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自殺絆助  作者: 寝藻
出会い
2/12

シリアルキラーとサイコパス

この話には今のところシリアルキラーもサイコパスも出てきません。

今後も出てくる予定は今のところありません。


もし今の段階でそのどちらか、又は両方が登場しているとすれば。それは私がおかしいか、貴方がおかしいかのどちらかです。


お互い正気を保ったまま余生を楽しみたいですね。

 考え事をしている間に屋上に辿り着いてしまった。あっという間だった様な、長い時間だった様な不思議な感覚だ。

 客観的に考えて、今から自殺しようとする自分がまともな状態であるはずがない。自殺する人間の中でも自分はまだ、まともな方なのでは無いか?と考えるが、自分で自分をまともだと言う人間は大概まともではないことを知っている。なので私もまともな状態ではなく。いつもと異なる状態で感じる時間の感覚が"不思議な感覚"というのは当たり前なのかもしれない。

 屋上に着いたことによる感慨深さが出たのか、気がつくと自分は空を見上げていた。天気は残念ながら曇天だ。心情的には晴天で満天の星…は、東京の下町と言えどさほど期待できないとしても、月ぐらいは最後に拝んでおきたかった気がする。まぁ雨が降っていないだけまだマシとしておこう。


 この屋上に来るのは今日が初めてだ。下調べをしていてもよかったのだが、通りがかりに何度か下から見上げた感じでは、特に高いフェンスや、飛び降りる時に障害になるものは何も無さそうだった。なので、ここに来るのは最後の楽しみにとっておこうという遊び心のようなものも少しはあった…のかもしれない。


 それでも今日、この雑居ビルの前に辿り着いた時。もしかして、壊れた鍵が付け替えられていたらどうしよう。などと今更その考えに至り、少し不安に感じる部分はあった。だがそれも杞憂に終わった。


 改めて屋上を見渡すと、下からは確認できなかったが屋上の中央には大きな貯水タンクの様な物、その右側に空調設備の様な物が並んでいる。貯水タンクを挟んで反対側には排気口の様な物が出っ張っているだけでガラんとしていた。


 なんとも想像の範疇を超えない屋上である。


 実際は貯水タンクも空調設備も間近で見たことはなかったので、この建造物が本当にそれらなのかは分からない。しかし、屋上にありそうな物と言えばそれしか思いつかないので多分アレがそうなのだろう。

 暗くてわかりにくいが、貯水タンクには上から下に茶色い液体が垂れた様な汚れが外装を飾っていた。


 自分が飛び降りるのは、上がってきた階段の反対側に面した場所からと決めていた。と言うのも階段がある方や、ほかの部分からの飛び降りでは、自分の死体の発見が遅れる心配があるからだ。自分の我儘でもあるのだが、死体はフレッシュな内に処理して欲しいと言う希望があった。もし白骨化した様な状態で見つかったなら、身元の特定も多少は厄介になり、警察も事件性を考慮した無駄な捜査を開始することになるかも知れない。それは本意ではなかった。

 なるべく誰にも迷惑を掛けずに死にたいのである。

 そんな事を言い出したら、もっと飛び散らない様な死に方もあるだろうが、自分にとってこの屋上は、吐瀉物をぶちまけ見上げた時から兎に角魅力的なのだ。


 この屋上に続く非常階段に面した場所には、全く人通りがない。それもそうだろう、そこを通って反対側の道に出られるわけでもなく、ただ屋上へと続く非常階段があるだけだ。

 階段の下に置かれた、誰のものか分からない自転車も。いつから放置されているのか。自転車に積もった埃が雨で流されてを繰り返し、ドロドロの見るに耐えない状態になっていた。

 そして、そこに続くビルとビルの間の細い通路も年中暗くジメジメとして、誰にも気にされず忘れられた様な場所だ。

 だから自分は大通り…といってもさほど広い通りではないが、日中は流石に人通りのある方に飛び降りよう考えたのだ。

 第一発見者並びに清掃する方には申し訳ないが、自分の譲れない部分がそこにはあった。


 早速貯水タンクの方に近づくと何か違和感を感じた。


人の声が…する?


 ビルの下を通る人の声か?


 イヤそれにしては、ささやかな声にしてはよく聞こえる。

 少し警戒しながら、声の方向に耳を傾ける。


「いま……あが……こなかった?」

「え………なに……こえな……けど」


 完全に人がいる、声の高さから恐らく女性が2人以上はいそうだ。自分が言えた立場ではないが、一体こんな夜中の雑居ビルの屋上で何をしてるんだ。このビルに入っている会社の社員か?ここへ到着し正面からこの雑居ビルを見た時は、このビルの全ての電気は消えていた。ただ薄ぼんやりと非常灯の灯りだか、パソコンの消し忘れの液晶の光が灯っている程度にだったのに。なのに…何故。誰にも言えない恋愛相談をするにしても夜中の2時では場所おかしければ時間も遅すぎる。


 今日、自殺をする。それは楽しみではあったものの、並々ならぬ覚悟で臨んだ1日だった。


 しかし予想もしていなかったイレギュラーな事態に頭は混乱し、どうすべきかが思いつかない。

 今日の決行は無理か?嫌な想像が思考をよぎる。それでもなんとか事態を成立させようと知恵を絞ろうとする自分がいる。しかし取り留めもない事ばかりが頭の中で錯雑する。

 今日は無理?彼女達はすぐに何処かへ行く?なんで今日なんだ。どうすればいい?引き返す?留まる?誰なんだ?

 混乱した思考に頭を痛めている間に事態は悪い方へと進展する。貯水タンクの向こう側にいる人間が、こちらに向かってくる様な足音が聞こえてきた。

 マズイ!


「ちょっと確認しに行ってみるね」


「言う前に行ってんじゃん」


 今度は2人の声もハッキリと聞こえた。見つかったら今日の計画は終わりだ。運良く決行出来たとしても、彼女らにどうしても迷惑がかかってしまうし、挨拶をして素知らぬ顔でやり過ごすにしても。深夜、勝手に入ったビルの屋上に無関係の人間が居ては完全に不審者で不法侵入だ。どうすべきか迷いながらも、とりあえず見つからずやり過ごそうと、そっと空調設備の陰へ自分の身を隠した。


「やっぱり気のせいだったみたい、誰もいないね」


 コチラ側を貯水タンクの陰から覗き込んでいるのだろうか?幸い真剣に捜索されずに済んだ様だ。


「そらそうでしょ、こんな時間にこんな所に来る人間なんてシリアルキラーかサイコパスだけっしょ」


 ほっとしたのも束の間、邪魔者達は変な会話をしている。自分の中ではサイコパスがシリアルキラーに当たる存在なのだが、彼女の中では違うらしい。


「サイコパスがシリアルキラーになるんじゃないの?」


 こちら側を覗き込んだ方が相方にそう投げかけ、すこし心のつっかえが取れ、スッとする気がした。


「えぇ、違うよ。そりゃサイコパスがシリアルキラーにもなるかもしんないけど、いいシリアルキラーもいるはずと思う」


「いいシリアルキラーってなによ」


 少し笑いを堪える様に問いかける。会話がだいぶ斜め上の方に行ってしまったなと感じた。確かにサイコパスではなくてもシリアルキラーになる人間は居るかもしれない、しかしいいシリアルキラーとはなんなのか?少しだけこの会話の続きの展開が気になりだす自分がいる。今から自殺しようと言うのに悠長なものだと、自分も自分を声を出さずに笑ってしまった。


「サイコパスのシリアルキラーが悪いキラーで、そうじゃないシリアルキラーはいいキラー」


「なにそれ」


 そう言ってこちら側を覗いていた方が、キラーな時点で悪いよ。と堪えきれずに笑った。


「キラーが悪いことなんて分かってる。でもサイコパスでもないのにシリアルキラーになるなんて、何かとんでもない事情があると思うじゃん。それが自分勝手な行動だったとしても、いいキラーはそんな事も分かって何かを果たすために、覚悟してやりたくもない悪に身を染めてんの。そしてソレは多分、自分勝手ではあるけど自分の為に犯行に及んでるんじゃないの。そんなふうに考えたら、いいキラーもいそうじゃない?」


 話が逆転してしまっている気がしなくもないが、言いたい事は分かった。彼女は罪を憎んで人を憎まずなのだ。それぞれに事情があり、やむにやまれない状況が存在すると。


「リコのいつものヤツ出たー」


 そう言って、もう一度笑った。楽しそうに取り留めもない話をする2人。しかし、何故かは分からないが、少し寂しい様な、元気を振り絞っている様な、そんな気がする。


「私だってキラーは悪いことってわかってるって、でもどうしてもそうしなきゃいけない時ってあるじゃん。自分だけではどうしようもない事ってあるじゃん」


 リコと呼ばれた女性が一生懸命と言った感じでそういうと、笑い声がピタリと止んだ。


「今の私達みたいに?」


 こちらを覗き込んだ方が真剣な雰囲気でそう問いかけた。


 2人は黙り込む。急激に場の雰囲気が重くなるのを感じる。

 自分は空調設備の間を縫う様にして進み、慎重に2人を覗き見る事が可能であろう位置に身を隠す。

 覗き見る事はとてもリスクが高いことはわかっていた。それでも現状を打開する為に、少しでも情報が欲しかったのだ。


 2人は何者なのか?2人以外に人はいるのか?2人は何故ここにいるのか?理由をあげ出せばキリがないし、2人、もしくはそれ以上を目視する事でそれらの情報が手に入るかも分からない。はっきり言って愚策ではあるが、なにもせず縮こまっていても現状は変わらない。それと単純に、リコと呼ばれる彼女の思考がとても面白いと感じたから、どんな人物なのか気になったと言うのも有る。もしかしたら、それがこの行動の主な理由なのかも知しれない。


 なるべく顔を露出しない様に、声のしていた方向をそっと覗き込む。

 するとそこには、学生服を着た女子高生が2人、向かい合って立っていた。


 幸いこちら側に視線は無く、もう少し大胆に覗いてしまっても問題なさそうに思えたが、それでも万が一にも見つかるのはまずいと言う気持ちが、ギリギリの視線を送るだけに自分をとどめた。


 1人はボブヘアの黒髪で、黒っぽいブレザーにチェックのスカート、スカートの裾からすらりと伸びた足や、彼女の佇まいが否が応にも美人を連想させる雰囲気を纏っている。


 もう1人は茶髪と言うには、もう少しそれを薄くした様な髪を耳の下あたりで2つに束ねてツインテールの様な髪型に薄い茶色のブレザー、チェックのスカート。胸元には目立つ大きめの赤いリボンが付いていた。


 暗がりで見えるその姿は、2人がそれぞれに違う制服を着ている事が分かった。そして黒髪の方は大和撫子然としたモデルの様な雰囲気を持っているのに対して、もう1人はどう見てもギャルだ。背の高さは少しボブヘアの方が高い様だ。かと言ってギャルが特別背が低いわけではない。大和撫子とギャルそんな対照的な2人の奇妙な組み合わせに2人の事をもっと知りたいと言う妙な欲が湧いて来なくもないが、今は自重し、取り敢えず、この2人も自分と同じ不法侵入者である可能性が高い事に。2人に見つかり不法侵入で問題になる線は限りなく薄くなった事に胸を撫で下ろす。もし不法侵入で2人に警察にでも突き出された時は、彼女達も同じ罪状で捕まるからだ。

 それでも何故ちぐはぐな女子高生がこんな所に?という疑問は残る。


 しかし、先程の重い空気に何か思い当たる節があった。もしかして彼女達は…


「リコ」


 自分の考え事を中断する様に、ボブヘアの彼女がそう言い、ギャルの両手を掴み続け様にこう言った。


「私達ずっと一緒だよ」


 するとリコと呼ばれたギャル風の彼女は、頭を下げて静かに。


「ヒナ、ごめんね、こんな事に付き合わして」


 リコはヒナと呼ばれた大和撫子然とした彼女の手を振り解き、そのままヒナに抱きついて胸に顔を埋めた。

 ヒナは一瞬驚いた様な雰囲気を漂わしたが、すぐにリコの肩に顔を埋め、リコの背中にそっと手を回した。そして顔を上げてリコの耳元で優しく囁く。


「ううんリコ、言い出したのは私でしょ。それに私はリコとなら何も怖くないの。だから謝らないで、リコこそ大丈夫?」


 優しくリコに声を掛けているが、自分にはそれが少し恐ろしく見えた。


「うん…でもコレは私の決意でもあるの。私も、ヒナとだったら何も怖くない」


 リコはさらに強い力でヒナを抱きしめた。ヒナはそれに答えリコを抱きしめ、そして少し嬉しそうにしている様に見えた。

 2人のやり取りに言い知れない違和感を感じながらも、それが何かは分からなかった。

 2人は抱き合ったまま動かない、それはまるでお互いがお互いを支えていなければ立つこともままならない様に見える。


 こんな時間に、こんな雑居ビルの屋上に来る理由はなんだ?シリアルキラーかサイコパス?いいや違う。恋愛相談や秘密を打ち明けるとしても場所がおかしい。そして2人のただならない雰囲気。これは自分の思想に引っ張られた偏った考えかもしれないが、自分が導き出した答えには何か確信のようなものがあった。


 2人は、自殺をしようとしている。

まだ2章?プロローグが1章?プロローグの後が1章?どちらか分かりませんが章の途中ですが、長くなりそうだったのでキリの良さそうなところでとりあえず掲載します。


そんなことも分からない人間が書いている文章です。大いにおかしな所がらありましても、皆様の裁量で読み進めて頂ければ幸いと存じます。


1部と考えていただいてよろしいかと思います。

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