啖呵
ファーラの言い方にカチンときたナハスは言い返した。
「ああ、俺が出てけばな。でも出ていかないと言ったらどうする!」
ナハスはふてぶてしく腕組をしながらファーラを見ていた。
「問題ない。さすがにトイレや風呂までついてこられると厄介だが。そんなに見たきゃそこに居座ってろ。」
そういってファーラはドレスを脱いだ。
本当にいきなり脱ぎだしたのであわててナハスは顔を剃らし、床を見る。
が、ちらりとファーラを見るとドレスの下からまた違う衣装が出てきた。
「ふぃー。暑かった。暑いし重いな。」
ファーラは青色の袖や襟の広いふわふわのドレスを着ていた。
ドレスの下から見えていたあのレースのような服だとナハスは納得した。
ミニスカートに太ももあたりまである長いロングブーツさっきまであった髪飾りはすべて外され、髪の毛は緩やかなカーブを描いていた。
「姫様、それは正式には下着にございます!」
「ああ、わかったわかった!」
ファーラは部屋にあったチェックのテーブルクロスを三角になるように折り畳んでから腰に巻き付けた。
すべてがちぐはぐなのにすべてで成り立っていた。
「これでどうだ!」
「テーブルクロスを・・・・・・。」
カリアは呆れて物も言えないらしかった。
ナハスはさっきまで怒っていたことを忘れ、クスリと笑った。
「何笑ってるんだ。」
いきなりファーラの顔と体が近づく。
「や、おまえらしいなと。」
ファーラと目を合わせたとたんドキリとして目を逸らす。
「おいこら。なぜ逃げる。」
さらにファーラがナハスの顔を覗き込もうと追い掛け、体はほぼ密着状態にあった。
「ひ、姫様!」
ナハスに救いの手がかかった。
「なんだ?」
「そのような格好はしてはいけません!ひ、姫様が・・・・・・姫様が異性を襲っているようにしか見えません!」
「何!?カリアから見ると私がナハスを襲っているように見えるのか!」
ファーラは目を真ん丸に見開いてからお腹を抱え、ゲラゲラと笑いだした。
「傑作だな!女が男を襲うか!しかも私が?ナハスを!」
ひとしきり笑ったところでまだいきを乱れさせながらファーラは言った。
「まあ?確かにナハスは幼なじみだからな。私から襲わないと女としては見てもらえないかもしれないが・・・・・・だが・・・・・・」
またそういってクククッと笑いだした。
「笑いすぎだろ。」
ナハスがジロリとファーラを睨み付ける。
「わ、悪いな・・・・・・だ、だが・・・・・・。」
ツボにはまったらしく苦しそうに息を切らしながらもなお笑っていた。
ナハスはファーラを片手で押し、ベッドの上に倒すと一言冷たい感じに言い放った。
「逆だろ。お前が俺を男だと思ってない。」
するとファーラの目は輝きだした。
「ナハス!このベッド気持ちいいぞ!」
ガバッと起き上がり、ファーラはカリアとナハスを巻き添えにしてベッドに押し倒した。
「キャア!」
「うわ!」
「あはは!」
しばらくしたが、ファーラが動かないので二人は起き上がれずにいた。
「ひ、姫様?」
カリアが声をかけるとファーラは二人を抱き締めるようにして腕に力を入れた。
「よかった・・・・・・お前たちが一緒にいてくれて。」
そうつぶやいて二人から離れた。
ファーラは二人を残し、ベランダというか、庭?に出た。
辺りは薄暗かった。
カリアはナハスを見るなり微かに微笑んだ。
「あなたも大変ね。」
「・・・・・・何が?」
「姫様が好きなのでしょう?でも、ほら・・・・・・姫様はあの通りだから。私も姫様のことは好きなの。だけど・・・・・・鈍いようで鋭いから気を付けなきゃ。もちろん好きって言うのはあなたとは違う感情だけれど。それに、片思いのつらさは・・・・・・私も良くわかる。」
「はぁ・・・・・・鋭いかな?俺男じゃないのかも。少なくともあのじゃじゃ馬姫にとっては。」
「カリア!ナハス!こっちへこい!」
いきなりファーラが二人を呼んだ。
「はい。」
二人がファーラのもとへよる。
「あんまり大きな声では言えないが・・・・・・この国はシステムがおかしい。何故平民があんなに貧困に喘いでいて国王が成り立つ?あんなに国が荒れていてはとれる税もとれぬはずだ。それで何故国王がこんなに豊かでいられるのか?不思議だとは思わないか?」
「言われてみれば・・・・・・国なんて税で成り立ってるんだよな。平民が反乱を起こせばここまでひどいことにはならなかったはずだが・・・・・・。」
コンコンと扉をたたく音がした。
カリアが扉を開けるとそこにはブァレッチア王子がいた。
「これはこれは王子、こんな時間にどんなご用でこちらへ?」
「口の聞き方には気をつけろと僕の父に言われませんでしたか?」
「言われましたよ。ですが変えるつもりはありません。私は国を捨ててはいませんしね。それに話し方が変わったようですね。王子。」
「あなたに話があってきたのですよ。二人を別の部屋にはけてもらえませんかね。」
「・・・・・・二人がいてはいけないような話をするのですか?」
「これは王族の話ですからね。あの二人には関係ありません。」
「かまいませんよ・・・・・・すぐ部屋から出ていってくれると約束していただけるのならば。」
「ハハハッ、お厳しい。」
ファーラが二人に合図をすると二人ははけ、部屋にはファーラとブァレッチアの二人になった。
「で、お話とは?」
するとブァレッチアは目にも止まらぬ早さで電気を消し、ファーラを押し倒した。
「やめろ!何をする!」
驚きのあまり声が裏返った。
「夜、部屋に王が来て娘が王を部屋に入れたとき、それは肉体関係を許したことになる。」
ギュッと片手でファーラの両腕を頭の上で押さえ付けた。
「やめろ!私は許してなどいない!」
「ならなぜ下着姿でいる!望んでいたのだろう!」
「そんなわけないだろう!動きにくかったから脱いだだけだ!」
「ユリアから望んで来たんだろう!?俺の妻となるために!」
ファーラの首元にブァレッチアの顔が埋まり、思わずファーラは身震いした。
「ふ、ざけるな・・・・・・!」
足がブァレッチアの心臓より少し下、お腹の辺りにあたった。
いや、正式には蹴ったのだ。
「グッ!」
ブァレッチアがひるんだののと同時にファーラは逃げ、脱がされかけた肩を押さえながら部屋の電気を付けた。
この時、ファーラは初めて自分がブーツをはいていてよかったと思った。
かたい分だけ威力が強く、皮膚じゃないぶんだけ、滑りやすく押さえ付けられても抜けやすかったからだ。
「何故だ・・・・・・。」
二人は息切れをしていた。
「今すぐお帰りください王子。私はあなたの多妻趣味の中の一人になる気はありません。そんなに女子が抱きたいのなら、あなたを自ら進んで求めてきている昼間のような女子達をおだきになりなさい!私はあなたの子を産む気も、あなたの多妻になり、言いなりになるつもりも自我を殺す気も、一切ありません!そんな私の態度が気に入らないと申すなら最初から申し上げました!私からこの家なり城なり奪えばいい!力が全てではないことを証明してみせます!」
「本当に・・・・・・屋根がなくてもかまわないと?」
「ええ!」
「クックック。ここは力がものを言う地です。今後が楽しみですよ・・・・・・ファーラ姫。」
そういってブァレッチア王子はファーラの部屋を後にした。