姉弟
「タイターナは・・・・・・貿易国だな・・・・・・どういうことだ?なぜ私が行かなければならない!」
そこへカリアが出てきた。
「失礼ながら王様!どういうことですか!民達は皆、姫様が次期王になることを望んでおります!今の言い方ですと、姫さまを厄介払いしたいようにしか聞こえません!」
すると、王は悲しく微笑んだ。
「私も厄介払いしたいわけではないんだよ。これでも実の子・・・・・・可愛いには可愛いのだ。そしてファーラ、お前の持ち前の明るさを使ったらタイターナへ行くのも簡単だろう。最近我が国にタイターナがあまり来ていないことをファーラなら知っているね?」
「ああ・・・・・・そう言えば今日来たのもタイターナではなくアナガンダス貿易船だったな・・・・・・。」
「タイターナは今、とてつもない力を発揮していて、とてつもない膨大な国になったらしいのだが、もう他国を近付けないのだよ。だから現国王である私を近付けてはくれなかった。国に入ることはおろか、近付くことさえだ!」
「だから・・・・・・まだ父様より弱い権力の私を・・・・・・タイターナへ嫁がせると言うのか。」
ファーラは国王を睨み付けていた。
「嫁がなくてもいいだろう。ただし、タイターナにはユリアを捨てたということにして0からのどん底生活が始まる。」
「そんなのいやだ!私はユリアのことは好きだ!みんな、この自然も、ここの人たちも!全てだ!私は王位なんかいらない!」
すると今まで黙っていた王妃が口を開いた。
「そういうと思いましたよ。ファーラ。まだ相手を愛するということを知らないあなたを嫁がせたくはありませんが、これ以外に方法はないのです。わかってください。」
「母様・・・・・・では聞くが、何故セタルではなく私なのだ?やはり私を国から追いやってセタルを次期王に継がせるためではないのか?」
「どこまで私達は信用がないのでしょうね。」
王妃はふぅっとため息をもらした。
「私はこの目で、この耳で真実を知った。貴方達は私を王にはしたがらなかった。そのかわり、セタルを溺愛し続けた。結果、可愛いセタルに跡継ぎをさせたくなった・・・・・・そうだろう!」
途中からファーラの声はふるえ、最初の迫力ある声は徐々にかき消されていく。
最後には涙目になりながらファーラは王達を睨み付けていた。
腕に抱かれているセタルをファーラはセタルが6や7歳になってセタルが母親を自ら振り切るまで何度も何度も見た。
セタルが憎いわけではなかった。
何もできないのだから仕方ないと自分に言い聞かせていた。
そう思うことで何もできないセタルを一人の人間として嘲笑っていた。
自分は三歳からの記憶しか無いが、もうその頃には抱かれていた記憶がなかった。
1人でたち歩き、城内の兵士や女中たちと遊んでいた。
そんな中、出会ったのはカリアだった。
一番歳が近く、何より気が合った。
お互いの間に身分差はまだなかった。
叫んで怒って喧嘩して。
同等な子供として一緒にいるはずだった。
でもカリアが五歳辺りになると、カリアは自分を押さえ付けるようになった。
それが五歳児にとってどれだけ辛いことだっただろう・・・・・・。
そしてそれを私は寂しく感じていた。
誰よりも近いと信じていたから・・・・・・。
そんな中、城内に閉じ込められ、不満は爆発した。
私は実の母親に弟のようには愛されなかった。
そして父親でさえ、娘を見ることはあまりなかった。
私には関心がなかったのだ。
でも私はその分国の人たちから愛され育った。
だからこの国が好きだし、親をあまり憎まずにいられる。
その私が厄介払いしたいようにしか見えない扱いを受けている。
「どこまで母様は私を傷つければすむんだ。どこまで父様は私を踏み躙ればすむんだ!ついにはこの国を出てけと!一体貴方達は私をどこまで苦しめれば気が済むんだ・・・・・・。」
「ファーラ、落ち着いてください。厄介払いしたいわけではありません。タイターナには男尊女卑のような特殊な制度があるのです。ですから王は必ず男ではなければならない決まりがあります。必ずしも皆、ユリアのような国ばかりではないのですよ。ですからセタルは国には近付けてはくれないのです。あの国へ行くには最低でも条件が二つ。国王ではなく、尚且つ女であること。ちなみに次期王がファーラ、あなたと歳が近いのです。ちょうど送り込むにはいい相手となるでしょう。」
「母様!!」
「まずはその言動すべてを直さなければなりません!しばらくはレッスンを受けていただきますよ!カリア、あなたはファーラを見張っていてください。」
カリアもファーラも納得せぬまま王宮の間を締め出された。
締め出された先には弟のセタルが腕組をして立っていた。
セタルはすでにファーラの背を越していてファーラは見下される形となった。
セタルは壁に寄り掛かっている。
「・・・・・・セタル。」
「セタル王子・・・・・・。」
ファーラと一緒に出てきたカリアがセタルにお辞儀をする。
セタルはそんな二人を見るなり嘲笑った。
「フッ。いいきみですよ姉様。親の愛も王座も、民の愛も全てを受け取れると思わないでくださいよ。」
ファーラは眉をしかめた。
「どういうことだ?王達の溺愛はおまえが受けたのだろう?それに私は王位などいらぬ。」
「そういうところがムカつくって言ってるんだよ!」
セタルの怒鳴り声に強気に出たファーラも体をすくめた。
「父様だって母様だって姉様を心配なさってましたよ!姉様は手のかからない子だと!そして姉様は本当に何でもできた。民に愛され、王座を得ることさえたやすかった。なのに姉様は王位などいらぬと言った。屈辱だよ。わかるか?何もかも手に入れることの姉様と違って僕は!姉様のお下がりで王位にされるところだったんだ!そんなの僕の実力じゃない!僕だって王なんかどうでもいいんだ!姉様は何でも手に入れていくのに僕は姉様のおさがりか!?ふざけるな!」
「セタル・・・・・・。」
「セタル王子!それはあんまりです!姫さまだって・・・・・・!」
カリアの前に手を出した。
カリアはびっくりしてファーラを見るが、ファーラはそれ以上しゃべるなと首を振ってカリアを制した。
「・・・・・・申し訳ありませんでした。姫さま。」
納得の行かなさそうな顔でカリアは後ろに引き下がった。
「私のお下がりが嫌なら・・・・・・何故私より先に生まれてこなかった!私だって母様の腕に抱かれてみたいと願う幼い時期だってあった!だがいい、そんなに私が何でもできると思うならお前も終わったな。そんなひがみぽいのではこの国の王になるのは難しいぞ。王は民から決まるのだからな!」
「姫さま!そのような言い方ですとあまりにも!」
カリアが止めに入ったがそれもむなしくかき消されてしまった。
「カリア!行くぞ!」
「はい・・・・・・。」
早足でセタルの前を通り過ぎるファーラをカリアは小走りに着いていき、セタルの前に行くと、微かにお辞儀をした。
「失礼します。」と呟いて。
セタルは頭を鷲掴みにした。
「どうして・・・・・・姉様ばっかりいいとこどりなんだよ・・・・・・。」
セタルもそれなりの美貌を持ち合わせていたが、ファーラは何故か全体バランスが整っていた。
セタルもファーラをひがみ、眉間にしわなど寄せていなければ美貌はファーラにも別に負けはしないことを知らない。
ちなみにファーラは活動的なので骨格のバランスに引き締まった筋肉が付いているだけだ。
セタルは城からあまり出ずに家訓を守ってばかりいたのでそれなりの筋肉はあるものの、貧弱そうに見えるのだった。
自分の部屋に戻ったファーラはしばらくボーッとしていた。
「あの・・・・・・姫さま、お召しかえを・・・・・・。」
カリアがファーラに声をかける。
「ああ、そうだな。正装はどうも苦しくてダメだ。」
そういいながら着替えはじめる。
「姫さま、先ほどの言い方ですとあまりにも姫さまが悪人になってしまいます。」
すると、ファーラはフッと笑った。
「カリア・・・・・・聞いたか?セタルは私のお下がりで全てを手にしているのだと言ったよ。あいつにはあいつのいいところがあるのに、どうして私と比べたのだろうか。やはり王位継承者だからだろうか。」
「だからってあのように姫さまが自ら悪人になるようなことを言わなくても・・・・・・。」
「カリア・・・・・・知っているか?ずっと城内に閉じ込められていい子をやっていると・・・・・・ストレスがたまるのだ。きっとセタルには私以外そういう感情をぶつけられる相手がいなかったのだろうな。私にはカリアがいるが、セタルにはいない。それはつまり孤独を示しているのではないかと私は思うんだ。さっきはついつい感情的に言いすぎてしまったが、これでいいのだよ。きっと・・・・・・。」
そう言ってファーラはフッと遠くを見た。