らぶほてるのはいりかた
ラブホテルってどうやって入るの?どんなシステムになってるの?
これを見れば貴方もラブホテルマスター!
らぶほてるのはいりかた、ご参考までにどうぞ。
ラブホテルの前、3人が立ち尽くしていた。立ち尽くすと言っても時間にしては1分も経っていない、せいぜい数十秒程度だろうが、自分がこれからどうすべきかを考えているせいで、その場で足を止めてしてしまっていた。
この中に入るのは避けようのない事実だ。問題は、自分がラブホテルに入った事もないにも関わらず、ラブホテルに行った事がある、と虚勢を張った事である。
今からこの中での手続きは、唯一の成人でラブホテル経験者と言うふれこみの自分が先頭に立って行なっていく事になる。だが、ラブホテルは普通の宿泊施設とは少し違った形態のチェックイン方法である、その事をいけすかない大学時代の友人古島からの話で、それとなく知っていた。
どうする事が正解なのかはよく分からず。チェックインの作業の際に手間取り。彼女達2人が、女子高生と露呈。通報される事が目下の心配である。まぁ場所柄を考えれば通報という線は限りなく薄く、最悪でも追い出される程度なのだろうと鷹を括っており。その点はあまり心配していないのだが…少し、おっさんラブホ行った事なかったのかよ。嘘はつくし使えねぇーな。と、ヒナの罵声を浴びるのが…大いに嫌だ。
「おじさん入るよ」
リコがグイグイとホテルの入り口へ進んでいく。ちょっと待ってくれ。えぇっと友人はなんと言っていたか。確かラブホテルには何種類かのチェックイン方法があるらしい。
自分が聞いた事があるのは、タッチパネル式とフロント受付式だ。
この2つの見分けはおそらく簡単である。名前の通りタッチパネルがあればタッチパネル式、フロントがあればフロント受付式だろう。そこで部屋なりなんなりを指定してプランを選択、お金を払って目的の部屋に行けばいいのだ。…多分。
もしこのホテルが、それ以外の未知のチェックイン方法だった場合は観念するしかないだろう。不安は残るがこの情報を頼りにラブホテルに挑まねばならない。丸腰で赴くよりかは幾分か気が紛れるというものだ。この情報提供者である古島には感謝だ。ずいぶん連絡を取ってはいないが、今度久しぶりに電話でもしてみるか。
リコに先導させるのはまずいと、追いかけて少し前に出る。ヒナはその後ろから着いてくる。
「いいか、絶対に高校生だとバレないように振る舞えよ」
そう2人に言い含めるが、いかんせん制服を着てしまっている2人には酷な注文かもしれない。コスプレにしても、本物の制服とコスプレの制服の違いは歴然で、詳しくなくても見れば真贋を見分ける事は容易だ。何も良いアドバイスを出来ない自分が情けない。
怪しまれないように、入り口から入る時は躊躇せずに進む。後ろにいる2人はオロオロとボロが出る様な態度を取っていないだろうか。一抹の不安は覚えるが、これからの対応への緊張で後ろを気にしている余裕はなかった。
入り口を抜け、狭いがロビーのようは場所が見える。そして大きな各部屋の写真が載ったパネルが見えた。
よっし、ここはタッチパネル式だ。心の中でガッツポーズをして少し軽くなった足取りでもう少し奥に進むと。受付ブースの様なものも姿を現した。
「は?」
何故両方とも存在するのだ。タッチパネルと受付ブース、どちらもあるとはどういう事だ。完全に計算外である。しかし足を止めて戸惑っている暇はない。考えるんだ。
あの大きなパネルはタッチパネルではなくただのパネルなのでは。そうレストランで言う所のディスプレイだ。そして。「この部屋がいいね」「あぁあの部屋が良かったのに」なんて言いながら恋人達がキャッキャと選択を楽しむのだろう。そうだ、きっとそうに違いない。パネルの光っていない部分は電球切れではなく使用中という事だろう。
つまり、まずパネル前で立ち止まる。そして部屋を選択して受付で部屋を伝えて鍵なりカードをもらって部屋に行けばいいのだ。
我ながら、頭が冴えていると感心をしタッチパネルの方へ近づいていく。少し余裕ができて後ろの2人を確認するが、リコはちょっと珍しいコンビニに入る程度の動揺もなかった。最近の世代は緊張を知らんのか。さらに後ろのヒナに目を向けるとヒナは右足と右手が同時に前に出るようなぎごちない動きをしていた。ヒナは明らかに緊張している。同じ世代でもこんなに違う、そもそも個人の資質を世代でまとめようとすること自体がナンセンスなのかも知れない。こう言うのは実際に付き合ってみないと実感しづらい事なのかも知れない。
後数歩でタッチパネルの正面、と言う所まで迫ったその時。ガタガタと受付の辺りが騒がしくなる。
そちらに目を向けると、白いシャツに黒いズボンという出立ちの若い男がフロントの横の扉から飛び出して、コチラに早歩きで近づいて来た。
なにかやってしまったか。少し慌てそうになるがそれをグッと堪え、何かありましたか。と紳士然とした態度で相手を迎えうつ。内心は何か粗があったのか。と焦っていたのだが、すぐに、いやそんなハズはない、扉から入ってロビーの本当に最初の部分。パネルの前にもまだ到達していない状態なのだ。何かやらかそうにも、何も出来ない距離だ。と自分を落ち着かせる。
するとその受付の人間とおぼしき若い男が自分の斜め前で立ち止まり声をかけてくる。
「あのぉ、お客様。誠に申し訳ありませんが、当ホテルは女子高生を伴っての来館をおことわりしています」
は?自分にはそう返すのがやっとだった。自分の初ラブホテル体験が終わった。と言う思考を最後にフリーズする。
新しい体験というのは幾つになってもワクワクとするものだ。
自分は、こんな状況にも関わらず初のラブホテルに内心ワクワクとしていた。それが歩数にして十数歩も行かない内に終わってしまう。
勿論、今後どうなってしまうのかも多少心配ではあったが、それよりも終わった…と言う事実が自分を打ちのめしていた。するとリコが前に出てくるのを感じ我に帰る。
「あれぇーお兄さん、私達の事が女子高生に見えた?」
リコは堂々と、微塵の焦りも躊躇もなく20代前半だろう男にスラスラと話しかける。リコは前に出る時にヒナの手も引いて出て来ていた様だ。自分の前にはリコとヒナ、その向こう側に若い受付の男と言う配置になった。突然飛び出して来た2人に男は、どう見ても女子高生、実質女子高生な2人に怪訝な表情を見せる。
「まぁ、私達みたいに可愛くてピチピチしてたらそう思うのも無理ないよね」
そう言ってヒナとウデを組んで男に向かって少し前屈みになる。後ろからでは分かりずらいが、リコもヒナもいつのまにか胸を少しはだける様に制服のシャツのボタンを多めに外し服を着崩しているようだ。ヒナは兎も角リコには殆ど胸がないが、詳しく確認したわけではないので、もしかしたら着痩せするタイプなのかも知れない。
「ねぇヒナ、私達JKだって、ヤバくない?」
そう話を振られたヒナは少しビックとして「だっだ、だよねぇー」と辛うじて答えるが、はっきり言ってこっちの演技は芋だ。
この先どうするのか。今の状況では形成は圧倒的に不利だ。しかし、意外にも男はリコ達のモーションにドギマギとし出した。こんな場所で仕事をしているにも関わらず意外とウブなのかも知れない。
「えぇそう言われましてもお客様…」と困った様に返事を返す。
「あれ、よく見たらこの子可愛くない?」
そう言ってリコは男の頬を手の甲側の指先で撫で上げた。男は明らかに硬直する様子が見て取れる。
「こんなおじさんよりよっぽど楽しめそう。お兄さん、良かったら今度私達と遊ばない?今みたいに制服のコスプレしてあげてもいいよ。お兄さんだったらサービスで水着も着てあげちゃおっかなぁ」
ヒナはリコの大胆な発言に、男とリコの顔を何度も見返してリコの邪魔はすまいとコクコクとぎこちなく頷くが、今の男にはリコしか見えていない様子である。
「このおじさんに、制服を着て欲しい。なんて言われてぇ。正直キモって思ったんだけど、用意してくれた制服見てみたら超可愛いの。で早速着てみたんだけど、案外まだまだいけるじゃんって。ね、2人とも可愛いでしょ、お兄さんはどう思う、私達イケてる」
リコの堂々とした態度には場慣れした様子すら窺えるが、ヒナは全くついていけていない様子である。事前に聞いていた話では2人はいつも一緒にいる様な口調だったので。これは、リコが独自に場数を踏んでいると言うよりも、単に演技が上手いと言う事だろう。
年長者としてリコにばかり負担を押しつけてはいけないとフォローに回ろうとするが。少し話を整理しなければ自分がリコの足を引っ張ってしまう。
恐らく援助交際という設定なのだろう。世間一般ではそれは犯罪に当たり、処断される様な事なのだが。この様な場であれば多少は不問に付される事柄であろう。それに何より、限りなくブラックであろうとそうと言及されていなければ白なのだ。リコはその点は濁し上手に立ち回っている。そして、自分は彼女達に制服を譲渡し着てもらった変態親父。この関係には幾らかの金銭の贈与があって、このホテルに来たと言う訳だろう。…と言うか実際に金銭の贈与は700万と言う男が想像だにしない額があるわけなのだが。
「こつちのチナちゃんは、楽しい事あるよって私が誘って今日が初めてなの。だから緊張しちゃって今日ガッチガチなの。でもこの子の方が可愛いでしょ」
リコはそう言いヒナの横から腰の辺りに両腕を回して、ヒナの胸を下から押し上げる。ヒナは外見からもわかる様に、それなりに胸はある様に見えるのでこの方法はウブな男には効果的だろう。チナと言うのは本名は伏せようと言う配慮だろう。
男は、ヒナの持ち上がった胸元にたまらず目を背け。自分は見ていませんと言う態度を取るのがやっとだ。
ここか、リコのフォローに回るとしたらこのタイミングか。自分は意を決して。少女2人を誘って制服を着せた変態おじさんとして振る舞う。
「はっはっはっ、2人共若いお兄さんにばかりズルいぞ。私にも何かとサービスしてくれたまえよ」
あぁ。自分の演技力や台詞選びの才が皆無な事を痛感する。ヒナと同等、もしくはそれ以下だ。リコは自分の演技を邪魔されたと思ったのか心底嫌そうな顔でコチラに振り向いた。
「可愛くて若い子だからサービスしてあげるっていってんの、おじさんの価値なんて若さの前では皆無に等しいでしょ」
世の中のおじさんが聞いたら怒り出しそうな事をサラッと言ってのける。しかし、ここで大人しくなってしまうと、お金に余裕がある女性に制服のコスプレをさせる胆力のある変態おじさん。と言うリコの設定が瓦解しかねないと考え、余裕のある様に振る舞う。
「はっはっは、こりゃ一本取られたな」
そして受付から出て来た男は、完全に戦意を喪失している様に見えた。仕掛けるなら今だと、一応確認しておく。
「それで、2人の誤解は解けたのかな」
男にそう問いかけると。は…はい、失礼しました。と力無い言葉が帰ってきた。ついでにこの男がいる内に手続きも済ませてしまおうとパネルの前まで移動する。
「それで2人はどの部屋がいい?」
リコは何故か男の手を引いてパネルの前に移動し、ヒナもその後ろに続いた。
「お兄さんはどの部屋がお勧め、私は出来れば楽しそうな部屋がいいな」
そう言って男の腕にしがみつく様に体を寄せる。
「どどどどど、どの部屋もお勧めですが。僕はこの部屋がお勧めです」
体を密着させられた事により更に背筋が伸びる様に硬直した男は、何度も吃りながらもなんとか業務の一環を果たす。
指定された部屋が他の部屋と何が違うのかはよく分からなかったが、値段が他より少し高めに設定されている。そう言えばラブホテルの料金体系は部屋料金なのだろうか。それとも普通の宿泊施設と同じ様に1人単位の宿泊値段なのだろうか?1人の値段設定だと手持ちのお金が足りない。無ければ無いでカードを使えばいいが、こう言う施設がカード払OKかどうかをよくわかっていなかった。何かの話で、カードの明細にホテルの住所か何かが載っていて、妻に確認の電話をされてバレたなんて話を聞いたことがあるが、どのホテルもカードが使えるわけでは無いだろう。
「えぇー、おすすめって事はお兄さんもここに泊まったことがあるの」
少し艶かしく男の耳元でリコが囁く。男はもうこれ以上伸びない背筋を更に伸ばして、爪先立ちの様なポーズになり反り返っている。
「いいいいい、いえ。そう言うわけでないんですが、当ホテルでも良い方の部屋ですので設備も充実していますので、おおおお、お勧めさせて頂きました」
どんな設備があるのだとパネルをよく見ると、奥の方にブランコの様なものが見える。あれが充実した設備の一環なのだろうか。一体ブランコをどんなふうに使うのかが気になったが、そんな事より料金体系について少しついて説明してもらおうと自分が男に尋ねた。変な尋ね方をすると自分がリコとヒナに、ラブホテル初心者である事が露呈してしまわぬよう、言葉は慎重に選ぶ。
「はっはっは、私共は3人なんだが料金はどうなっているのかな。部屋料金かい」
相変わらずの自分の変な演技にリコがジロリとコチラを睨んでくるが、まぁ今の男には何を言っても大概の場合は大丈夫だろう。
「い、いえ、当ホテルはと言うか…ほとんどのこの様な施設は1部屋2名様の料金として表示させていただいております。ですのでお客様方ですと表示価格の1.5倍の料金を支払っていただく事になります」
わざわざ"ほとんどの施設は"って言う必要ないだろう。チラリとリコとヒナの顔を伺う。リコは、あんなこと言ってるけど…的な疑いの眼差しをこちらに向けるが、ヒナはあまり周りの事を気にする余裕が無さそうである。その視線に気がつかない振りをしつつ情報を整理する。なるほど。部屋料金でも1人分の料金表示でもなく、ラブホテルの料金表示は2人分の表示な訳か。ならなんとか手持ちの現金で支払いは可能そうだ。
「はっはっは、それではそちらの部屋にチェックインさせていただこうかな。2人共問題ないかな」
どうしてもセリフの最初に、はっはっは、と言う笑い声を挟んでしまう。遊び慣れたおじさんのイメージが何処かおかしいのには自分でも分かっているのだが、どう修正していいか分からず取り敢えずその言葉を挟んでしまう。その度にリコが嫌そうな顔をしている。そしてとうとう、男も怪訝な表情をし出した。
「いいよー、チナちゃんもそれでいいよね」
リコは男から離れ、ヒナの手を取る。
「わわわ、私はどんな部屋でも楽しく出来ればいいい、いいわ」
ヒナは緊張と焦りから、変態と間違われてもおかしくない様な事をつい口走る。
「それでは、そちらの受付で料金を支払おうかな」
最初の笑い声は流石に怪訝な顔をされたので控えたが芋演技には変わりはなかった。ヒナの下手な演技に、自分の下手な演技が重なり場が。普通ってこんなもんだったっけ。と言う空気になりつつ、下手が少し緩和される様な錯覚を覚えるが。リコの、私の努力無駄にしようとしてるんじゃないわよ。的な嫌な顔を見れば、そんな事は全くないのだろう。
「あっお客様。当ホテルはそちらのパネルの前にあるタッチパネルを操作していただいて部屋の方に行っていただくシステムとなっております。それと…料金の方はお帰りの際に、部屋を出ていただいた廊下にあります精算機でのお支払いとなっております」
タッチパネルで操作し部屋に、料金は精算機で…ほほぅと言う顔をしておいたが。では何故フロントがあるんだ。と言う疑問は押し殺した。
その間にも、興味津々といった様な顔でリコはタッチパネルを覗き込み、受付の男がオススメしてくれた部屋をタッチしていた。
「お兄さん、これで部屋に行ったら良いんだよね」
リコが男にそう質問し、男ははいそうですと言いコクリと頷く。
「色々ありがと、お兄さんとはまた今度ね」
そう言って、男の鼻先に人差し指の先で少しタッチしてウインクした。そして振り返り。「さっ、行こっか」とヒナの手を取る。
結局、自分は何の役にも立たなかったなと、リコ達の後ろをトボトボとエレベーターの方に向かった。
もしかしたら、既にラブホテルの事を知らないというのが露呈してるかも知れない。その場合は、グチグチと文句を言われるかも知れない事が足取りを重くしていた。
ラブホテルには色々な種類があります。アミューズメント型からビジホタイプ、車で部屋の下まで付け入場出来るモーテルタイプ。
支払い方法もタイミングも多種多様を極め、この話を読んだだけでは個々のホテルに対し完璧な対応には程遠いシステムとなっております。
しかし安心してください。
行けばなんとかなります!!
もし、この話を読んで。そうだラブホテルに行こう!となった方がいらっしゃるなら、どうぞ勇気を持って一歩踏み出してみてください。きっと、めくるめく体験が貴方を待っている事でしょう。
それと、その様な事実があるにも関わらず、前書きで「これでラブホテルマスター」と吹聴してしまった事を深くお詫びいたします。
すいませんm(._.)m