好きの意味
部屋にため息をつきながら戻るとナハスが駆け付けた。
「カリアさんから聞いた!平気だったか!?」
「おう!問題ないどころか身の上の安全を確認することに成功したぞ!」
「そうか・・・・・・。」
ナハスがホッとした表情を見せたが直ぐにそれも硬直した。
「おまえ、それ・・・・・・プレゼントじゃ・・・・・・。」
「あ?うん。機能性をとったほうがいいだろうって。正妻候補からは抜け出せなかったが、プレゼントには特に意味はないと王子本人がそういっていたしな。なあ、ナハス・・・・・・人を好きになるってどういうことなんだろうな?」
「なんで俺にそんなこと聞くんだよ。」
「カリアにも聞いた。でもよくわからない。誰かが特別で誰かと同等ではいけないとカリアに教わった。でも、私はよくわからない。その人ばかり見てその人ばかり追い掛けてしまうということ・・・・・・。」
「・・・・・・それはお前が俺を意識することは皆無だと言いたいのか?」
「違う・・・・・・ただ、純粋に知りたいんだ。カリアやナハスも経験している痛みを私は知らない。知らないからこそわからなくてわからないからこそ知りたいと思うし、理解したいとも思うんだ。」
「ふーん?じゃあ今俺が誰かを好きだって言ったら?」
驚いたと同時にファーラの心臓が少し跳ねた。
私を好きといったのは嘘ってことか?・・・・・・と。
「お前のしたいようにすればいい。」
ナハスはため息をついた。
「まだまだだな。いいよ。無理する必要はねえんだ。少しずつお前の決めた誰かと恋でも何でもすりゃいいだろ。」
「・・・・・・その言い方じゃまるで私とお前は対象外みたいだな。」
「実際そうだろ。」
「なんでだ?一人の人間だろ?そこには身分差などない。それとも・・・・・・お前は私を身分差なしで見たことはない・・・・・・と?」
「当たり前だろ!身分差があるんだよ!だから俺はここにいるんだ!」
「やっぱりお前も身分なのか!近づいたのが私が王位継承者だったからではなかったとしても、私を単体で考えたことがなかったということか!」
「違うだろ!・・・・・・あるんだよ・・・・・・いろいろ問題が・・・・・・お前という単体の中に・・・・・・姫さまっていう身分が・・・・・・。」
あわててファーラはナハスの口を両手で押さえた。
「ムッ!?」
ファーラの方を見ると、ファーラの視線の先にはこちらを向いたカリアがいた。
ファーラはあわててナハスから手を離した。
「カ、カリア。もう寝る支度をしなければならないな!」
「姫さま、いいんです。いいんです・・・・・・どんなことを話し合っていたかぐらいわかってますから。そんなにあからさまな反応をしないでください。」
カリアは“ニコリ”と笑い、上布団をもってくるとベッドの上に広げた。
「カリア・・・・・・。」
「なんだ?カリアさんがどうかしたのかよ。」
「・・・・・・おまえがたいして鋭い奴じゃなくて助かってるよ。」
また・・・・・・カリアに無理をさせてしまった。
また・・・・・・私のせいで・・・・・・。
「お前のせいじゃねえよ。」
びっくりして顔を上げる。横にナハスがいて、声はナハスのものだった。
「え・・・・・・?」
「何考えてんのか知らねえけど、お前のせいじゃねえよ。」
「な、何言ってんだよ。」
そうだ・・・・・・ナハスは昔から私が考え事をしていると私の感情を読み取ったかのように私がほしい言葉をくれる・・・・・・もしかしたらそんなやさしさに私は何度も甘えたのかもしれない。
欲しい欲しいばかりで望んでいた私に与えてくれた言葉の数々・・・・・・気付かなかった。
なんでだろう。
これが当たり前だと感じていたから・・・・・・か?
「知ってるか?お前は自分のせいだって気負ってるとき、下唇を噛み締めるんだ。」
「え・・・・・・知らなかった・・・・・・。」
ファーラは思わず自分の唇に触れた。
「やっぱりか。」
ハッと息が吐き出され、ナハスは笑った。
「おまえ、そんなふうに笑えたんだな。」
「は?」
「最近お前は笑わなかった。ここ数年会ってなかったからだけかと思ったが、違う。笑ってもいつも寂しそうに笑った。心のどこかで本気で笑ってなんかなかった。でも・・・・・・やっと心から笑えるようになったんだな。」
ファーラはナハスの顔に触れた。
「そうか?」
ナハスはパッと顔を剃らした。
ファーラはナハスに一度期待させるなと怒られたことを思い出した。
「あ・・・・・・す、すまない。」
「いや、別に。なあ、本当にこのままあの王子の妻になっちまうのか?」
「ならない。できれば・・・・・・なりたくない。」
「何で?」
「わからない。でもなりたくないんだ。あの王子のことも、そこまで嫌いなわけじゃないんだが・・・・・・でも、なんだろう。嫌なんだ。結婚するくらいなら好きな人も愛する人もできなくていい。私は・・・・・・うまく言えないけど・・・・・・まだお前たちといたいんだ。」
うまく言い表わせない。
王子のことも嫌いなわけじゃない。
でも妻にはなりたくない。
まだ知らないことや知りたいことがたくさんある。
それに、嫌なんだ。ナハスに私の花嫁姿を見られるのが・・・・・・。
「ファーラ。」
「何だ?」
「気持ちが迷惑なら迷惑といえ。諦めるから。はぐらかされ続けるのは正直、辛いんだ。」
「迷惑なんかじゃない!た、ただびっくりしただけだ。私もナハスが好きだけど・・・・・・私とナハスの好きは・・・・・・違うんだろ?」
「違うね。」
「もう寝よう。いくら考えたって今すぐにはわからないよ。また明日な?ナハス。」
「おう。」
ベッド前までいくとカリアが1人で座っていた。