1日の終わりのラブホテル
やっとの事でラブホテルに入れたはいいが、自分達3人の精神は疲労でかなり追い詰められていた。
誤字脱字、気に食わない点を編集することがあります。内容は大きく変わりません。
なんとか受付の男をやり過ごしチェックインする事に成功した我々は、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターの扉が閉まるや否や、リコが喋り出す。
「おじさん」
声のトーンでわかる、怒っているのだと。怒りの理由は明確に理解していたが、こう言う時は無闇に口を開かない方がいい事を今までの経験で知っている。沈黙は金なのだ。なので申し訳なさそうにするに留めた。
「なんなの、あの。はっはっはって乾いた笑い声。私が一生懸命上手くやってたのに全部台無しになっちゃうじゃん」
ごもっとも、ごもっともである。しかしアレが自分の精一杯だったのだ。それも含めて謝罪の意思は見せておくべきだろう。
「すまん」
謝罪にしてはぶっきらぼうな返事になってしまったが、いい歳こいた大人が小娘に怒られる時はこんな態度になってしまうのだ。本当に申し訳ない。
「まぁまぁおじさんなんてこんなもんでしょ」
ヒナがフォローなのか蔑んでいるのかよく分からない合いの手を入れる。
「それより私が気になったのは…」
エレベータの止まる気配と軽快なチーンと言う、目的の階に着きましたよ。と言う合図の音がヒナの言葉を遮った。
エレベーターの扉が開くと、向こう側には男女の人影が。情事を終えた男女と丁度鉢合わせてしまった様だ。
こう言う場所はプライバシーを重んじ、客同士の鉢合わせが無いように配慮するものと思っていたが、こうなってしまっていると言うことは、そうでも無いらしい。それにこんな時間にチェックアウトとは、2人にも何かやんごとない事情があるのだろう。
それにしては堂々とした態度の情事を終えた2人は左右に分かれ、紳士淑女然とした態度でエレベーターの外に出る我々に道を譲る。自分達はあまりジロジロと見ては悪いと、その間を少し俯き加減で通り抜けた。
振り向かないように奥の通路に向かったが、エレベーターが閉まり際に。男が。3pやるぅ、と言う呟きと。ヒューと言う口笛。ちょっとやめなよ、と言う女の声が聞こえた。
あの男にも、自分が女性2人に制服を着せて変態行為をする強者に見えたのだろう。事実は全く違う、自分にはそんな胆力はない、分不相応な過大評価に更に小さくなった。
「おじさんここだよ!私が開けていい?」
エレベーターを出てすぐに目的の部屋に到着した。リコは嬉しそうな様子でドアの前で律儀にも許可を求める。自分はどうぞどうぞと言った風に、両手の平を揃えて上向きに小さく突き出した。
このホテルにはどうやら鍵と言うシステムが無いようだ。オートロックか?内側からだけ鍵がかかれるシステムなのかは分からないが、リコは容易くドアを開けた。
リコ、ヒナ、自分の順番で中に入っていくと更にその奥にドアがありそれを潜ると、絢爛豪華…とまではいかないが、広々とした部屋に落ち着かない赤色を基調としたテカテカの布団カバーがされたベッドやオレンジ色壁紙、写真で見た通り部屋の奥には謎の青いブランコがぶら下がっていた。
リコは早速ブランコに乗って楽しんでいる。ヒナはベットの上に座りそんなリコを眺めていた。
全く元気なものだ。この様子を見て先程までこの2人…いや自分を合わせて3人は自殺をしようとしていたなんて誰も思わないだろう。
自分は置かれた1人用ソファーの様なふかふかの椅子に座り、もう寝れるなとボーッと考える。
ヒナお風呂見てみよ、お風呂。とテンションの上がり切ったリコがベットに腰掛けていたヒナの手を取り一緒にお風呂に向かう。
わークレンジングもあるじゃん。と、お風呂場の方から声が聞こえてくる。ヒナお風呂入ろうお風呂。とキャッキャとしている。
ここにくる前にコンビニに寄らされ、適当な下着を購入したことを思い出す。お風呂は自分も入りたいし着替えたい。しかし、ここででは無い。自分はこのラブホテルまで2人を引率するのが役目で、中に入って仕舞えばお役御免のはずだ。
そう思って重い腰を上げる。お風呂場で、広ーいなどと騒いでいる2人に話しかけようと、洗面所の引き戸を開ける。
2人は今まさに、シャツのボタンを全て開けようとする直前であった。
しまったと思い慌ててドアを閉め、その引き戸が勢いで開かないようにしっかりと押さえ込み素早く謝辞を述べる。
「すまん、わざとじゃ無いんだ」
こう言う謝罪は素早ければ素早いほどいい。それだけで心からの言葉と理解してもらえるし、誠意が伝わるからだ。
ドアに背を預け、後手にドアが万が一にも開かないように抑え続けていると。ドンっという衝撃がドア越しに腰の辺りに伝わる。
「わざとじゃなかったら何してもいいのかよ!これだから男は信用できない、何勝手に開けてんだよ。クソキモオヤジが」
ヒナには誠意は伝わらなかったようだ。激昂している。
リコが。ヒナ、ドアは蹴っちゃダメだよ。と言っている所を見ると、先ほどの衝撃はヒナの蹴りがドア越しに伝わってきたものだろう。
「おい!そこにいろよ、リコのハダカ見たヤツは殺す」
おそらくシャツのボタンを大急ぎで止め直しているのだろう。そもそも、裸なんて見てないし、殺すは言い過ぎだろ。リコも。裸なんて見られてないよ。見えてもブラぐらいだよ。とヒナを宥めるが、焼け石に水と言うか。ブラジャー姿を見られたの。と火に油のように更に怒りのレベルが上がった。怒りの焦点は自分が見られた事よりリコが見られたかもしれない、という事のようだ。ヒナはリコの事についての沸点が異様に低い気がする。コレでは非行少年のヤンチャな彼氏だ。俺の女は俺が守る、的な。
後手に抑えていたドアの取手が開く方向に力が加えられる。ヒナが向こう側で引き戸を開けようとしているのだ。ヒナ、ダメだよ。私まだボタン止めてない。とリコが困った様にしている。リコは向こうに行ってて。とヒナがリコに指示する。
「何扉押さえてんだよ、開けろ」
理性を失った様なヒナは尚も扉に力を加える。凄い力だ。自分はリコを引き上げ助けた事でかなり疲労しているとは言え、ヒナもほぼ同条件なハズなのに、どこから力が湧いてくるのだ。
押さえきれないと悟った自分は、一時的に部屋の外に避難する事を思い付く。流石に廊下に出てしまえば、いつ他人が出てくるか分からない状態で、そうそう怒鳴り散らしたり暴力を振るったりは出来ないだろう。それには、この洗面所の扉から手を離すタイミングが大事だ。力が緩んだ瞬間に廊下側へ出るドアに猛ダッシュだ。
今だ!
洗面所の扉の取手からタイミングよく手を離して、大急ぎで廊下に出るドアに向かう。
洗面所の扉は思っていたより早く開けられたが、ヒナに捕まる前に廊下側のドアを出る事は可能だ。ヒナが飛び出し。まてコラァ、と言う声が聞こえる。
その声が聞こえるか聞こえないかのタイミングで廊下に出るドアの取手に手が届いた。
よっし、行けるぞ。そう思ったのも束の間、ドアが開かない。
何故だ。鍵がかかっているのか。そう思いドアの取手の辺りを確認するが、ドアのロックを解除するサムターンが見当たらない。その間も取手を必死で上下させドアを押したり引いたりするが。ガッチリとドアがロックされ開かないのだ。
そうこうしている内に、背中に強い衝撃が走り。ドアと、恐らくヒナの蹴りに挟まれ、自分はグェとカエルの潰れた様な声を出してペシャンコにされてしまった。
何故ドアが開かなかったのか。その原因がわからないまま、ヒナに襟首を掴まれ、引っ張られ。もつれた足でくるりとヒナの方に向き直る様に回転し、自然と正座の様な形で座り。勢いよく引かれた事で目の前の床に両手をついた様な姿勢になってしまう。
「あぁ、逃げようとした奴が捕まったら土下座か」
ヒナの怒号が飛び、自分が今している姿勢が土下座に酷似している事にようやく気がつく。
「ちが、これはバランスを崩してたまたまそうなっただけで…」
そこまで言いかけて、ヒナに言葉を遮られる。
「人様の裸見ておいて、謝ることもできねぇのかオッサンは」
唾を吐きかけられそうな勢いで怒っている。
後ろからようやくリコが顔を出した。こうなっては頼みの綱はヒナへのリコの説得だけだ。
「だから裸なんて見られてないって。ヒナもダメだよ、また言葉遣いが悪くなってるよ」
そう言われて、ヒナはリコの方に振り向き。「本当に大丈夫」などと声をかけている。瞬間湯沸かし器的に怒りが沸点に達する彼女だが、リコに対峙する時は、その沸き上がった湯もすぐに冷めるらしい。今なら許してもらえるかも知れない。
「ノックも無く扉を開けたことは謝る。すまん。だけど自分は何も見ていない」
嘘である。少しだけヒナは鏡に反射した、リコの方は生で2人のブラジャーが見えたのだが、ヒナは薄い青、リコは薄いオレンジ色だったがここでそれを言ってしまっては元の木阿弥だ。しかし、そんな危惧も無駄に終わる。
「あんなにガッツリとドア開けといて見えてないわけないだろが」
向き直ると怒り収まり止まぬヒナがいた。コイツは阿修羅か何かなのか。どうしてこうコロコロと感情の起伏を使いこなせるのか。見えていないだけで、リコと対峙している時も顔は怒り顔だったりするのか。分からないがこの場の収集をどう付けるべきか全く分からなくなっていた。
「ヒナちゃん言葉遣いがダメだって、おじさんも土下座までする必要ないって。私は怒ってないし、おじさんも見てないって言ってるじゃん。ヒナちゃんは後ろ向いてたし見られてないってでしょ。それより早く一緒にお風呂入ろうよ。さっき見てたけどめちゃ広かったよ。コンディショナーも良いの置いてるし」
別に土下座しようと思ってこの体勢になったわけではないのだが、今はリコの言葉をあまり遮らないほうがいい。ヒナに対してもう打つ手の無くなった自分はリコの助け舟に頼るほか無い。
「駄目、コイツわざと覗こうとしたんだよ。本当に男って信用できない。キモイ、汚い、危険。だからコイツと一緒は嫌って言ったのに」
ヒナは男にこっぴどく振られた過去でもあるのか、男をとても忌避している様だ。3k労働の様な3k男子とでも言うべき持論を自分に指を突きつけて叫んだ後、ヒナは糸の切れた人形の様に急にしゃがみ込んだ。
どうしたのかと正座の状態で見ていると、肩を振るわせ嗚咽をあげながら泣き出した。
なんでお前が泣く。泣きたいのはこっちだぞ。と思わないでもなかったが、今日1日の気の張った状態を考えれば、いつ気持ちのタガが外れてもおかしくない。この事案で泣き出したと言うより、この事でリコに注意されたりした、自分はこんなに頑張ってるのに理解されないと言う気持ちがきっかけで、今日1日の心労が今どっと押し寄せたのだろう。
そして、自分の思惑とは違うが。洗面所を開けたのは2人を残してここを出ると伝える為だった。その目的も達成出来るかもしれない。
「覗く気は本当に無かったんだ、すまん。ただホテルに泊まることもできたし、もう自分の役目は果たした。出て行く為に声をかけようと思って扉を開けたんだ。軽率だった。信じなくてもいい、でも自分はコレで外に出る、お金は置いていくから後は2人でゆっくりしてくれ」
ヒナにとってはこれ以上ない提案だろう。異物である自分がこの場からいなくなり、時間いっぱい自由気ままに過ごせるのだ。この提案は女性2人にとっても魅力的な提案に違いない。ベットは大きめの…クイーンかキングがサイズはよく分からないが、とにかく大きいベットが一つ。自分はソファーなり、そこそこフカフカの床なりで寝るとしても同じ部屋に男女が寝るのだ。自分がいなければ、その間に襲われる様な心配をしなくても良い。この提案は当然受け入れられるものと思っていた。
「それは駄目」
明確な否定の意思を見せたのはリコだった。
「おじさんとは今後の打ち合わせもあるし、今いなくなられちゃ困る」
打ち合わせとは恐らく700万円の受け渡し等々に関わる事だろう。今じゃ無くても良いだろと思ったが、ここで自分を逃せば、そもそもその話自体無かった事になりかねなと危惧しているのだろう。
「これからの予定は、お風呂に入って。寝て。起きて。打ち合わせして解散って決まってるの。おじさんに拒否権はないよ、なんでも言うこと聞くって言ったよね。…それにおじさん、さっきそこのドア開けられなかったんじゃないの」
確かにドアは開かなかった。理由はよく分からないが、このラブホテルの後払いという性質上、泊まり逃げ防止措置としてそう言うシステムになっているのかもしれない。知らないのでなんとも言えないが、フロントか何かで解除する様なシステムになっているんじゃないだろうか?火災や地震が起こった場合はどうなるのか分からないが、想像するとゾっとする。多分、恐らく、知らないけど、フロントに連絡すると解錠される様なシステムなのだろう。それより、おじさんには拒否権は無いと言う言葉が引っかかる。まるで今後も、このおじさんを体良く使ってやろうと言う様なニュアンスが含まれている様に感じたからだ。
お金を渡して終わりの関係のはずだが。リコには何か、自分を利用して成したい事があるようだ。それが何かは分からなが、少し注意深く付き合った方が良さそうだ。気が付けば、何かしらの運び屋として利用されていた…と言った風な事になりかねない。
「分かった」
今はまだそう答える他ない。拒否する事で、あの屋上で自殺すると言う目的が、まだ破談する可能性があるからだ。
「じゃー私達お風呂に入るから。今度は覗いちゃダメよ」
リコはそう言って、メソメソとしているヒナを連れて洗面所の方に向かう。
若干、覗き疑惑の事については触れるな。と思わないことでも無かったが、ヒナがまた激昂する様な事がなかったので胸を撫で下ろした。
自分はまたフカフカの椅子に腰掛ける。ひどく疲れているし、体のあちこちが痛い。その中でも今1番痛いのはヒナに蹴られた背中だ。
椅子に座るともう何も考えられなくなっていた。風呂場からはシャワーが勢いよく水を吐く音と、女子高生2人のキャッキャとはしゃいでいる様な声。シャワーの水が床に弾ける音と、遠くでこだまする様な声でなんと言っているかは分からないが、元気のないヒナをこちょばして笑わそうとしている様だ。ヒナもそんなリコの態度に少し元気を取り戻している様に感じられた…
うとうととしてしまっていた様だ。気が付けばシャワーの音は止まり、洗面所の扉が開く所だった。
「あぁー生き返ったぁ」
両手を上にあげ、体を伸ばしながらバスローブ姿のリコが生足をチラチラと覗かせながら、はつらつとこちらに向かってくる。
ヒナはその後ろで恥ずかしそうに身を縮めている。
普通は知らない男の前でバスローブなんて着ていればヒナの様な態度になるのだろう。あまり見ていて、ヒナにまた因縁を付けられてもめんどうだったので、すぐに目を逸らした。
「おじさんもお風呂に入れば」
意外にもヒナにそう声をかけられて、ビックリした表情でそちらの方に向いてしまう。
「さっきは…ごめん。少し、言い過ぎた」
歯切れが悪くもじもじとした態度ではあったが、この言葉に嘘偽りの感情は読み解けなかった。全く、迷惑な誤解で言い過ぎでやり過ぎ、文句の一つも言いたい所だったが、素直に謝罪している人間に対してそう言う態度は感心しない。ここは大人らしく、その謝罪を受け入れる。
「大丈夫だ、あまり気にするな」
こう言う時どう対応して良いか分からず、またぶっきらぼうな返答になってしまった。
「ねね、じゃーこれで2人は仲直りと言うことで。握手でもしますか」
湿っぽい空気にカラッとした風が吹き抜ける様にリコが割ってはいる。
握手なんかいい、別に気にしてないと遠慮する意思を両手を振って示すが。そんな自分とは対照的にヒナは前に手を突き出す。
ヒナは恐らく男嫌いで、触れるのも見られるのも嫌と言う態度を今まで散々見せてきたのだが。お風呂場で説得でもされたのか、やけに素直だ。しかし手先は震えているので、本当は触りたくもないのだろう。それを察した自分は、本当に大丈夫。もう怒っていないと伝える。
ヒナは素直にしていると、すこぶる美人という事を改めて思い知らされる。ただバスローブを纏った状態でも。高級バスローブを纏っているかの様な。バスローブの広告に採用されてもおかしくない様な美しい姿に少し見惚れてしまう程だ。
「もうおじさん、ヒナが手出したんだから握手でしょ」
リコは遠慮している自分の手を取り、無理やりヒナと握手をさせる。握る様に力を加えずにいると、ヒナの方から恐る恐ると言った感じで手を握ってくる。華奢な手だ。人を殴ったり叩いたり持ち上げたり。そう言った事には全く向かない、少し力を加えるだけで砕けてしまいそうな細く冷たい手の感触が伝わり、すぐに離れた。
「おじさんもお風呂入りなよ、屋上の汚れでドロドロだよ」
そう言ってヒナはベットの方にいってしまった。
素直にしてれば、可愛い。再びそう思い、ボーとヒナの方を見てしまっていたのだろう。
「おじさんダメだよ、ヒナは私のだからね」
リコはよく見せるイタズラそうな顔でそう言い。ベットにいるヒナの方に駆けて行き、ヒナちゃーんと勢いよく抱きついた。そして。ちゃんと謝れてえらいねぇ、などと言いながら頭を撫でている。
「おじさん誤解しないであげてね。ヒナはね、怒ると怖いけど、普段はとってもいい子だからね」
そう言いながら、ベットでヒナの事をこちょこちょとからかっている。ヒナはたまらず、ちょっとやめてってと言いながらヘラヘラとしている。
着衣が乱れ始めていたので、すぐにそれからは目を離し。風呂に入るわ。と告げて洗面所の扉を閉めた。
服を脱ぎながら、鏡を見ると体中が青あざだらけだ。先程までは少し痛い、程度の痛みだったが。アザを実際に視認してしまうと痛みが増した様に感じる。どうせなら痛み据え置きでいて欲しいものだが、意識的にどうこうできる問題でもないので状況を受け入れるしかない。
状況を受け入れると言えば、今のこの状態もそうだ。
自分が自殺するために2人の心中を止めた。
2人は止められた事についてどう思っているのか。未だに虎視眈々と心中の機会を伺っているのか。今後どうするつもりなのか。
分からない事だらけだ。自分としては2人が死のうが生きようが別にどうでも良い。ただ、あの屋上で自殺させるわけにはいかない。その思いだけで心中を阻止したのだが…今はどうだ。自分は多少なりとも袖を擦り合わせてしまった人間の自殺をどうでも良いと切り捨てれるだろうか。分からない。ただ、真にあるものは。あの場所ではさせない。と言う部分だ。
リコの、これからも自分に言う事を聞かそうとする態度はどうすべきか。2人に対してどう接すべきか。それは漠然とした悩みの一つだった。しかし、自分の目的と照らし合わせた時に方向性の様なものが見えてくる。
2人はまだ心中しようとするかもしれない。それの監視と阻止が目下の目的だ。
2人が心中するなら、また、あの場所で決行する可能性が高いからだ。
自殺するのに"ちょうど良い場所"と言うのは実は極めて少ない。心中となると尚更だろう。死のうと思えば何処でも死ねそうなものだが、そこには必ず憂いや感傷と言った複雑な感情が入り混じり。ココと言う場所を見つけれずにいるものだ。人は誰でも本当は死にたくはないのだ、死ななくていい理由を常に求めている。ただその選択肢しか選択出来なくなってしまっただけで。
シャワーのジャグジを捻ると暖かいお湯が勢いよく吹き出す。その暖かさに包まれ、生きている事を強く実感してしまう。それは喜びでも悲しみでもない、ただただ当然の事実。しかし後ろめたさがあった。
まだ生きている
自殺を決意した自分が、今まさに後ろから恨めしげに自分を睨んでいるような気がするのだ。
大丈夫だ、諦めたわけじゃない。自分自身にそう言い聞かせる。
ただ少し、もう少し生きているだけだ。
「大丈夫だ」
念を押すようにもう一度、自分自身にそう呟いた。
「おじさんなんかぶつぶつ言ってる?キモイんですけど」
急に洗面所の方から声が聞こえて、洗面所とお風呂場のドアを開けてコチラを覗いているのか、とびっくりして、わっと言いながらそちらに目をやる。
ドアは閉まっている。覗かれているわけではないようだ。
「なんだ、びっくりするだろが」
少し不機嫌にそう言うと。
「いやビビり過ぎでしょ」
リコが笑って自分は更に不機嫌になってしまう。
「それで、なんだ。なにか言いたい事があるんじゃないのか?」
さっさと退散してもらおうと要件を尋ねる。
「えっとねぇ、それがさぁ」
なにか言いにくそうに歯切れが悪い。聞こえにくいのかとシャワーを止める。
「なんだ、遠慮せずに言えば良い」
自分はなんでも言う事を聞くと言った。と続けようとして辞めておく。なんでも言う事を聞くとは言っても侍従関係ではないのだ。増長されても困る。
「そだね、おじさんなんでも言うこと聞くって言ってくれたもんね」
コイツは既に侍従関係と認識しているようだ。自然と頭に片手を付けて俯いて、しまったと言うポーズを取ってしまう。
「あのね、やっぱり私達2人女の子だからさ。やっぱりやっぱり同じは良くないと思うの。一緒に寝るのね」
そんな事は分かっている。自分はベットで寝れるなんて露ほども考えてはいない。
「そうだな、だから自分はソファーか床で構わないぞ」
先程から考えていたプランを伝えるが、どうも様子がおかしい。
「えっと…同じ部屋が駄目というか…」
ん。へや?
「だからおじさん。ごめんだけどソコで寝てくれない」
んんんんん!
ソコって何処だ。洗面所か。…もしかして風呂場?いや、流石に風呂場は無いか、こんなずぶ濡れの場所では寝てられないし、風呂場では冷えてしょうがない。しかし洗面所の場合はココと言わないか。ソコというと言う事はやはりお風呂場と言うことか。いやそれはありえない。迷って返答に困っていると。
「あっ濡れてるのは大丈夫だよ、タオルいっぱいあるし、私も拭くの手伝ってあげるから。それに、このお風呂、冷暖房も付いてるから寒く無いし」
「まじかぁ…」それが最初の感想で、その後はもう諦めの境地に至っていた。すこし、ほんの少しだけ "もしかしたら" と言う気持ちもあったので、大ダメージには至らずに済んだ。しかし、瀕死の状況に、この境遇は正直堪える。
「おじさん本当ごめん。お風呂上がって着替えたら教えてよね。手伝ってあげるから」
そう言って外に出ていってしまった。
自分は風呂場の壁に両手を突き、もたれかかるようにして。シャワーを全開にした。気がつくと自分の意思とは無関係に、声にならない声が漏れ出ていた。
もう肉体的にも精神的にも疲労の限界だった。
程なくして、風呂場の水滴や湿気をタオルで綺麗に拭き取る。リコ達も起きていたようでシャワーの音が聞こえなくなってしばらくしてから手伝いに来てくれたのだが、裸でその作業をしていた為遠慮した。するとリコが。枕ここに置いとくから。と、洗面所に枕だけ置いていった。
バスタブに残ったタオルを引き詰め、枕を置きその上に寝転がる。
少し高めの部屋だからだろうか。やたらとお風呂が広くて助かった。
寝苦しいかとも思ったが、もうそんな事はどうでも良くなっていた。
今何時だろう、確認するのも億劫だ。長い1日だった。気が付かぬ間に自分は眠りについた。
特に書く事もないので、何処で執筆すると筆が進むか、または全く進まないかを発表します。
1番は電車の座席。コレはめちゃくちゃいい!ずっと乗ってたいぐらい。
2、飲食店。コレもかなりいいけど、周りの人達の漏れ聞こえる話も面白くて電車よりは少し劣る。
3、徒歩移動中。コレは最悪、何書いてるか分からんくなるコレなら家の中の方がマシ。
4、仕事の合間。コレも最悪、次の仕事が気になる。
5、家。悪く無いけど誘惑が多過ぎてダメ。ゲームしちゃう。
6、人を待ってる時。これも悪くないけど、来たら辞めなきゃいけないのが億劫。
7、トイレ。作業をしようって気にならない。
8、寝る前。ダメ、寝れなくなる。つぎのひにさしつかえる。
9、起きたて。何書いてるか分からなくなるからダメ。
10、友達といる時。ダメ、公表出来ない。バレたら生命活動がおわる。
以上。小説書く場所良い悪いでしたー。