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第二話 池崎社長攻防戦



第二話 池崎社長攻防戦



 メンマ工場で働く平助は、ある日社長室に呼ばれた。


 白い作業帽・白い作業服・白い前掛け・白ゴム手・白ゴム長姿の白ずくめ作業服姿で「何事か?」訝しく思いながらも平助はドアをノックする。

 相変わらず室内には変な額が飾られていた。

 薄い髪の毛の池崎社長の背後の壁には『メンマは世界を救う』だの、対面の入り口ドアの上には『メンマ道』だの、意味不明の文言の、下手な毛筆の書が掲げられている。

その書が暗示する通り、一代の築き上げ叩き上げで、どこか変なこだわりを持つ池崎社長。 

薄毛の上に絶えず湯気が立っていそうなバタ臭く、人懐っこい熱血漢であった。


「やあ竹藪君、来たか!どうだい?最近作業仲間のおばちゃん達と上手くいってるか?

あの口から生まれた遠藤さんや、作業の手つきは早いが、休憩時間の終わりがやたら遅い高橋さんなんか、一筋縄ではいかないだろう?それにいつも休憩室のテーブルに駄菓子だの烏龍茶だの山盛りに置いていく古畑さんは、ここに何しに来てるんだろう?と不思議に思うよ。まさか仕事しに来ている訳ではないだろう?」

「さぁ、私にも分かりません。」

「君も大変だな、それは同情するよ。誰も君の言う事を聞いてくれている風でもないし。」

「そうなんですよ、私なんか若造扱いされて、いつも手玉に取られているんです。

何とかしてくださいよ。」

「でも業務主任の君がそんなじゃ困るな。君の若さと実直さには期待してるんだぞ、ヨッ!!わが社の期待の星、竹藪君!!」

「そんな事言っても・・・、彼女らは私の事おちょくって、平助なのにワザと「助平君」なんて呼ぶし。」

「プッ!『助平君』か!言い得て妙だな!名は体を表すとはこの事だ。」

「アッ、社長まで私の事を揶揄からかうんですか?もう誰も信じられない!!」

「だって君、どう見たって顔が助平君じゃないかね?時々見せるその垂れた目がそう思わせるんだよ。」

 「失敬な!こんなキリッとした阿部寛みたいに真面目な顔を!!見て見て!世間では皆そう言ってますよ。」

 「何処の世間でんねん?君の顔は確かに『クラーク・ゲーブル』や『谷村新司』のような男前だが、ニヤケた時の顔は典型的なムッツリ助平だぞ。」

 「『クラーク・ゲーブル』や『谷村新司』って誰?」

「知らなきゃ、知らないで良い。古いスターたちだよ。

 ところで今ここに来てもらった要件だが・・・」

 「社長、勝手に話題を切らないでください。

私は竹藪平助!!いいですね、真面目実直な好男子、竹藪平助ですよ!!ハイ!」

てのひらを社長に向け反復を促す平助。

「真面目実直な好男子・・・って、どさくさに紛れて、好男子かい?大いに意義ありだけど・・・竹藪平助君!!これで満足しただろ?そろそろ話題を変えて良いかね?」


これらの会話から威厳もヘチマも無いと分かる【池崎食品】池崎社長。

熱血漢である事と、誰に対してもフレンドリーなだけが取り柄であった。






「エッ?私に総理大臣になれって?何、たわけた事を!!気でも狂ったんですか?」

「私もそう思うよ。でもな、政府から立候補の要請が来ている以上、誰かを人身御供に出さないとな。」

「僕は人身御供ですか?でも、何で僕?」

「だって君は『真面目実直な阿部寛のような好男子』だろ?だったらいいじゃん。」

「人の言葉を逆手にとって、揚げ足を取らないでください。

確かに僕は『真面目実直な阿部寛のような好男子』だけど、それと総理大臣の資質は関係ないじゃないですか。」

「勝手に都合よく既成事実化してんじゃない。・・・って争点の本質がずれてないか?

政府からの要請では、総理大臣の資質なんてどうでも良いんだと。

真面目に働き、低賃金でも文句を言わない正直な労働者が理想なんだと。知らんけど。」

「僕は別に低賃金に満足している訳でないし。社長がケチで給料を上げないだけだし。」

「ケチで悪かったな。だって仕方なかろう?こんなご時世なんだし。・・・そんな事言いたいんじゃない。わが社の中で政府の要請に一番適任なのが竹藪君なんだよ、私だってこの忙しい時に、こんな安い賃金でも文句を言わず働いてくれる君を一時的であれ出向させるのは痛手なんだ。」

「ホラ、低賃金を認めた!!」

「だから、争点はそこじゃないって言ってるだろ?

君を人身御供に出したら、政府からたんまり協力金という多額の補助金を出してくれるんだと。でなきゃ、誰がそんな要請に応えるか。」

「出たよ!社長の腹黒い本音が!!」

苦虫を潰したような顔で

「とにかく社長命令だ!竹藪君、君を我が社の代表として総理大臣の最有力候補として強力に推薦する。

 たった一年の任期だ。会社の為だと思って快く立候補してくれ。後の骨は拾ってあげるから。」

「骨を拾うって・・・、立候補って・・・。どうやって立候補するんですか?運動資金は?支持してくれる組織は?選挙カーはどうするんですか?社長が出してくれるんですか?

 「私の命より貴重な銭で、誰が君のためにそんな用意をせにゃならんねん?そんなもの、何一つ要らないんだよ。

そんな事も知らんのか?数年前のネット政変以降、様々な制度改革があったのを。

猫でも杓子でも取るに足らない竹藪君でも、誰でも立候補して当選できる仕組みになったって。」

「出たよ!銭ゲバ社長!!『猫でも杓子でも取るに足らない竹藪君でも』って・・・酷い!」

「四の五の言ってないで、この書類にサインしなさい。それで立候補完了だ。

ハイ、あとはヨロシク。」

「そんな簡単なの?それで良いの?」

「それでいいのだ。」



かくして立候補は受理され、信じられないことに平助は、新生ネット政府の正式な第6代内閣総理大臣に任命されるかも?の状態に陥った。


嘘でしょ?嘘だと云って!!



本当です。






   つづく


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