狙われし姫君
翌朝、ファーラは元気がない顔で着替えをすませると朝食を取り、ブァレッチア王子に呼ばれ、王たちの元へ向った。
「失礼いたします。お呼びにあずかりました、ファーラですが・・・・・・何事にございますか?」
王はこほんと咳払いをしてファーラを少し睨み付けた。
「我が王子が、そなたを正妻にしたいと申した。」
「そうですか・・・ですが王様、私はブァレッチア王子の妃になる気はありません。」
「何を言うか!そなたに拒否権はないわ!どうやって王子に取り入った!」
ガッと肩を捕まれ、激しく揺すぶられたファーラは抵抗する気力さえ失い、だらしないほど頭が揺れた。
そして王はファーラの首筋にあるものを見つけると王はニヤリと笑った。
「ほう・・・・・・これは・・・・・・ブァレッチアのお墨付きであったか。そんなにじゃじゃ馬姫がよいとは・・・・・・。」
ファーラは思わず顔をしかめ、首筋を片手で隠し、片手で王を突き飛ばした。
「やめろ!!触るな!」
息を荒々しく吐き出し、ファーラは昨日起こった全ての嫌なことを封じ込めようと戦っていた。
「フンッ、まあいい。もういけ!」
ファーラはその場を走り去った。
ファーラの頭の中には“最低だ・・・・・・やつら・・・・・・みんな最低だ!”と、そればかり繰り返され、前を見ていなかったせいか、人にぶつかった。
「す、すまない。」
ファーラが浮かない顔で相手を見ると相手はかなり驚いた顔をしているナハスだった。
ファーラはナハスに抱きつきたかったがぐっとこらえた。
全て吐き出したかった。
不満をぶつけたかった。
でも、ダメだ。
「すまなかった。怪我はないな。では私は部屋に戻る。おまえも国に帰るがよい。」
わざと突き放し、ナハスの顔を見ずにすべて言い切った。
ナハスはカチンときてファーラの腕をつかみ、自分の方向へ向かせた。
「ファーラ・・・・・!」
ファーラの顔は歪んでいた。
「呼ぶな。私をファーラと呼ぶな!やめろ!もうやめてくれ!私はおまえといた時間をなかったことにはできない!私が嫌いだというならいっそのこと私を殺してくれ!」
ナハスは思わずファーラを抱き締めていた。
「嫌いじゃねぇよ・・・・・・嫌いじゃねぇよ!」
「やめろ!放せ!離せぇえ!」
ファーラは暴れたが、ナハスはびくともしなかった。
「・・・・・・何故私は私が好いた異性に嫌われやすいのだろう・・・・・・セタルだって・・・・・・初めて赤ん坊として見たときは確かに可愛いと思ったのだ。なのに・・・・・・いつの間にか親も私を突き放し、セタルを溺愛して、セタルは・・・・・・セタルは私が憎いと言った!私は他国ではじゃじゃ馬姫と名を馳せるようになり、今度はナハスさえ・・・・・・!そこまで私は出来損ないか!?そんなに人目に触れることさえみっともないか!?ならなぜ生まれた!どうしてこの世に存在するんだ!」
「ファーラ・・・・・・違う。お前は出来損ないなんかじゃねえよ。俺は・・・・・・お前が好きなんだ。」
「は・・・・・・ナ・・・・・・ハス・・・・・・?」
「だからごめん。友達なんかじゃいられねぇんだ。」
「ま、まて・・・・・・待ってくれ!そ、それではまるでお前が私に恋愛感情を抱いているようにしか・・・・・・。」
「抱いてるんだよ。」
ナハスはファーラから離れ、ファーラに背を向けた。
「だからおまえの護兵を任されたんだ。お前が嫁いで自分の無力さを痛感させるために。親父が俺をファーラにあわせたくなかったのもそのせいだ。けどもう俺、痛い程痛感してるんだ。お前は国王にも手が届く存在で・・・・・・俺はただの平民ってこと。だから今のはなかったことにしてくれてかまわない。俺がおまえにしてやれることは何一つねぇんだ。」
「ナハス・・・・・・やめてくれ・・・・・・私を突き放さないでくれ!私はもう姫なんかじゃないんだ。ただの親の手ゴマで、お前と立場は同じなんだ。私もお前が好きだよ。私を単体として見てくれて、平民とか王族とか差別しないで扱ってくれるお前が好きだった。なのに・・・・・・お前は私を突き放すのか!?」
「じゃあどうしろって言うんだよ!俺はもう無理なんだ。これ以上ただの友達でなんていられない!いっそのことお前が俺を嫌えよ。」
「ば!バカじゃないのか!?私がお前を嫌えるわけがないだろ!」
ファーラが強く否定した瞬間ナハスはファーラを壁に押しつけ、服を無理やり脱がせた。
「な!何するんだ!」
ファーラの手を押さえ付け、ファーラはしばらくじたばたもがいていたがすぐに静かになり、ほとんどナハスにされるがままだった。
肩まで服が脱げるとナハスは首筋に顔を埋めた。
ブァレッチア王子とは反対方向にまたキスマークがつく。
ファーラはビクリと体を強ばらせるが、ナハスの顔がファーラに近づくと恐怖など消し飛んだ。
ナハスはファーラにキスをした。
跳ねとばされてそのまま嫌われると思っていた。
が、突き飛ばされない。
今か今かと顔を離し、目を開くとファーラもゆっくりと目を開いていた。
その顔に恐怖はなかった。
むしろ、何か遣り遂げたかのようにキリッとした顔つきをしていた。
「・・・・・・何で抵抗しないんだよ。このままだと本当に襲うぞ?」
脅しをかけるようにファーラを掴んでいる手の力を強める。
少しファーラの顔が痛そうに歪んだが、すぐに口を開いた。
「おまえがしたいようにすればいい。私は私でお前を失いたくないのだから体くらいお前にくれてやる。ただ・・・・・・そばにいてくれるな?」
「なに・・・・・・言ってんだよ!」
「言っただろう!私はお前が好きだし必要だ!お前が何をしようと私にとってはお前はお前なんだ!代わりなんかいない!今何をしたからといって過去すべてを消し去ることも、過去は過去だと割り切ることも私にはできない!」
「・・・・・・やっぱりかなわねえよ。ファーラ・・・・・・俺とお前の好きは違う。」
ナハスの手が離れ、ナハスはしゃがみこむと前髪をくしゃりとつかんだ。
ファーラも力が抜けたのかストンと座り込み、ナハスに触れた。
「私には・・・・・・恋愛ってよくわからないよ。だから・・・・・・もう少し時間をくれないか?理解してみるよ。急ぐ必要はないだろ?」
「・・・・・・そうだな。」
ナハスは苦笑した。
ファーラはニヤッと笑ってみせた。
「それでな?ナハス、悪いんだけどたった今腰が抜けて壁に寄り掛かったまま歩けないんだ。肩をかしてくれないか?」
ナハスは目を丸くしてからお腹を抱えて笑った。
「やっぱお前にはかなわねえよ!」
「いいから早く!」
手を伸ばしたファーラの首筋についつい目が行く。
赤い印が刻まれている。
それに手にも微妙に赤くなって跡がついている。
それだけのことをしたんだと思うと罪悪感に苛まれた。
ナハスはファーラの手を取り、かついだ。
「ちょ!私は肩を貸せとは言ったがかつげとは言ってないぞ!」
「うるせえ腰抜け!そんなんじゃ歩けねぇだろ!」
「な!誰がこうした!」
「いいから黙ってろって!ほら!部屋だぞ!」
「お!早いな!」
部屋に戻り、ファーラをベッドの上に寝かせる。
ナハスは一息ついて上着を脱いだ。
そんなナハスをファーラはポカンと見つめていた。
「なんだよ?」
「なんだ・・・・・・その筋肉は・・・・・・。」
首元や背中、二の腕など、あきらかにファーラとは違った体付きをしている。
「あ?別にこれくらい普通だろ。」
「し、しかし!セタルはそんな筋肉はなかった・・・・・・はすだ。」
「王族はそうだろうな。部屋にこもりっぱなしじゃ細くなるってもんじゃねえの?」
「だが・・・・・・シャツごしにもこんなにも男女で体付きが変わってきてしまうものなのか!?」
「そうなんじゃねえの?俺に聞くなよ。」
「だってあまりにも違うから・・・・・・。」
「違うから気になるんじゃねえの?余計に・・・・・・さ。」
ファーラは目を丸くした。
「そういうものなのか!」
そこへカリアが入ってきて二人の顔を交互に見合わせてクスリと笑った。