風呂場騒動
「本当にお二人は仲がよろしいですね。」
「カリア!そう言えばな!私、初めて知ったんだけど、人の唇って柔らかいんだな!」
ナハスとカリアが二人して吹き出した。
「な、何を姫様・・・・・・!」
カリアは言葉を突っ返させ、ナハスは顔を真っ赤にしながら苦しそうに咳き込んでいた。
「いやな、よくわからないじゃないか。口とか皮膚とか。いやあ、知らないことはまだ多いな!」
目を輝かせながら片手に拳を握り、うんうんとうなずくファーラ。
「ひ、姫様?そのお首は・・・・・・!」
「あ・・・・・・?」
バッと目にも止まらぬ早さでファーラは首元を隠した。
「悪い。前からあったんだからちゃんと最初から隠しておくべきだったよな!」
「え・・・・・・前から・・・・・・?そっちでしたっけ?」
「何か勘違いしてるんじゃないか?カリア、しっかりしてくれよ?」
ファーラは必死にごまかしていた。
「カリア、風呂へ行くから用意してくれないか?」
「・・・・・・あ、はい。」
その間、ナハスはずっとハラハラしていた。
「姫様、用意ができました。」
「ありがとう。じゃ。」
ファーラが風呂場へ向かってから数時間たち、出ようとした時、王が風呂場に入ってきた。
「じゃじゃ馬姫、こんばんわ。」
バスタオルを前にして手でおさえつけ、王を睨んだ。
「こんばんわ。王様。あなたの風呂場はここではないはずです。このような場所ではなく・・・・・・屋上の特大の場所でしょう?」
「そなたに拒否権はないよ。」
ファーラは二~三歩さがり、おけをつかむと勢い良く王を叩いた。
「出ていけこのド変態王!カリア!ナハス!」
すぐにカリアとナハスが駆け付けたが、王はすっかり地面にのびていた。
「ファーラ!おまえ・・・・・・どんな格好で俺を呼んでっ!」
ファーラはバスタオル一枚というかなりきわどい格好をしていた。
首元は幸い髪の毛で隠されていた。
「いいからこの王を外へ運びだしてくれ!」
ナハスは王を運び出し、廊下にねかせた。
「悪かったな。いきなり呼び出して。」
服を着て、濡れた髪の毛を束ね、片足しかはいていないブーツをはきながらファーラはナハスの元へ行った。
「なんだ?その格好。ずいぶん露出が多い気が・・・・・・。」
「ああ、色やデザインは少しばかり派手だが動きやすいんだ。踊り子の服だってさ。しかもズボンのな!」
ナハスの前でもう片足のブーツをはく。
「いつからお前は踊り子になったんだ。」
そういいつつ、普段見ることのないファーラの姿にチラチラ視線を送るナハス。
「やっぱり変か?」
ブーツをはき終えたファーラがナハスの顔をのぞく。
「あ?まあ、そのブーツはないだろうな。」
「それならば・・・・・・サンダルという手がありますよファーラ姫。」
「ブァレッチア王子!」
いきなりあらわれた王子に皆驚くばかり。
「どうしてこちらへ!」
ファーラは少し強い口調で刺々しく言った。
「あなたにあいにきました。僕の正妻候補者ですからね。あいにきて当然でしょう?」
「ですから、何度も申し上げたでしょう!私はあなたの妻になる気はありません!その前に!あなたの子を産む気もありません!女子が抱きたいのなら私でなくてもかまわないでしょう!だいたいどういう風の吹き回しです!?私が正妻候補者などと!」
「あなただからですよファーラ姫。僕は今まで何でも手に入れてきました。そう、何でも。だから手に入らないものが珍しいのです。僕は刺激がほしい。なんとしてでもあなたを正妻にむかいいれ、僕に絶対服従していただきます。」
「あら、それは“絶対”嫌ですわ。手に入らぬものを望んでいたらきりがありませんよ。私はあなたに服従するのも、あなたの暇潰しになるのも、あなたの正妻なるのもお断わりいたします!私がほしい値は傍観者ですから。壁の花と私を交換なさったら?壁の花はきっと喜ぶわ。」
「どちらにしろあなたに権力はないのですよ。あがくだけ無駄です。早く僕の者におなりなさい。」
「お断わりいたします!それに今晩風呂場にて王が裸の私の元を訪れましたけど・・・・・・これはどういうことかしら!?」
ファーラは床でのびている王を指差した。
「父上!!また私のものを横取りしにきたのですね!まったくどうしようもない方だ!上等な女や酒と聞くと誰のものでもかまわず手を付けようとなさる!まあいいでしょう。後でメイドにあなたの部屋にサンダルを届けさせますよ。」
そういって王をメイドたちに運ばせるとファーラの前できびすを返していった。
「なんだったんだ・・・・・・今のは?」
ポカンとファーラがつぶやく。
「嵐が去っていったな。それよりお前、王のびてたけど何したんだ?」
「ああ、タオル一枚だったからな。桶でぶんなぐっておいた。」
「はあ!なんだそりゃ!お前、明日大丈夫か!?」
「まあ、私は一応王子の所有物となっているらしいからな。王子の物に手を付けようとした王が悪いってことですまされるんじゃないか?」
「はあ!?」
「まあなんとかなるだろ。城内を一緒に歩かないか?」
「別にいいが。」
「何をつったっている。カリア、おまえもだぞ!」
「え!は、私もですか?」
いきなり呼ばれたカリアは一瞬戸惑った。
「行くぞ。この城は一人だと何が起こるかわからなくていけない。」
フゥっとファーラは息をはきだした。
「それは禁句だろ・・・・・・。」
ナハスがつぶやく。
「ああ、そうだな。これからは気を付けよう。」
ファーラは首元のスカーフを巻き直し、歩きだした。
「じ、地獄耳!」
ナハスが驚くとファーラは振り返りもせずに答えた。
「あのなあ、隣にいれば大抵のことは聞き取れるぞ。」
そしてしばらく城内を歩き回ると中央部に位置する大きな中庭へ出た。
「まるで森のようだな。」
ファーラがガラス越しにつぶやく。
「そこは畑ですが、何かご用ですか?」