追憶のラブホテル
男と女子高生2人はラブホテルの前に立つ。そして物思いに耽るのであった。
※ 誤字脱字や細かな訂正や調整がをする事がありますが、内容は大きく変ある事はありません。
希望峰。それは今、我々の目の前にある絢爛豪華な建物の名前である。
希望峰と言えば、バスコ・ダ・ガマが有名ではないだろうか。ヨーロッパからインドまでの航路を開拓した偉人の名前だ。
ずいぶんと懐かしい名称に自分の中学1年生当時の記憶が蘇る。
「Cape of Good Hope(ケープ オブ グッド ホープ)これの日本語訳が分かるかぁ!?えー次は誰だったか…青木ぃ」
社会の教師の近藤は、出席番号順通り生徒に質問するスタイルの教師だ。一度の授業中に40人弱も当てる事は無いので、7番の清水で終われば、次回の最初に質問されるのは8番の下川からと言う事になる。しかし近藤は、前回に誰まで指名したかをよく忘れてしまい、その度に1番から質問をすると言う、一種横暴な部分があった。
その度に自分を含めた周りの大勢は、1番でなくて良かったと安堵し。自分を含む数人は、また自分の番が来て答えなければならないかも知れない、と同情と同時に共感を青木に抱くのであった。
「はい!」青木はそんなそぶりを一切見せないハキハキした返事と共に立ち上がる。「良いケープは広島の希望」です!
面白いかどうかは置いておいて、この回答通り青木はバカでひょうきんな部類の生徒だ。バカ故にどんな事をする時も堂々としている。今回もプロ野球、広島のチームの名のケープをCapeと掛けた冗談を胸を張って答える。何処に広島という単語が入っているんだ、という事も含め教室が静かにざわつく。緊張した授業の雰囲気が若干弛緩したのが分かる。
「ちぃがぁ〜う」独特なイントネーションで近藤がそう言うと、教室の弛緩した空気が一瞬で引き締まる。青木は、近藤が次の出席番号の生田を指名する前に、もう一つ答えを提示する。
「違いましたか、それでは‘良い整髪料は希望’ですか?」青木はさらに胸を張ってそう答えた。当時TVのCM等でよく流れていた、薫央の整髪料ケープとCapeを掛けたのだ。
今度は教室中がどっと湧く。それと言うのもこの時、近藤にはカツラ疑惑あり。近藤のいない場で頭の事を話題にすると必ずウケる鉄板ネタだったのだ。今考えると人の容姿をネタに笑いを誘うのはハラスメント級のモラル違反だが、この当時には、そんな概念すら知れ渡ってはいなかった。しかも、その後分かるのだが、近藤の毛は全て天然でありカツラではなく、ただただ毛量の多いだけの髪の毛であった。今や本当にすいません、という感情しかない。
近藤は "ばかたれぇ座れぇ"ときつく言う程度で特に青木に対するお咎めは無かった。この当時は教師の地位は絶対で、教師から生徒に対する懲罰や暴行も珍しくはなく一般的に行われていた節があった。取り分け近藤は体育教師の西村に次ぎ恐れられていた教師だ。そのせいで授業が緊張感で頭に入ってこない生徒がいる程、萎縮させる要素を持っていた教師だったにも関わらず、ふざけた青木に対するお咎めは無し。そう考えると、もしかしたら近藤が授業の緊張をほぐす為に、青木の馬鹿でひょうきんな部分に期待して、青木をよく最初に指名していたのかも知れない…が今となっては確かめようもない。
「次ぃ、生田。分かるかぁ?」
質問は出席番号2番の生田に引き継がれた。
「はい、希望峰です」
生田は真面目に正解を導き出す。この答えは予習さえしていれば誰でも答える事が出来る程度の質問である。また退屈な授業が始まる。自分を含む授業をまだ聞く気がある者は、机のノートや教科書に目を落とす。
「ちぃがぁ〜う」
教室じゅうに近藤の独特なイントネーションがまた響き渡った。皆は、一度机に下ろした視線を上げ。何故違うのか?と目を丸めて、不思議そうに近藤に注目する。
近藤は目を丸めた生徒達の顔をじっくりと端から眺めてニヤリと笑った。
「Cape of Good Hope、このケープと言うのは岬と訳すんだ。お前達はまだ習ってない単語だから間違っても仕方がない。しかし、ケーブ オブ グット ホープは、希望峰と翻訳されている、何故だ。直訳であれば希望岬にも関わらず。何故こうなったのか、それは分かっていない!そもそもバスコ・ダ・ガマがなぜ希望峰を………
その後の授業内容は今でもぼんやりと覚えている。南緯40°が叫けぶとかなんとか言ってたっけ…
いかんいかんと頭を降る。目の前の信じられない現実から逃避しようと中学生時代の思い出に逃げ込んでいたようだ。そもそもこの建物の名前も、良く見ると希望峰ではなく希"棒"峰だった。安易で意味の無い、安直で一種下品な名前に失笑してしまう。
「あれーおじさん緊張してるの?」
そんな自分の様子を見てリコが小悪魔然とした顔でコチラを覗き込む。
「きっ、緊張なんかしてない」
緊張から言葉に詰まってしまった。それでも虚勢を張ったのは、自分が1番の年長者であり、舐められては今後の要求がさらにエスカレートするかもという危惧からだ。
建物を見上げると大きく希棒峰と書かれた派手な看板。入り口の横には、電球やネオンで煌びやかに彩られた看板があり、その内容は。ショート、休憩、フリータイム、宿泊、延長と大きく明瞭に書かれ、その横には料金や利用時間の表記があった。
そう、あの時2人を雑居ビルの屋上で説得した後。
何故か我々は、ラブホテルの前に来ていた。
彼女達の自殺…心中を阻止したはいいが、何故こんな事になった。
頭が混乱するばかりだ。思えば今日はずっとこんな感じだ。リコと今後の事を相談…700万をどうするかと言う話をしていたはずだったのだが。考え込んだリコが、突然ラブホテルに行こうと言い出したのだ。
そのリコの言葉に大きく驚いたのは自分だけではなかった……
「りっりっりっリコ!なっ何言ってるのよ」
先程まで強かな殺気を放っていたヒナが、思いもよらないリコの発言に戸惑いを隠せないようだ。自分も同時に変な驚きの声を上げていたのだが、ヒナの声にかき消され無視された。
ヒナはチラリとこちらの様子を伺い。ちょっと来て、とリコの腕を引っ張って少し離れた。ヒソヒソと状況のすり合わせをしているようだ。ヒソヒソと話しているのは彼女達も一枚岩では無く、隙をつかれれば、いとも容易く瓦解するといと言うのを知られたく無いからだろう。しかし先程のヒナの慌てっぷりで、一枚岩では無い事はコチラも十分に理解しているのだが…まぁ仲間内での情報共有というのはホウレンソウ、報告連絡相談をまとめた聞き覚えの良い言葉があるぐらいには大切だ。気の済む様にしてくれと、傍観者に徹するかまえだ。
そして自分のリコの説得を任せたゾ、頼む。と言う切なる願いをヒナの両肩にそっと乗せた。
彼女達とは赤の他人でありながら、心中を諦めさせる為に“なんでも言う事を聞いてやる“と言う口約束をした。いわば主従関係に近い間柄だ。
無論なんでもは聞くつもりはないし、犯罪や人を傷つけない、自分を不当に貶める事等々は出来ないと伝えている。首に縄を巻きつけられ、四つん這いで散歩に連れ出されでもしたら人生の前に人間として終わってしまう。そういう事を危惧しての予防線だったのだが、女子高生とラブホテルに行く事は自己を貶める事に当たらないだろうか。
万が一ヒナが説得に失敗してしまった時の事も考慮して、自分も断る理由をいくつか模索しておいた方がいいだろう
ヒソヒソと話しているには話しているのだが。慌てているヒナの声も、ヒナの弱みを見せたく無いと言う意図を汲まないリコの声も聞こえてしまっている。自分も状況を把握しておきたかったので、この状態はありがたかった。聞こえてませんよと言う態度で明後日の方向を向きながら耳をそばだてる。
「ちょちょちょリコ何言ってんの、あんなおっさんとラブホテルってなんでなの」
ヒナはリコの両肩を少し揺らしながら状況の説明を求める。
その通りだ、何故あのタイミングで今からラブホテルに行こうと言う話になったんだ。
「え、だって私達今日家に帰れないじゃん。それにヒナはお金いくら持ってる?私500円ぐらいしかないけど」
リコは何故か自信たっぷりと自分の財布に入っている金額をヒナに見せた。それを見て、少しよろめいたヒナも。
「私もちょっとしか持ってきてない」と何かを観念したように弱々しく答える。それでも直ぐに気を取り直し。
「そうだとしても漫喫とかでもいいよね、なんでラブホテルなの」と再び正論を見つけたり顔でリコに詰め寄る。
「だって、ちゃんとしたベットで寝たいじゃん」当然の事を聞かれた様なキョトンとした表情でそう答えて「それに…ラブホテルってなんだか興味ない。ヒナも行った事ないでしょ。ね、ね。行ってみたくない」後半はワクワクとした感じでヒナに同意を求める。
ヒナは背筋を伸ばして右手の平の親指と人差し指の間で眉毛の辺りを押さえ目の辺りを隠すようにして天を仰ぎ見るようにした。正確には目の辺りを隠しているので天は仰ぎ見れていない。見えているのはせいぜい自分の可愛い手の平か、瞼の裏だろう。少しそのポーズで固まり。
「リコは言い出したら聞かないよね」と諦めたように手を下ろしダランと垂れ下がらせて少し猫背になった。
「でもダメ、絶対ダメ」そしてチラリとこちらを確認する。自分は聞き耳を立てていた事をなるべく悟られないように明後日の方向を向いて、聞いていないそぶりをしていたが、何か怪しく見えたのか。ヒナはリコの肩に手を回して、さらに少し遠ざかってしゃがみ込み、今度はかなり聞こえにくい声で何やらゴニョゴニョと話し出した。
ヒナ頑張ってくれよ。未成年と知らず淫行に及んだとしても罪に問われるのだ。未成年と知った上でラブホテルなんかに入った日にはどんな事になるかわからない。無論、自分は2人に何もするつもりはない。八百万の神に誓って無いが。芸能人が女性をホテルに連れ込み一晩共に明かして、何もしてません。と言う言い訳を自分は信じた試しが無かった。今なら、もう少し寛大な心で。そんな事もあるかも知れない、と温かい目で見守る事が出来るだろうが世間は別だ。問題になった時のリスクが大きすぎる。
心中未遂前に聞いていた2人の会話から彼女達は同級生だろう。しかしヒナの方がお姉さんのような。なんとしても自分がリコを守ると言った強い意志を感じる。
リコは天然で、そんなヒナを振り回す。保護者と子供に近い友情関係を築いている様に見える。しかし今、会話のイニシアチブを握っているのは完全にリコで、ヒナは後手後手に回っている。
所々聞こえてくる会話の内容はヒナの、あのおっさん、あんなおっさん、おっさんはどうする、とおそらく…と言うか確実に自分の事を話している瞬間だけ、こちらをチラリと確認してくるので声が微かに聞こえる。
先程から何度もおっさんおっさんと言われているのだが、その言葉に地味に傷ついている自分がいる。
そもそも今まで子供と関わる事が無かったので。自分はおっさんであると自覚はしていても、面と向かってそう言われるのはこれが初めての事なのだ。
おじさんおじさんと言われるたびに、その言葉が体に強く当たり。そしてじんわりと染み込んでくる。この染み込んだ回数だけ、自分は名実共におじさんとなっていくのだろう。もう少し、もう少しでこの言葉に心揺さぶられることはなくなる。その希望を胸に今は耐え難きを耐える。
間違っても"誰がおじさんだコラ"、などと反論してはいけない。何故なら自分は見紛う事なきおじさんであり、反論する事は、"現実を受け止めきれていない可哀想なおじさん"のレッテルを貼られ、おじさんより格下のおじさんになってしまう可能性があるからだ。
そして場合によっては可哀想な目で見られ。そうだね、おじさんなんて失礼だよね、お…おにいさん…と死んだ魚の様な目で心にもない"おにいさん"を頂戴する事になるのだ。そんな痛いおじさんになるぐらいなら、正々堂々とおじさんと言う言葉を受け止め飲み込むのが吉だろう。清濁合わせ飲む。それが大人のおじさんと言うものなのだ。
程なくして彼女達2人はすくりと立ち上がった。結論が出た様だ。流石におっさんおっさんと連呼していた相手とラブホテルに行く事という結論は回避されているだろう。しかし、結果発表の瞬間というのは確実に大丈夫、という状況でもドキドキとするものだ。
結果は、結果はどうなった。そんな固唾を飲み込む様な緊張感。何故か少し怒った様な顔でモジモジとしているヒナが口火を切った。
「おっさん、ラブホ行くよ」
えぇぇぇぇぇぇぇえぇぇえぇぇぇ。
今度は自分が背筋を伸ばして、親指と人差し指の間で眉毛の辺りを覆い、天を仰ぎ見る事にした。正確には手で目を隠す様にして目を強く閉じているので自分の瞼の裏側しか見えていない。
しばらくどうしてそうなったを噛み締めながら完全に静止する。…まず経緯を聞いてから傾向と対策を立てよう。
「どうして…どうしてそうなった」
かろうじてそう発言し天を仰ぎ見れないポーズをやめ、2人に向き直る。
「うっさいわね、おっさん。おっさんは、はいはい言うこと聞いてたらいいの!」
何故お前が怒っているんだと心でツッコミつつ。リコの方を向き直る。するとヒナを通さずリコに話しをしようとする態度が気に食わなかったのか、ヒナが"何無視してんのよ、こっちを向きなさい"と強く言う。
リコはヒナに任せているので、と言う態度で携帯を取り出して我関せずを決め込む。お前が言い出しっぺだろうが。と思いながら仕方なくヒナに向き直った。
「ちょっと待ってくれ。君達は一旦家に帰ればいいだろう、わざわざホテルに行く必要なんかない」
先程家に帰れない、とは盗み聞きして知っているのだが念押しで確認する。
「だから、私達は今日お互いの家に泊まるって言って外泊してるの。それがこんな夜中に帰ってきたら怪しいでしょうが。それで問い詰められて、今夜の事“変なおっさんと居ました“なんて証言しちゃったら困るのはおっさんでしょ」
なるほど、確かに一理あるが。だが、やりようなんていくらでもあるだろ。
「言い訳なんていくらでも出来るだろ。喧嘩して気まずくなったから帰ってきたとか。相手の親戚に不幸があって急遽中止になったとか」
思いついて無い訳ではないだろうが、一応いくつか案を提案すると。2人は顔を見合わせた。
「私達が喧嘩する訳ないでしょ」
「私達が喧嘩する訳ないじゃん」
仲良く同時に否定をする。
「それに親同士も多少繋がりあるんだよ。私達はしょっちゅう泊まりあってるから。こないだは娘がお世話になりましたー、とか。いつの事?で済まされるけど、この間はご愁傷様でした、とか言ったらバレるでしょ頭回んないわねグズ」
あまりの横暴な態度に少し腹が立ってこちらも言い返してしまう。
「お前達が喧嘩しないなんて知らないよ。喧嘩した事にすればいいだろ。どんなに仲良くても喧嘩ぐらいする。よほど自然な言い訳だ」
ヒナは。わかってないなぁと外国人のようなオーバーなアクションで両手の平を上に向けて横から肩辺りまで持ち上げ、最後に肩をすくめた。
「私達は喧嘩しないの、それ以上言ったら怒るよ」
どうなってんだコイツらの思考は。喧嘩しないってなんだよ。するだろ普通。それに"怒るよ"ってずっと怒ってるだろ。感情が爆発しそうになるの必死で抑えて。喧嘩は同じレベルの者同士でしか起きない、喧嘩は同じレベルの者同士でしか起きないと唱えながら、カンガルー同士の喧嘩を思い浮かべて自分を律する。自分は大人、彼女達は高校生。彼女達のレベルに合わせて話をしていては駄目だ。落ち着く為にも話の方向性を変えよう。
「わかった、でも待ってくれ、流石に女子高生2人とラブホテルなんて入れないだろ」
「ラブホテルっていちいち身分証明書提出するの。ふーん、私初めてだから知らないんだけど、おじさんは流石に分かってるんだー」
どうせお前なんてラブホテルとか行った事ないんだろ、的な棒読みの台詞。何故バレているんだ。そんなにラブホテル行った事ない顔をしてるのか自分は。いや、まだ完全にバレている訳ではないはずだ。藪蛇を突かないようにしなければ。
「らっらっらっ、ラブホテルぐらい行った事あるわ。身分証明書はいらないかも知れんけど、受付とかで怪しまれたら終わりやろ」
あまりの動揺に何度もドモリ。嘘をつく為に、使っ事もない関西弁の様な言葉使いになってしまう。バレたかもしれない。
「受付ねぇー」
何か変な事を言ってしまったのか、明後日の方向を見もせず肩をすくめる。
「それに漫画喫茶は…まぁいいとして、こんな時間。えぇっと今は3時か、でもチェックイン出来るホテルがあるかも知れない」
ヒナがリコの説得に失敗した事を考慮して、考えていた案だ。
確か深夜0時以降にチェックイン出来るホテルが世の中にはあったはずだ。予約無しでも宿泊可能かは知らないが試してみる価値はあるだろう。そうこうしている間に時間が経ってホテルに泊まると言う案自体流れてしまっても自分的には構わないし。妙案でもあった。
「うーん、この付近にはそう言うホテル無いみたいだよー」
突然リコが、こちら側に携帯の画面を向けてそう言う。画面の内容は眩しく光っていてしっかりと確認はできなかったが、ホテル検索サイトを開いているのは間違いない様だ。
危惧していた事ではあるが、東京とはいえ下町の辺鄙な位置であるここに深夜からチェックイン可能な便利なホテルがあるかどうか不安ではあった。駅周辺に行けば怪しげな通りがあり、そこにラブホテルかある事はなんとなくは知っている。
「ほら無理でしょつべこべ言わず行くわよ」
ヒナは早々に話を切り上げ階段の方向に向かおうとする。
「ちょちょちょっと待ってくれ。君らは良いのかこんなおっさんとラブホテルに行く事に抵抗は」
ヒナはクルリと振り返り、こちらを見た後リコの方に視線を移す。
「あれーおじさん、もしかして私たちとエッチな事するとか考えてるぅ、いやーん」
リコは何故か嬉しそう自分の体を抱いて身を捩りながら冗談混じりにそう言う。
「はぁ。おっさんが調子乗るなよ、そんなことするわけないだろ。寝るだけだよ、寝るだけ。気持ち悪い事想像しないでくれますか、ほんっとキショい」
ヒナは心底気持ち悪いと言った雰囲気で怒って完全否定する。こっちはそんな事一言も言ってないのにひどい奴だ。
「そんなつもりはない、そんなつもりはないが自分も男だ。理性的でいられなくなる瞬間があるかも知れない。それは心配ではないのかと聞いてるんだ」
慌てて弁明するが逆効果だ。
「まぁ、私達みたいな美女に囲まれて舞いあがっちゃうのは分かるけどさー。ヒナ怖い顔になってるよ可愛いが台無しだよ」
リコはヒナに後ろから抱きつきコチラを覗き込む。ヒナは後ろから突然抱きつかれて虚を突かれたように「きゃ」と短く驚く。すぐにリコだと理解して「やっぱりあのおっさん危なくない?」と不安そうな表情でリコを見る。
「そう思うならやめておこう、少しでも不安があるのならお互いの為にならない。金なら渡す。ラブホテル女子会という言葉もあるぐらいだ。2人なら入れるだろ、それでどうだ」
これが最大の譲歩だ。もうこれ以上は譲れない。これはお互いの為だ。頼む、これで納得してくれ。そう強く願いながら最後の交渉に臨んだ。
「ヒナ、大丈夫だって、コッチは2人いるし。おじさんも何もしないって言ってるじゃん。それにねおじさん、私達はラブホテル行った事ないの。入り方も分かんないし、ラブホテル女子会だっけ?知らないけど。それも女子高生が2人で入れるのって話じゃん。受付?でグズグズしてたら未成年ってバレちゃって補導なんて事になりかねないし。私達が補導されて洗いざらいゲロるのは、おじさんも本意じゃないでしょ。ココはおじさんの豊かな経験を頼りにね、さしてもらおうと思ってるの。それにラブホテルってどんな所か楽しみだし」
だから行った事ないんだってラブホテルゥゥゥ。それにお前の本音は最後の一言だけだろぉぉぉと心の中で叫ぶが、時すでに遅し。この時点で自分は一応ラブホテルに行った事があるおじさん設定なのだ。まずったかとも思ったが今更それを撤回する事は、チンケなプライドが許さなかった。
議論は出尽くしたと、リコが項垂れる自分の手を引いてルンルンと雑居ビルの非常階段へと向かう。自分は、抵抗する気力も無く連行されていくのであった。
かくして、我々一行はラブホテルへと向かう事となった。
今回は長くなりすぎました。
次回はもう少し短く掲載できるよう努力します。