狙われし姫君2
「あ・・・・・・。」
ファーラは思わず顔をそらした。
少しだけ・・・・・・怖い。
男の目だ・・・・・・ナハスもたまに見せることがある獲物を狙う“獣の目”・・・・・・。
「何で目を逸らすのかな?そんなんじゃ、無防備すぎて簡単に侵入できちゃうよ?」
ブァレッチアはファーラの首筋を指でなぞった。
「いや!」
ブァレッチアの手をファーラは勢い良く振り払った。
「身の上の安全を確保していただいたんでしたよね?」
「ええ、もちろん。だけど近づくなと言われたわけではないし、今のも少し挑発しただけです。」
「挑発!?」
「しかたないでしょう。俺はあなたに近づきたくてウズウズしてるんですから。」
確かに・・・・・・この王子のクセは自分を偽るとき話し方を変える。
さっきの挑発のセリフもそうだった。
つまり、挑発なんかじゃなかった。
本気が・・・・・・入っていた。
私は・・・・・・狙われていたのだ。
「どうして・・・・・・私なのです。」
「未知なる物だから。前にも言ったでしょう?俺に歯向かうものはいない。それに君は不思議な人だ。心を許せる偉大な存在だ。」
「・・・・・・私は王子に好かれるようなことをしたおぼえはないのですが・・・・・・。」
「君は知らないだろうね。俺に心を開いていいといったのは君だってこと。昔、タイナーナは一度かなり弱ったことが合った。俺はユリアや様々な国を旅しながら各国に力を貸してくれるように頼んでいた。ユリアには君がいて君は俺を城のそとから連れ出してくれたことがあった。その時に俺の心は自然に君に開いていた。君が俺の妻候補となると聞いたときは嬉しかったんだ。でもすっかり心は閉ざされて君にあっても憎まれ口しかたたけなくなっていた。俺はこんなに変わってしまったのに君は変わっていなかった。嬉しかった。再び君は俺の前にいる。ただ、それだけのことだけど。」
小さい頃、王の血を引きながらにして窮屈な生活を送っている王子を見つけた。
誰もいない部屋の片隅でうずくまるようにして膝を抱える王子が私にはセタルのようできのどくでならなかったから王子を無理やり城外へと連れ出した。
王子は笑顔を取り戻したけど王子が別の国へ渡ったあと私はとても怒られたことを覚えている。
「え!?ええええ!?嘘、あの時の王子が・・・・・・ブァレッチア王子・・・・・・!?」
「そう。」
「だってあの時はまだ子供で・・・・・・顔も、国も覚えてなくて・・・・・・そんな・・・・・・あの寂しそうな王子が・・・・・・で、でも王の子なら王子じゃなくたって旅はできたんじゃないんですか?」
「俺は弟だからね。兄が病弱じゃなきゃ兄がいくはずだったのさ。」
「お兄様は・・・・・・?」
「だいぶ前に亡くなったよ。俺たちと同じ年だった。」
「・・・・・・ごめんなさい。」
「別に。昔のこと、よく覚えてたな。」
「ええ、お父様に怒られましたから。」
「君も俺も同じだな。王の話をするたびに寂しそうな顔をする。他人から見たら羨ましがられる対象のはずなのに・・・・・・不思議だ。」
「そう・・・・・・?」
そしてファーラが顔をあげるとブァレッチアがキスをしてきた。
ゾクリとする。なんか、嫌だ。
ファーラはブァレッチアを押し退けると部屋を跳びだした。
口をふきながら罪悪感を感じていた。
まえにナハスにされたときはいやじゃなかったのに。
「ファーラ!」
「あ・・・・・・ナハス・・・・・・。」
今、一番見たくない顔だ・・・・・・。
「何で顔そらすんだよ?」
私・・・・・・私は・・・・・・キスを・・・・・・した。
ナハスに・・・・・・お前に見られたくはない・・・・・・ことを・・・・・・してきた。
今は・・・・・・私の顔を見ないでくれ。
自分で自分がわからなくなってきてるから。
「や、めろ。」
「は?」
「やめてくれ!」
ナハスはそれでも無理やりファーラを見た。
ファーラの顔は歪んでいた。
ただ、手で唇をごしごしこすっているところに目を付けた。
「・・・・・・キス・・・・・・したのか。王子と。」
「あ・・・・・・。」
だから嫌だったのに。
また、ナハスに悲しそうな顔を私はさせている。
「よかったな。」
よかった・・・・・・?どういうことだよ?
「それは・・・・・・王子の妻に近づいてきてよかったと言いたいのか?」
口が震える・・・・・・心臓が・・・・・・苦しい。
「ああ。」
「よく・・・・・・わかった。ナハスなんか嫌いだ!だいっきらいだ!」
そういってファーラは走りだした。
なぜ私はここまでムキになってるんだろう。
バカみたいだ。本当はきらいなんかじゃないくせに偽りをかたって勝手に怒鳴って・・・・・・そして逃げた。