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自殺絆助  作者: 寝藻
出会ってから4日間の出来事
18/19

拙忠庵

目に留めてくださりありがとうございます。

「あっ、いたいた。え?もうお参り終わっちゃった?」


 突然背後から声をかけられたのでびっくりしてしまう。


「ヒナ、来てくれたんだ」


 リコは声ですぐに相手がヒナだとわかり振り向く。


「やっぱり電車よりちょっと早いのね、出遅れちゃった……ってリコ顔どうしたの」


 リコの涙で崩れた化粧を見て小走りで彼女に駆け寄り、こちらをキッと睨む。


「おっさんに何かされたの…ってここでリコがギャン泣きするのはいつものことか」


 そう言ってこちらへの敵意を緩める。またヒナになにかされてしまうのではと警戒していたので安心する。


「ギャン泣きなんてしてないし」


 リコが元気なくヒナに反論して、ヒナは「してますー。去年も一昨年もその前もシクシクシクシク泣いてましたー」とリコをからかうような口調で捲し立てた。


「もう!」リコはそう言いながら近くまで来たヒナを軽く叩き、ヒナはそれ以上叩かれまいとリコにハグをした。


 自分はその2人のやりとりを見て、ほっと胸を撫で下ろす。


 ヒナは胸元で暴れるリコを抱いたまま、そこから見える風景に目をやる。


「ホントいいところだね」


 そうリコに語りかけると、暴れていたリコもおとなしくなり、ヒナの胸元でモゾモゾと視線を海にうつし「うん」と呟いた。


「隣にはご先祖様のお墓、目の前には綺麗な海。ゆうた君は大丈夫だよ」


 ヒナはリコを抱きしめたまま静かにそう言って「私も挨拶するー」と極めて明るくお墓の方に振り返った。


「ヒナ、もう離してよ」


 その間もずっとリコに抱きつきっぱなしだったので、リコがまた抵抗を始める。


「嫌でーす」


 そう言って逃すまいと強くリコを抱きしめ直す。


 いつもより明るいヒナの態度は、この場所でのリコを気遣ってのものだろう。


「私もまた一緒に手を合わせるから離して」


 リコがそう言うと「じゃー仕方ないなぁ」とヒナは渋々彼女の拘束を解いた。


 2人がお墓の前で手を合わせている、自分は振り返り、そこから見える海と江ノ島をもう一度眺める。


 昼下りの優しい風が吹き抜け、頬をくすぐる。海はキラキラと反射し宝石箱のように輝いている。


「おじさん、なに黄昏てんのよ」


 振り返るとお参りを済ませたリコとヒナが、こちらに向き直っていた。


「いや、いい景色だと思ってな」


 そう言うとリコは「そうでしょー」と言い、ヒナは「さっき私が言ったよね、パクんないで」とそっぽを向く。


 そんな2人の反応を見ていると安心してしまう。そうなると、先ほどまでは気にならなかったことが、どうしても気になってしまう。


「腹減ったな、何か食べに行かないか?」


 そんな2人に、率直な。しかし火急の提案を申し出る。


「私もお昼食べてないからお腹空いたかも、リコは?」


「私もお腹ペッコペコ!」


 リコがそう元気よく答えた。

 お腹を満たすことは心を満たすことだ、今の自分達に必要な行為の1つだろう。

 そうなると折角だから美味しいものでお腹を満たしたいが…。

 そう思いスマートフォンを取り出し、地図アプリを開こうとするとヒナが。


「ここの住宅街の中に、古民家を改装したみたいなお蕎麦屋さんが出来てたわよ。近いしそこでいいんじゃない?」


 と提案してくれた。


 バイクで冷えた身体に温かい蕎麦、これは暁光と考えているとリコも「古民家!おしゃれじゃん。やるねヒナ」とヒナを肘でつつく。


 ヒナは「いやーそれ程でも……あるんだけどね」と言い。リコが「なんだとー!」とヒナをくすぐる。


 ヒナに詳しい場所を地図アプリで示してもらいながら。何気なく「駐車場はあったか?」と尋ねると「知らない」と即答された。

 まぁ見ないよな、駐車場の有無なんて…


「じゃーおじさんはバイクで、私達は歩いていくね。先に着いた方が連絡すること。ユーコピ?」


 リコがこちらを指差し通信用語で締めくくる。それが、ここまでの工程が無為なものではなかったと感じさせ嬉しくなり「アイコピー」と返し。ヒナが「何それ?」と惚けた顔をした。


 リコは「蕎麦屋さんまでの道中教えてあげる」とヒナの手を引く。

 2人は本堂前で掃き掃除をしている住職の妻に挨拶をして、門を出てからしっかり一礼して小走りで先に行ってしまう。


 自分は先に行った2人を見送りながら、ゆっくりとバイクに向かう。


 バイクに乗る準備をしていると、背後から声を掛けられる。


「今日はバイク日和ですな」


 振り返るとそこには、袈裟を掛けた住職が立っていた。

 自分は一旦準備の手を止め「そうですね」と答え空を見上げた。


「小春ちゃんの親戚の方だとか、妻から聞きました」


 そういえば、住職の妻には親戚と勘違いされたままなことを思い出す。説明するのは難しいので「はい」とだけ答える。


「私はここでお経をあげたり説法する事しか出来ませんが、あの子の事は夫婦共々いつも心に引っかかっているんです」


 リコの捩れは周りの大人にも伝わっているのだ。自分は「はい」とだけ口にして住職の話を聞く。


「悲しみは時が癒してくれますが、心の傷はいつまでも残り続ける…」


 住職は自分が先ほど見た空を眺めてそう言うと。


「いけませんな、説教くさくなってしまって。これ以上はお布施をもらわなければ」


 と冗談めかしにいい、はっはっはと大袈裟に笑いながら本堂の方に戻って行く。


 住職は一体何を…

 リコの話を通して、まるで自分まで見透かされたような気持ちになりゾクリとする。


「まさか…な」1人そう呟きバイクを発進させる。


 去り際に門から本堂の境界に視線をやると、そこには住職がこちらを向き両手を合わせてお辞儀している。それを見て慌てて頭を下げるが、行き過ぎてしまっていて相手には伝わっていないだろう。


「御仏のご慈悲のあらんことを…か」とまた1人呟き2速へギアを入れた。



 程なくして目的の蕎麦屋前に到着する。バイクを止めるところは無さそうなので、可能な限り道の端に寄せて駐車する。

 住宅街といっても丘を下った辺りだったので、バイク止めてなお2台の車がすれ違う余裕のある道幅があり、迷惑にはならないだろう。


 スマートフォンを取り出しRainを確認すると、まだなんの通知も来ていないことから、リコやヒナより先に着いたようだ。


 改めて蕎麦屋に視線を移すと、2階建てのこぢんまりした古民家に拙忠庵と達筆な文字で書かれた看板が掲げられている。

 これは… "せっちゅうあん" と読むのか?変な名前だ。


 暖簾をくぐり引き戸を開ける。古い見た目の建物に反して扉はスムーズに開き、古民家と言いつつ、かなりリノベーションした雰囲気を感じる。


 店内に入ると屋根に使われている古い柱などがむき出しの状態で天井が高く、外見より開放的な空間になっていた。


「いらっしゃいませー」


 紺色の作務衣に紺色のモンペを履いた、背の低い店員さんが出迎えてくれた。


「3名で、2人はすぐに来ます」


 と伝えると。「こちらへどうぞー」とおっとり席に案内してくれる。


 席に座ってからお茶が出されるまでの間に、2人に連絡しようと、スマートフォンを取り出した直後に入口の引き戸がスッと開き、2人が店内に入ってきた。


「こっちだ」2人に合図すると、スグに気がつき席の前まで来た。


「先に入った方が連絡する!ユーコピ!」


 リコがそう詰め寄って来た。自分も今来たばかりと言い訳しようとすると間髪入れずヒナが。


「あぁあやだやだ、アイコピーとかカッコつけて言ってたくせに約束も履行できないなんて、とんだお馬鹿さんね」


 わざわざ履行(利口)なんて言葉を使ってお馬鹿を引き立てる様なヒナのやり口に閉口しながらも。


「別にカッコつけてないし!それに今入ってきたばっかりだったんだよ」


 と反論する。


「そうなの?じゃー仕方ないか」


 リコはあっさりと受け入れてくれたが、ヒナは "どうだか" と言った顔をしている。


「そんなことより飯だ飯」


 そう言ってお品書きを広げる。

 まず目に飛び込んできたのは、おすすめメニューのしらす蕎麦…しらす蕎麦!!しらす丼を食べ逃し悔しい思いをしていた自分へのご褒美か、大袈裟だが運命的なものを感じる。

 そしてなんと、しらすご飯とセットにも出来るではないか!

 なんと言うことだろう。鴨がネギ背負ってやって来たとはこの事である。

 他のメニューも美味しそうではあったが、3人共オススメのしらす蕎麦。自分はそれに、しらすご飯セットを注文する。


 運ばれて来たホカホカのしらす蕎麦としらすご飯。早速一口しらすご飯を頬張る。うまい。

 しらす蕎麦を啜る。うまい。

 疲れた体にじんわりとしらすの塩分が染み渡り、体の内からポカポカと温まるのを感じる。


 リコとヒナも「美味しいね」「あったまろ」などと言いながら蕎麦を啜る。


 蕎麦を食べ終わり、2人はデザートの抹茶プリンと蕎麦粉のかりんとうを食べる。自分はコーヒを頼み一心地つく。


 すると自分たちだけしかいなかった店内にお客さんが入ってくる。それを見るやヒナが下を向いて顔を隠した。


 そのヒナの態度が気になり入ってきた人を確認すると、なんの変哲もない中年女性の3人組だ。


「ヒナ?」


 リコもヒナの態度を不審に思ったのか、心配そうに声をかける。


 もう一度、女性達に目を向けると、お店に入店してきた内の1人がこちらを見てなにかに気が付いた顔をする。そして友達に何かを話しこちらにやって来た。


「やっぱり、日向ちゃんじゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね」


 その人はヒナの知り合いらしい。ヒナは「こんにちは」と挨拶するが顔は暗い。


「すぐに分かったわよ、お母さんそっくりですもん。髪型も似せてるの?昔のお母さんと一緒でほんとお人形さんみたいに可愛いわねぇ」


 何気ない会話にも関わらず、ヒナの存在がどんどんと小さくなっていく気がする。あまりこの会話を続けさせない方がいいのだろうか?


「こちらの方は?」


 そういうら彼女の瞳は、茶髪で明らかにギャル然としたリコをヒナには不釣り合いな人間とでも言いたげな、自分に至っては不審者を見る様な目で見ている。


 この目は、人をラベル付けして序列を明確化する人間の目だ。

 誰しもがそうしている事ではあるが、度と言う物がある。この人はその度を超えた態度が表情に出ていた。

 少し腹は立つが、ここでの大人気ない対応はヒナの悪評に繋がる。自分は息を整え席を立った。


「挨拶が遅れました、日向さんの友達の叔父です。今日は日向さんの大学進学の相談に、と姪の小春に呼び出されまして。今はご飯を奢らされているところです」


 と笑って対応する。

 こちらが誰で、何故おじさんと女子高生が一緒にいるのかと言う理由としての正当性は立ち、相手がそれで納得してくれそうなでまかせをいう。


 お寺でのリコの親戚と言う立場も利用させてもらった。


「え!あなたも陽子と同じ学習院大学のOBの方。なんだ、そうならそうと言ってくださいよ。すいませんね、お邪魔しちゃって」


 女性はすっかり態度を変え、オホホと笑いながら一緒に来た友達の輪に帰っていく。


 彼女がその大学のOBではなくて良かったとホッと胸を撫で下ろす。

 しかし一体何者だったのだろう。それに "陽子と同じ" と言うのも気になる、話の前後からヒナの母の名前とは思うが。ヒナからその答えが聞けたら良いのだが。


ヒナは膝に手を置き顔を下に向けていたが、すぐに前を向き。


「ごっごめんねなんか、別になんでも無いの。うん、あの人は親の友達でね…良くしてもらってるの」


 ヒナにしては珍しく歯切れが悪い。それがこの場を取り繕う嘘である事は明らかだった。


「おじさん、帰りは1人で帰ってもらっていい?私ヒナと帰る」


 リコがそう提案する。2人だけでしか話せないこともあるだろう、それがいい。


「ああ分かった。でも、ちゃんとそのデザートは完食して行けよ」


 その後2人は、ささっとデザートを平らげ店を出る。


 お店を出る時に、ヒナはあの女性に軽く会釈していた。良くしてもらっているという言葉は本当なのだろうか、少なくとも事を荒立てたくはない相手の様だ。


 店の前で2人に「気をつけて帰れよ」と声をかける。


 リコは「はいはーい」と返事をしてヒナと手を繋いで駅の方へ向かう。


 振り返りふとお店の看板が目に入る。


 拙忠庵


 拙くとも、心を尽くす…か。まるであの2人の関係みたいじゃないか。いい名前だ。


 自分はバイクのエンジンを掛けて、帰路についた。

住職は手を合わせて「南無阿弥陀佛」と唱えてます。

主人公が勝手に「御仏の慈悲のあらんことを」と思ってるだけで。普通の坊さんはフォースと共にあらん事をみたいなこと言いません…まぁ聞いたことないです。


昔から思っていたけど住職ってのはすごく不思議な職業です。

唯一無二だなと思うことは、人の死後に遺族と関わり続けるという部分です。


49日1回忌3回忌7回忌13回忌。これは主な親戚が集まるイベントで。遺族宅には1ヶ月〜3ヶ月スパンでお経をあげにこられます(故人のご家族の状況次第ですが)


その間、遺族の悲しみの歴史を見続けると言うか。やっぱり時間経過とともにどんどん日常にシフトしていくのを見届けるみたいな。

 そな変化を時系列で見続けれるって、仕事としてはないんじゃないかな?


他人の悲しみを見抜く目がめちゃくちゃ鍛えられるのでは?と思わずにはいられません。



余談ですがバイクでの帰り道、おじさんはヒナの知り合いに対して噛まなくて良かった、と心底安心していました。

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