官邸の赤じゅうたんの階段に新閣僚たちが並び、記念撮影が行われた所だよ。

 皆、一度はニュースで目にした事あるよね。

 

 他にもあのエリザベス女王やアメリア大統領だの世界のVIPである各国要人と会見した場所であり、式典や晩餐会の会場だのに使われた大ホールが備わっている本格的な施設だよ。

 

 しかもあそこは犬養毅元首相が暗殺された1932年の5.15事件や、青年将校がクーデターを決行した1936年の2.26事件の惨劇の舞台となり、幽霊が出るとのもっぱらの噂がある有名な心霊スポットでもある所だよ。


 いくら体面と警備上の都合があるからって、そんな有名過ぎて怖い場所にひとりで住めってかい?

 ・・・・無理!無理!!無理!!!

 

 という訳で平助は元から住んでいる私邸、一階が町中華『蓬莱軒』の二階にある六畳二間のボロアパート【むつみ荘】(ボロ、ボロって言うな!住めば都って言うじゃない?)から遥々《はるばる》正式着任後も官邸まで通う事となった。

 

 そこで登場するのが前述していた皇居までの公用送迎車。


 それがまた、何とも言えない妙チクリンなんだなぁ。


 普通、要人の公用車と云ったらベンツだのロールスロイスだの、センチュリーだのといった高級車でしょ?

 ところが平助を迎えに来たのはスーパーハイトワゴンの軽自動車(例えばホ○ダN‐b○xやス○キ・スペー〇ア、ダイ〇ツ・タン〇等のような背の高い車)だった。しかも改造車。

 窮屈の何のって、話にならないくらいヘンテコな改造をしてんだもの。

 だって、送迎を受ける平助が後部座席に座るのならまだしも、その後部座席には、対テロ組織からの逃走・回避用に取り付けられたターボエンジン+ニトロジェットエンジンまで装備されているから誰も座れない。

 つまり座れるのは前席のみ。その前席をベンチシートに改造し、右から運転手、平助、護衛用のSPの大人3人が座ることになるんだ。

 想像して欲しい。

 ハマーのようなでっかいアメ車なら横一列に大人4人が座っても余裕だが、軽自動車だよ、3人だよ。両脇がきれいな女性だったなら(無意味な男のさがの願望)・・・・・・・って、それでも窮屈だと思うが。男だよ!男3人で狭い車室にひしめき合うって、はたから見ても滑稽でしょ?


 こんな使えない車を考えたのは誰?

 大体東京の狭く渋滞が日常化している道路環境で、襲撃を回避するために逃げるって、一体何処にどうやってに逃げるんだい?

もしかしてこの車の改造を考えた人、アンタって馬鹿なの?



 そう云う事情から止む無く自転車で官邸に通うことにした。

 それも近郊のホームセンターから3年前に12、800円で購入した格安ママチャリに乗って。


 平助のボロアパート(だから!ボロって言うな!!)から官邸まで片道十数キロもあるので、通うだけでヘロヘロになる。

 せめてこのママチャリを買うとき、ケチらないで電動パワーアシストのチャリにすれば良かったと後悔するが、今となっては仕方ない。

 日々官邸までの通勤にママチャリでエッチラ、ホッチラ、ペダルを漕いでゆく平助が見られた。


 しかしこの時まだ平助は着任まで一年にも及ぶ研修や各省庁への実地研鑽が待っているとは知らなかった。


 ホントだよ。







       つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ