一緒に帰りましょう
私は心の中で呟いた。
「皆さん、おかえりなさい、日本です、帰って来たんですよ」
呟くと、私に憑いていた者たちが私の身体から離れていくのを感じる。
『母ちゃん…………』
『ありがとうございました』
『………………』
私に憑いていた幾人もの人たちの霊がそれぞれの故郷へ向けて帰って行く。
私の友人で寺の跡取り息子に以前こう言われた事がある。
「お前は憑かれやすい体質だから気をつけろ」と。
でも仕方がないじゃ無いかあの場にいたら、「憑いてください」としか言えないよ。
私は1ヵ月程前に所用でタイに行った。
タイに行き所用を済ませた時に、ミャンマー軍事政権の将校と知り合う。
その将校にミャンマーも見ていかないかと誘われ日帰りでミャンマーに入国した。
入国したと言っても軍事政権が掌握しているタイとミャンマーの国境沿いで、国境から数キロ入ったところまでだったけど。
案内してくれたミャンマー軍事政権の兵士が此処から先はヤバイと言うところまで行った帰りは、夜の帳が降り夜空を覆い尽くすように星々が輝いている時刻になっていた。
帰り道軍用車の後部座席に座り悪路に揺られていた私の耳に、日本語の叫び声が飛び込んで来る。
「上等兵殿!」
「大日本帝国バンザーイ!」
「かあーちゃん!」
此れは? と思い車を止めさせて兵士に聞くと、この道は白骨街道の一部で、インパールから撤退して来た大勢の日本軍将兵が餓死したり自決したりしたと言う。
その時死んだ将兵の霊が今でもこの地を彷徨っていて、死んだ将兵の叫び声が街道のあちらこちらや付近の森の中でよく聞こえるとの事だった。
それを聞いて私は車から転がるように下り、口に手を当てて怒鳴る。
「私は日本人です! 明後日日本に帰国します! だから……だから! 私に憑いてください! 一緒に帰りましょう! 日本へ! 祖国へ!」
って叫んだんだよ。