ヤマバ SRX400
ヤマバとはこの世界のバイクメーカーで、元は山で狩をしていた人達が創業者の会社だ!
狩の合間、動物の皮や骨で楽器を作り、その手先の器用さがバイクの開発に生かされているぞ!
ヤマバの祖先は山で狩をする時、二股に分かれたフォークの様な槍を使っていたため、その音叉の様な槍が三つ重なったロゴがタンクに施されているぞ!
SRXとはシングルスポーツ車で、大人気車種SRの流れを汲むモーターサイクルだ。
シャープでコンパクトにまとめられた車体とショートマフラー。モノサスが故見やすい大きなリヤタイヤが特徴的だぞ!
バイクの特徴が気になった人は、ヤマハSRX400後期型で調べると似た車体が検索可能だ!偶然ホントそっくりな車体が現世に存在したぞぉ!←変なテンション
ドッドッドッドッド!
単気筒ならではの心臓の鼓動を連想させる野太い排気音。
一つのシリンダーで起きる大きな爆発が力強い振動となり体を強く揺らす。
キーシリンダーにささった鍵をオフに回してそのエンジンを止め、それと同時にタンクをポンポンと叩いた。
この仕草は癖であり、感謝のしるしだ。
それはこのバイクと言う物に対する感謝。
それはこのバイクに関わった人々に対する感謝。
それは事故なくここまで辿り着けた事に対する何者かへの感謝だ。
これも先輩の受け売りだが、バイクは1人で乗る物だが1人ではバイクに乗る事はできない。作り手や直し手、オイルやガソリン、パーツを供給する様々な人の手が1つの機械を動かすに至っていると言う教えから。乗る前と目的地に到着した際はその全てに感謝の意を示すのだ。
古来より日本人は自然はもとより人工物に至るまで。全てに神が宿ると考えてきた。
日本人の大半は自分は無神教と思っているが、この精霊信仰とでも言うべき教えは、日本人の根底に流れ受け継がれ続けている考えではないだろうか?
これは全てに感謝すると言う教えであり、他人を思いやり優しく接するための教えでもある。
だからバイクに乗った時は、バイクを通して全てに感謝する。カッコ付けでもなんでもない。言わば宗教的儀式なのである。
「なにタンクをポンポン叩いてんの?」
突然斜め後ろからリコに声をかけられ、不覚にもビクリと体を振るわせてしまう。
「それってアレ?今日もありがとうとかヨロシクな俺のバイク、的なやつ?……いやーんカッコいい」
すっごい馬鹿にされてる、今すっごい馬鹿にされてる。そんなつもりではないが、カッコつけてると思われると無性に恥ずかしくなってしまう、
精霊信仰は日本人の根底に…
もう流れてないかも知れない。そんな事を思いながら。
「最近の若いもんは感謝を忘れてしまっていかん」
年寄りの説教風に喋りながら振り向くと。リコが1人で佇んでいる。
いつもはヒナとニコイチなので、1人でいると言うだけでそれだけで少し新鮮なのに、毎度の制服姿で低めの位置でツインテールを作って前に流しているリコではなく、今日はそのツインテールを一つにまとめスカーフを絡ませた三つ編みにして、それを右肩から前に垂らしている。
その姿を見て "走行中の風で髪の毛がむちゃくちゃになるから纏めてこいよ" と言い忘れていたことを思い出して。自分でちゃんと纏めてきた事に感心すると同時に、その雰囲気に驚いてしまう。
格好も昨日の注意点を守ったようで、黒いデニム地のオーバーオールに白いシャツ、上からは黒いジャンパーを羽織って足元は黒を基調に白い差し色が入ったスニーカーを履いてメッセンジャーバックを背負っていた。
ジャンパーの前を閉じればほとんど真っ黒、ヘルメットも黒いので全身真っ黒人間になってしまう。
しかし、明るいリコには似合わなそうな出立ちだがオーバーオールのブカブカとした感じと髪の薄い茶色が、黒一色のアクセントになり違和感はなかった。
振り向いたまま、いつもと違う姿のリコに言葉を失っていると、リコがニヤリと笑い。
「どうどう?ツインテールじゃない私、制服姿じゃない私どうどう?可愛い?言っちゃっていいんだよ、いつも可愛いけどもっと可愛いねって。それともおじさんは制服姿でスカートの方が良かった?ねぇーねぇーどうどう♪」
こんなおじさんをからかって何が楽しいのか。「はいはい可愛い可愛い」と言い軽くあしらう。リコは「ちぇ、おじさんのリアクション面白くない」といじけて見せる。
「でも、いつもと違う髪型にはびっくりしたよ。ちゃんとバイクに乗る時の髪型にしてくれていて安心した」
ちゃんと自分で調べて髪の毛までバイクを乗る時用にコーディネイトしてきてくれた事が少し嬉しくて、言葉を追加する。
「もぉー何その言い方、おじさんなのに照れちゃって。ちゃんと可愛いって言っていいんだよ」
その言葉に気をよくしたのか、ウリウリと言いながら肘で脇腹を突いてくる。
「あぁ調子に乗るな、可愛いは言ってるだろが」と肘を払いのけた。
「いつもの髪型でバイク乗ると、ボサボサの絡まりのカサカサになるってネットで見つけて急遽だよ、この髪形にしてきたの」
リコが少し怒った様なもっと褒めていいんだよと言ったフリをしてそう言うので。すまん伝え忘れてた。と素直に謝る。
「髪は女の命なんですけど、次から気を付けてよね!」
しつこいので「はいはいわかりましたよ」と言いつつ、バイクのメットホルダーに掛けていたリコのヘルメットを外してリコに渡す。
リコは自分のヘルメットを受け取り、ヘルメットに見慣れない機械が装着されているのを即座に見つける。
「何コレ?昨日買った時こんなの付いてなかったよ?」
それは無線機である。バイク搭乗中は前後であろうと声が全く聞こえないので、ヘルメットにインカムを取り付けて走行中でも話ができる様にする機械だ。
「あぁ自分もタンデムでのドライブなんてした事がないから、前後で話ができる様にインカムを取り付けたんだ」
「へぇー、おじさんにしては気が効くじゃん」
インカムの機械をイジりながらリコがそう言う。
「大丈夫、これもお前らの金から支払わせてもらったから」
そう言うとリコは「なにそれ、おじさんのにも付いてるじゃんズッコイ」と反論してくる。
「だって仕方ないだろ、リコのだけ付いてても意味ないし、目的地が分からないんじゃ話しながらの方が誘導もスムーズだろ?」
まぁインカムに興味がなかったと言えば嘘になる。昔友達とツーリングに出かけた時なんかは、インカムがあれば便利だなと言う場面が何度もあり使ってみたかった、と言うのが本音の一部ではあるのだ。
「まぁ確かにそうだけど」
まだ納得がいかないと言う雰囲気を漂わせていたが、そうなることも織り込み済みで、実はもう一つプレゼントがあった。
「それとコレな」
そう言いリコに日本海部品のロゴの入った袋を手渡す。
「え?なになに急に?指輪?指輪なの?おじさん可愛くてたまんない私に恋しちゃってた?」
バイクパーツ屋の袋に指輪なんか入っているわけはない事はリコも重々承知だろう。そんなリコの言動は無視して。
「誕生日おめでとう。これは自分からのプレゼントだ、開けてみ」
リコは「わーやったー。なんだろな、なんだろな」といいながら袋を開ける。
正直そんなに期待されても困ってしまうのだが、すぐ使える実用品としては役に立つ物を購入していた。
リコが袋から物を取り出す。
「わぁ手袋!」
バイク用の黒の手袋が袋から姿を現す。決しておしゃれな物ではなく。手の内側から指先に掛けては薄いスムースレザーで外側はナイロンメッシュ状、ハンドルを握る部分はスムースレザーが重ねられているものだ。
それを見てリコは。
「可愛くは…ないね。でも嬉しい」そういって微笑み「ありがとう」と言って手袋を抱きしめる。
気に入ってくれたのかな?まぁいらないと言われずに済んで良かった。
「早速付けていい?」と聞いてきたので、付けてもらうためにプレゼントしましたと答える。
Sサイズの手袋がちゃんと合えばいいが、とドキドキして見ていたが、装着した感じキツすぎたりブカブカということもなさそうなので安心する。
「じゃー早速行こうか。…とその前にだな、バイクの後ろに乗る上での注意点を幾つか言っておくぞ」
リコはおそらくバイクに乗るのも初めてだろう。後ろに乗る人間には後ろに乗る人間なりの作法というものが存在する。
「なにそれ、難しいのとか無理だよリコは」
そう言うリコに、大丈夫難しくないからと言い説明を始めた。
「まずバイクに乗る際は、勝手に乗り降りせず、自分の号令を待つ事。単純にこっちに乗り降りさせる姿勢が出来てないと危ないし、立ちゴケとかしてほしく無いだろ?」
「号令って」と笑いながら、わかりましたーとあまり気のない返事をする。
「それとバイクの後ろにいる時は無闇に動かない。例えばカーブなんかでカーブ方向や逆方向に重心をズラす必要は無いって事。荷物然としてくれてると1番助かる。変に動かれるとハンドリングに影響が出るので危ない。事故ってほしく無いだろ?」
リコは「怪我するのは嫌」と言いオッケーと指で丸印を作る。
「それと最後に、自分の腰を絶対に持たない!だから手は、このシートにあるベルトを掴むか、後部座席のサイドにあるバーを…ってこれは握りにくいか。自分の肩、自分に触りたくなかったらこの斜めがけにしてるボディーバックを掴む様にしてくれ」
この説明には何か納得していかなかったのか、反論が飛ぶ。
「ん?なんで?普通腰に手を回したりするんじゃ無いの?男の人って後ろから抱き付かれるの好きじゃん」
好きか好きじゃないかで言うと、確かに好きかも知れない。しかし自分にはそうされると困る決定的な原因があった。
「実は…自分は極度のくすぐったがりなんだ!腰なんかに手を回されたら笑い事故る自信がある。もちろん不安定そうだなと感じたら安全運転で行くから、緊急時以外は肩を掴むでお願いします」
そう言うとリコは笑って、はいはいわかりましたと返事をしたかと思うと、素早く腰目掛けて手を伸ばしてくる。
不覚にも油断していた自分はリコの手が腰に触れるのを阻止できない。
「ワッヒョイ」と言う声にならない笑いとも叫びとも取れる声が口から飛び出して、すぐにリコの手を払い除けた。
リコは「へっへっへー」といやらしい手つきをして笑い、執拗に自分の腰を狙って手を出そうと狙っている雰囲気を醸し出す。
この状態になってしまったら、もう自分の笑いを止めることはできない。触られるかもと言う恐怖が笑いに転化されてしまその相乗効果で過呼吸のようになる。
「フヘッちょちょちょ待て!ブフッやめろやめてくれハヒッ」
リコは腰の引けた自分の態度を見て、更にイタズラっぽく笑い、うりゃうりゃと腰に触ろうとヘルメットを持っていない方の手を伸ばす。
だめだ、このままでは本当に息が持たない。
何度も腰に向って手を出す、それを払いのけるを繰り返していたが、このままでは本当に息が吸い込めなくなってしまう。相手の手を払いのけていただけでは埒が明かない。
自分はリコの腰に伸びるてくる手首を必死で掴み、その状態で腰から遠い上方へ腕を持ち上げた。
一応痛くならない様に手がギリギリ抜けない程度で手首を締め付ける。リコは突然捕まれ手を腕ごと上へあげられ、バランスを崩す。
自分は執拗な攻撃が止んだ事で、過呼吸の様になっていた息を整え、次第に落ち着きを取り戻した。
「おじさん、近くで見ると毛穴開いてるね」
気が付けばリコがすぐ眼前にいた。
リコはバランスを崩した事により前のめりになり、今や身体が密着しそうな程、お互いの呼吸が感じられる程2人の距離は近かった。
近づかなければ分からなかったが、リコからはいい香りがする。
「あぁ、わっ悪い」
すぐに手を離して謝るが、バツが悪くて顔が見れない。こんな時にヒナがいてくれたら即座に鉄拳制裁をお見舞いされて事なきを得るのだが。今は自分とリコしかいないので、この事態をどう収集して良いか戸惑うしかなかった。
「おーじーさーんーの…エッチエッチエッチエッチ!」
そんな風にドギマギしていると、リコがエッチのタイミングで猛烈に腰をくすぐってきた。
自分は人目もはばからず、大声で笑わせられて息も絶え絶えになる。その横で「ふぅースッキリしたぁ」と、何かをやり遂げた様にリコは額の汗を拭うジェスチャーをした。
「はぁーはぁーはぁー。兎に角。これ運転中したら2人とも死ぬから。絶対やめろよはぁーはぁーはぁー」
くすぐったがりな事がバレておちょくられる事より、この場の雰囲気がドギマギせずに済んで良かったと荒い呼吸をしながら考える。
「これは、ホント駄目なレベルのくすぐったがりだね」とリコは笑った。
リコは本当によく笑う。なぜあの屋上にいたのか、なぜあんな事をしようとしたのか、ここ数日付き合ってみてもその一端どころか雰囲気も掴めずにいる。
快活でおてんば、イタズラ好きで天真爛漫。かと思えば変に思慮深いと感じさせる部分もある。
リコといると、あの日の事が本当の事なのかどうか疑わしくなってしまう。
「何か飲み物…コーヒーでも飲んで行くか?」
すこし考えに耽ってしまっていた、振り返りリコにそう声をかけると、リコはバイクのタンク部分にそっと手を置いている。
表情は見えないが、真っ黒なその後ろ姿は一瞬、喪に服している様に見えた。
リコがこちらの声に反応して振り向くと、いつもの笑顔の彼女だ。やはり自分の思考はどうかしてしまっている。どうしてもリコの様に幸せに(42)考えられないのだ。
「ううん大丈夫、トイレもバッチリ!早くバイク乗ってみたい」
リコはそう言って首を傾げ、にっこりと笑った。
どのバイクにするか迷いましたが(まぁシングルなのは決まってたけど)SRより後に出たのに、SRより短命だったSRXさんに白羽の矢当てさせていただきました。
私も単気筒のバイクが好きです。整備しやすいし。




