自分が井の中の蛙ですらなかったなんて
宰相の息子であり、王子殿下の側近である私、シャガには出来の悪い婚約者がいる。
今日は学園での前期試験の結果が発表された。
しかしながら私の婚約者の名前がない。
これは由々しき事態だ。
このような出来の悪い婚約者など時期宰相である私には必要ない。
これは父上に相談して婚約を破棄せねば。
もちろん理由は彼女の出来の悪さだ。
わたしには相応しい人が別にいるのだ。
早く父上に相談せねば!
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「お前は何を言っているのだ?」
「ですから、優秀な私には婚約者であるジャスミンでは釣り合いが取れません。
私にはもっと優秀な…。」
先程から父上との会話は平行線を辿っている。
「愚かだとは思っていたがこれほどまでとはな…。」
「父上、何を…。」
「お前が度し難い愚か者だと言っておるのだ!」
「そんな、私のどこが…!」
なぜそんな罵倒をされねばいけないのだ。
私は王子殿下の側近でこの家の嫡男であるのに!
「その何もわかっていないところが愚かだと言っておる。
高位貴族では常識である事すら知らんとはな。家庭教師は何を教えておったのだ!
お前の弟であるクロッカスは理解しておるのにな。シャガ、お前は何をしてきたのだ?」
「私が二つも下の弟にも劣ると仰るのですか!?」
「あぁその通りだ。お前が試験結果の貼り出しをされている時点でな。
いや、入学試験の結果が出た段階でお前にはもっときつく言っておくべきだったか。」
「そんな…なぜですか?」
なぜ今更に半年以上前の学園の入学試験のことを言われるのか?
しかも2歳下の弟より不出来などと!
「我々高位貴族は学園の入学前には基礎的な部分は自宅学習で終わらせておくのが一般的だ。低位貴族でも裕福なところもまたそうだ。」
「…はい。」
「入学試験とはそれがきちんと身についているかの確認のために行われる。
そこで一定の点数を取れば、1年次の基礎の勉学を免除するための試験を受けることができる。」
「え…?」
「その試験に合格すれば卒業試験を受ける資格を手に入れることができる。」
「は…?」
「その状態で入学した者は、1年次の試験など受けん。もっと高等な学術を学ぶために日々取り組んでいるのだから必要がない。」
「な…!」
「つまり1年次の試験に成績が貼り出されている段階で、お前は高位貴族としての頭脳も常識も持っていないと周りから判断される。
なぜ気づかん?貼り出されている者が低位貴族ばかりだということに。」
「そ、そんな…。」
意味がわからない…入学試験や1年次の試験にそんな裏の意味があるなんて!
誰も教えてくれなかった!
それに基礎などいつでも学べるものよりももっと高度なものを学びたかったから、家庭教師にはそう言った事をメインに教えてもらっていた。
基礎はできているからと。
なのに私は入学試験の一定数を取れず、その免除となる試験にも進めていなかった。
そんな馬鹿な…。
「しかも自分を優秀だと言いながらその中で1番ですらないとはな。」
「…っ!!!」
確かに私は1番ではなかった。
だが学費免除の特待生として入ってきた準貴族や低位貴族の者が頑張ったせいだと思っていたのだ。
学園には平民はいないので、貴族の中でも下の方の者が頑張った証だと思い込んでいた。
私も男爵令嬢の勉強を見ながらだったので、自分の勉強が足りてなかったと少し後悔はしていたが、それすら間違った認識だったなんて。
「貼り出されているのが30位程度なのもそのせいだ。それはその学年の下位を貼り出しているのだからな。
名前がないのは試験を免除されているか、落第者かのどちらかだ。」
「…私が下位…この私が…。」
下位30位の中の一員だったなんて…
そんなことありえるのか!?
この私が!
「ちなみに入学試験時に何らかのことで、例えば当日の体調の問題だったり、極度の緊張から力を発揮できずに成績が振るわなかったとしても、再度試験を受け直しを申請して合格すれば問題なくなるという救済措置もある。
それを知っている者は入学してすぐに努力してその権利を勝ち取る者が大半だ。
お前はそれを知ってさえいなかったようだがな。」
「そんな…そんなぁ!」
私が無知だと言うのか?
誰も教えてくれなかった!
いや…そういえば最初に基礎を教えようとした家庭教師にそれは完璧だからと遮ったのは私だ…まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったんだ!
「お前の婚約者であったガーデニア嬢はもちろん免除されている。
そしてお前の入学試験の結果によって既に婚約を解消している。
お前程度に優秀な彼女は勿体ないからな。
だからこれからは彼女を呼び捨てなどするな!お前が捨てられた方なのだからな!」
「まさか…!」
私が捨てられた方?
私とジャスミンとの婚約がそんな前に解消されていたなんて…。
それも私に釣り合わないのではなく逆だなんて!
確かに入学以降、学科が違うせいもあって顔を合わせる機会はなかったが。
でもまぁ婚約のことはいい。
気に食わない相手との婚約が解消になったのだ。喜ぶことはあっても悲しむ事などない。
「それも一応お前には伝えていたはずだが、最近のめりこんでいる令嬢を最優先にして、殆どの事が疎かになっていると聞いていたからそんな事だろうと思っていたが。」
「!!!」
まさかロベリアのことを知られていたなんて…
自分の言動が父上に筒抜けになっていたことに気づき羞恥心のせいか顔が熱くなっていく。
「この私が、宰相である私が知らないとでも思っていたか?
幾ら学園の中とはいえ情報収集してないはずなかろう。」
「…!」
「入学試験の段階でお前のことは、様々なところで議題に上った。
そしてこの半年お前の様子を見ていたが、改善の余地なしと判断された。
お前は学園を退学して領地に行ってもらう。」
私が学園を退学…?
貴族として入学卒業が義務付けられている学園を退学?
そんなこと許されるわけがない!それに…
「私には殿下の側近という…!」
「お前は側近候補でしかない。あくまでも宰相である私の顔を立てたための候補で、正式な側近は既に他に選ばれている。」
「え…?」
私は殿下の側近ではなかった?
そんなそんなそんな!
私は今まで殿下のために頑張って来たのに、実力ではなく父の権力によって側近候補として侍っていたなんて!
「正式にお前とオダマキ伯爵令息は側近からは落とされた。
オダマキ伯爵令息もこの半年間様子見されてきたが、改善の余地なしとされて一足早くに領地の方の騎士学校に入れられたそうだ。」
「彼奴も…?あのような脳筋と同じだと言うのですか!?」
「あぁそうだ。」
「そんな…。」
ガウラ・オダマキは殿下の護衛を自負している騎士家系の伯爵家の次男だ。
父親は騎士団の団長を務められている。
彼奴は脳筋で声が大きく昔から目障りではあったが、そんな男と同レベルだと?
アイツが落とされるのはまだわからなくはないのに、なぜ優秀な私までも!
「3日だけ待ってやる。その3日で身辺整理をしておけ。話は以上だ。」
そう言って私は父の執務室から追い出された。
正直言って意味がわからない。
私はこれから優秀さを見せつけて殿下の治世を支える宰相になるはずなのに!
父上だって、私に期待をかけていたはずだ。
こんな簡単に嫡男である私を追いやるなんて、どう考えてもおかしい。
そうだ、殿下!
殿下は私のことを買っていて下さったはず。私から殿下に進言すれば殿下から父に取りなしをしてくれるはずだ!
これは直接殿下に直談判せねば!
即座に殿下に手紙を書いて従僕に急ぎ行かせた。
そして使用人に自身を外着に着替えさせて、再度学園へと戻った。
今日は確か、殿下は学園へと来られている日だ。
私は父上への報告のために今日は早くにお側を離れたが、この時間であればまだ学園に残っておられるはず。
急ぎ学園へ戻り、殿下を探せば向こうから護衛を連れて歩いて来られるのが見えた。
即座に殿下に近づき、お時間を取ってもらえる様にお願いする。
「先程、先触れがあったかと思いますが…。」
「あぁ、知っている。」
「少々お時間を頂きたく。」
「ここではダメなのか?」
「ここでは少々差し障りがありまして。」
「ならこのまま付いてくるが良い」
「はっ!」
殿下についていけば、生徒用に開放されている談話室の一室に着いた。
私のために先に部屋を取ってくれていたのだろうか?
ならば私は殿下に見放されてなどいないはずだ。
談話室のソファにローテーブル越しに殿下と向かい合って座る。
どう話そうかとまごついていると、徐に殿下が口を開いた。
「で、ようやく自分の立場を理解したと言うことかな?」
「は?それはどういう…。」
徐に口されたのは温和な表情から飛び出たものとは思えない冷たい声。
「なんだ、宰相から説明を受けたんじゃなかったのか?
私の側近候補から落第し、自身の父親からも見放されたということを。」
「…そんな…で、殿下は知って…。」
「もちろんだとも。私の周りに侍る者の素行や成績、交友関係なども把握してるのは当然
私の周りに侍る者の素行や成績、交友関係なども把握してるのは当然だろう。」
「…。」
全て殿下に把握されていたなんて。
確かに尊き殿下に侍る者を調べるのは当然だが、それが幼い頃から近くにいた私にも適用されていたとは思っていなかった。
「お前は気づかなかったか?
婚約者がいるはずのお前が、他の令嬢を優遇して優先しているのに誰も咎めなかったのを。」
「…!」
確かにジャスミンという婚約者がいるのに家格の低いロベリアを近くに置いていた。
特に疾しいことはしていないので隠すことでもないと思い堂々としていたが、誰かに何かを言われたことはなかった。
「お前は隠そうともしていなかったから、例の男爵令嬢との逢瀬は多くの人の目についていた。
だがお前は自分に婚約者がいると言いながら男爵令嬢を置いていた。
そんな不貞、まぁ実際には婚約者はおらずそうではなかったが。
詳しい事情を知らない者からすれば平気で不貞を堂々としていたのだお前は。
そのせいで私に対してお前を側に置いておくのか?と言った視線が多く飛んでいたと言うのに。」
「なっ!」
今更ながらに羞恥心が湧いてくる。
彼女との逢瀬を見られていたなんて。
自分達の世界の中でいたふわふわした甘美な記憶が急激に萎んでいく。
不貞をしているつもりはなかったのだ。
だが実際にその時どうだったと言うのは自分でも言い表せない。
ただ自分の理解者を得たことの喜びでいっぱいだったように思う。
だがそんな浮ついた私のせいで殿下に恥を掻かせていたと言うのか…。
「私はお前に何度か忠告したし、周りも言っていたはずだ。
『自分の立場を理解し努力に努めることをしろ。』と。」
「あれは殿下の側近としての自覚をもつことかと。」
忠告は曖昧だったので、自分は努力していると内心反発していたのかもしれない。
殿下には言わなかったが、同じく側近(候補)としていた子爵家の嫡男には「わかっている!」と強く答えたものだ。
「もちろん、その通りだが、宰相を親に持ち高位貴族の長男であるのに、学園の基礎と常識が身についていない者を側に置くことはできないからな。
しばらく勉学に励めと側から離したのにも関わらず、その時間を男爵令嬢との逢瀬に割き、結局は前期試験ですら5位に甘んじているとは嘆かわしい。
それにも関わらず周りを見下すなんてな。」
「…そんな私は…。」
私は頑張っていたはずなのに…私の努力は…。
「お前の頭脳など下から数えた方が早いくらいなのにな。
なぜ自分が一番賢いなどと思っていたのか理解に苦しむ。」
「…殿下…そんな…。」
私はそんなに愚かだったと言うのか?
そんな…私は努力して殿下の側近として…。
それに私の高度な会話に殆どの者がついて行けなかったのに。
そんな私が下から数えた方が早い馬鹿なんてことが!あり得ない!
「先日、お前の父親である宰相からお前の廃嫡を報告された。その上で私の側近候補からの落第も伝えると言っていた。
それが今日だったのだろう?」
「…。」
私の廃嫡も知っておられた。
まさか今日のこの私の行動も殿下は予期していたと言う事なのだろうか。
だからすぐに談話室を用意してこの場を作ったと言うのか?
私を引き上げるためではなく奈落に落とすために。
「まぁ多分お前と会うのはこれが最後となるだろう。お前とはそれなりの付き合いで情は多少あるが、それだけだ。」
「…情。」
「あぁそうだ。お前は自分の正しさを押し付けて周りに迷惑をかけて来たからな。」
「…迷惑…!?」
「あぁ、お前が口を出すことで面倒なことがそれなりにあったのに、お前は気付かないからな。
その尻拭いに私の本当の側近達に仕事を増やさせたのは困っていたよ。」
「私が困らせた…。」
「だから私は多少の情があれど、信頼も信用もしていなかった。」
「そんな…。」
信頼も信用もされていなかった…?
私のアイデンティティが脆く崩れていく音が聞こえた。
私は迷惑者で愚かで役立たずだと突きつけられた。一番信頼し崇拝していた殿下に…。
「ガウラ・オダマキも私の護衛兼側近を自負していたが、私は内心認めていなかった。
彼奴もまた彼奴の父親の顔を立てていたからでしかない。
彼奴は入学試験成績から、同じ学園に通う必要がないと判断しても良かったが一応温情をかけたが…まぁ無駄だったな。」
殿下の声に嫌悪感が漂う。
相当嫌々側に置いていたと言うことが嫌でも理解できた。
知らなかった…殿下がガウラに対してここまで負の感情を持っていたことを。
「ガウラは素直だが、知ったことを平気で周りに話す悪癖があった。
悪気はなく聞かれたらそのまま答えていたのだろうが、私の側近にそんな馬鹿はいらん。
その様な者はスパイと変わらん、スパイよりタチが悪い。」
「スパイ…。」
「彼奴は耳がいいせいか色んな情報を得てくるところは重宝していた。
利用する分にはいいが、こちらの情報まで垂れ流されては敵わん。
私の護衛を勝手に自負しておきながら、私の足を平気で引っ張るような者は私は認めない。」
利用、スパイ…価値がない者には容赦のない冷たい声に凍えそうになる。
自分のことを言われたわけではなくとも、私自身を認めていないと仰ったこともあり、ナイフで切り刻まれるような痛みが走る。
それにしても今まで見て来た殿下と目の前の殿下は同じ人物なのだろうか…?
「はっ!私の表層しか見てないお前には寝耳に水と言ったところか。
慈愛に満ちた温和な顔の王子がそのままの性格で、こんな伏魔殿と言った王宮を渡り歩けると思うたか?」
「それは…。」
「それは?」
「…難しいかと。だからこそ側近である我々が…!」
「お前はあくまでもお情けの候補だ。」
「…!」
「私は普段温和な王子という仮面をかぶっている。
それは私が信頼している者は知っている。その上で動いてくれる。
もちろん我が婚約者もそうだ。」
私は本当に信頼されていなかったのか…。
宰相の父を持ち侯爵家の嫡男である私を…。
お情けの候補…ははっ!とんだ道化師だ。
いつも私にはにこやかな顔しか見せてもらえてなかったのだと知る。
「私が欲しかったのはお前の婚約者であったガーデニア伯爵令嬢の方だ。
彼女の優秀さと真面目さと忠誠心の高さを私は評価している。
私の未来の伴侶にはガーベラしかいないが、そのガーベラを支えてくれるのに彼女はうってつけだった。お前はそのおまけでしか無い。」
「ジャスミンが…?私がおまけ…?」
ジャスミンが私のおまけでなく私の方が…?
そんな…私が…父に言われたことを殿下にまで言われて立つ瀬がない。
「お前を宰相に推挙はできんからな。実力がないしお前より優秀な者も多くいる。
わざわざ使えない人間を重要なポストにつけられない。
それに宰相は別に世襲制ではない。
お前の祖父と父親は優秀であったためにその職に親子二代で就いたが、お前では無理だ。」
「…私は未来の宰相として…研鑽を積んで…。」
使えない人間…そこまで…。
今までの私の努力は一体…。
私は父上と同じく宰相を目指していたのに!
「お前の努力を全て否定するつもりはないが、お前はずっと独りよがりだった。
周りの意見に少しでも耳を傾けていればわかることばかりなのに、お前は勝手に周りを見下し自分がいかに高尚な人間かと思い込んでいた。
その結果がこれだ、全てはお前がしてきた事だ。」
「そんな…。」
全ては自分の責任だと言うのか!
私はずっと努力していた。周りは私の高尚さについていけないものばかりだっただけなのに!
「当初はガーデニア嬢と共に私の治世を支えてもらえるように、お前にもある程度のポストを用意しようとは思っていた。
宰相は無理でも言われたことを熟すことはお前は得意だからな。
だが入学試験のことでストップがかかった。
そしてこの半年様子見されて来たが改善の効果は期待されなかった。これでもだいぶ温情をかけて来たが、私の言葉ですら聞かないなら無意味だと思われた。
そしてその前からお前は周囲の人から嫌われていた。その傲慢さで。
総合的な結果から今回のことにあいなった。」
言われたことだけを熟すしか無い者だと言われて更にショックを受ける。
しかも殿下の言葉ですら聞かない愚か者だとも突きつけられた…。
崩れていく自尊心が更に跡形もなく壊れて風に煽られてどこかへ行ってしまうのを感じる。
ソファに座っているのもやっとで、少しでも力を抜けば倒れ込んでしまいそうだ。
「人望がない者は淘汰されるし、周りからの妨害も受けやすい。私の側近にそんな者がいれば私の瑕疵になる。
優秀であるが故に求めるものが厳しく周りから恐れられているのと、傲慢で自分の主張だけが正しいと喚いて避けられるのは違う。
お前は残念ながら後者の方だ。」
私が殿下の瑕疵になる…。
そこまでのことをしてきたと言うのか?
しかし側近(候補)として殿下の側にいたが、私とまともな会話ができる者は確かに殆どいなかった。
積極的に会話をしてくる者もいなかった。
高尚な私について行けずに遠巻きにしているのだと思っていたが、そうではなかったということなのか…。
「そうそう、言い忘れていたがお前が側に置いていた男爵令嬢はお前を試すハニートラップ要員だ。」
「え?ロベリアが…?」
そんな…ロベリアがハニートラップ要員?
しかも殿下が仰ると言うことは王家からの試練?
私はずっと試されていたのに気づきもせず、自分の賢さに酔い、既に解消されている婚約をロベリアのために破棄しようとしていた?
ははは…これ以上ない道化だ。
先程も思ったが、それ以上ないくらいに虚しさが胸を締め付ける。
ロベリアだけが私を理解してくれる理想の女性だと思っていたのに…。
あれが全て演技だったとは…。
「あぁ。一応ガウラにも用意したが、あれは男女の機微には幼かったらしく、結局は彼奴の自尊心をくすぐるのが上手い男子生徒をつけた。」
「…そう…ですか…。」
ガウラには今は確か婚約者はいなかったはずだ。何度かガウラのせいで解消していると聞いた。
婚約者より鍛錬。
殿下のための“自分”が第一。
尊き殿下の護衛となる“自分”に、相手が合わせるのが当然と豪語していたから、そのせいだろうな。
私も彼奴の尻馬に乗って、自分の予定や考えに相手が合わせるのが普通だと同意していた…今思うとどうかしていたのがわかる。
「これでわかったか?」
「…?」
「最初に言っただろう。お前の立場を理解したか?と。」
「…はい。」
ここまでどん底に追いやられてプライドをへし折られれば理解せざるを得ない。
私は愚か者だったと言うことに。
何も知らない無知で無能であったことに。
周りから見放されていることに。
「ではお前の進退についての話はここまでだ。これ以降は自分を省みて、今までの事をこれからの事を真剣に考えよ。
学園は退学になるが、まだお前も若い。
私の側近や宰相、侯爵家の跡取りとしては不合格であっても他の道が全くないとは言わない。」
「…私に残されたものなんて…。」
「人として致命的な事をやったわけではない。高位貴族としては致命的ではあったが。
それに宰相はお前を蟄居させると言ったか?」
「いえ…ただ領地に向かえとだけ。」
確かに蟄居は言われていない。
ただ殿下の側近や跡取りとしては失格だと言うニュアンスはあったけれど。
「確かに政治の中心は王都で王家ではあるが、国を作っているのは王都を含めた各領地にいる民だ。
貴族はそれを管理するためのものでしかなく、大半は民で国は成り立っている。」
「…その通りです。」
「つまりお前もその1人だと言う事だ。
貴族しかも高位貴族として何不自由なく過ごしていたお前に、平民と同じと言っても分かりにくいかもしれないが、お前を国の一員としては見放してはいないと言う事だ。」
「国の一員…。」
「そうだ。だがお前が選んでしまった道は、これからは茨の道であろう。
そこから這い上がって行くかはお前次第だ。」
「私次第…。」
「一時でも私の側近候補としていたのだ。
もちろんお前は投げ出したりしないな?」
殿下は先程までの厳しさから少し柔らかい目をした。
それは私を完全には見放してはいないと言う意思表示だと思う。
少なくない時間を共有していた私への情というものだろうか。
「…はい。必ずやこの身を国のために。」
「あい、わかった。」
私は跪いて忠誠を誓う礼をした。
それを見た殿下は頷いて部屋から出て行かれた。
私はしばらくの間俯いたままその姿勢を続けた。
殿下の温情と自分のしてきたことの愚かさに涙が止まらなくなったのだ。
私はようやく理解したのだ。
井の中の蛙のように大海を知らないだけでなく、自分の周りの井戸の中の事ですら理解していなかったことを。
当主である父の言葉で納得せず、殿下に直談判するような私に殿下は最後に温情をかけた。
それに報いるように私は変わらねばいけない。
そのためにまず初めに領地へ向かう3日後までにできることはなんであろうか。
父上に相談してもいいのだろうか。
周りの人間に相談しても問題ないだろうか。
とりあえず帰ってから再度父上に取り次いでもらおう。
話はそこからだ。
思いつきで書きたいところだけを書いたので、色々とフィルターかけてお読み下さると幸いです。
乙女ゲーム系発祥小説はメインヒーロー的な人間のざまぁがどうしてもメインになるので、その横にいる宰相の息子にスポットを当ててみました。
続きはありません。
まぁ、独りよがりではあるものの、全く勉強が出来ないタイプでもないし、色々へし折られてしまってからの再起なので、それなりに頑張るでしょう。
誤字脱字はあるかと思いますが、敢えてそう表現している場合もございますので何卒ご容赦ください。