自由奔放
この小説は私が書いている『記憶』という小説につながっています。
大自然に囲まれた島、ユリア。
古代から残された自然の数々は、様々な文明をそれぞれに築き上げ、この地形を保っている。
「カリア!カリア!?おい!見てみろよ!今日はアナカンダスから船が来ている!」
「姫さま!いけません!崖は危ないし、そのような言葉遣いをするなど・・・・・・王様に怒られてしまいます!こちらにお戻りを!」
「カリア!私を姫さまと呼ぶのはやめろ!」
「ですが!」
「私はファーラ。ファーラ・ディボルタンだぞ!」
多々の世界から孤立した島国、ユリア。
現在国王はディボルタン一族、タミノイ王。
王(男の場合)は正妻を一人と他の女性をたくさん向かえるという一夫多妻制度である。
そして正妻の一番最初にできた子供、ファーラ。
ファーラこそこの小説の主人公である。
ちなみにこの国に男尊女卑はない。
国の王は国の民たちが選び、人気のある王族の血筋から決まる。
時には女王が王のときがあるが、万が一を考え、王族の血筋が途絶えぬように一夫多妻制度がとられている。
そして今、正妻から生まれた血筋が、長女、ファーラであり、長男であり弟のセタルである。
他は約20人ほどの王の血を引く子供たちがいる。
さらに民たちも子供を生むため、別名“こどもの国”である。
王達はファーラの弟、セタルを次の王座に君臨させたいらしい。
何故ならファーラはお転婆すぎるからだ。
だが、そんなファーラだからこそ民達は彼女を好いている。
「おはよう!マチルダ!」
「姫さま、これはこれはおはようございます。」
「マチルダまで私を姫さまと呼ぶ・・・・・・カリアにもやめろと言ったのに・・・・・・。」
「いけませんよ姫さま。姫さまは姫さまなのですから。」
マチルダと呼ばれた女性は少し小太りした体付きで、にこりと微笑んだ。
「マチルダ!私はファーラだ!」
「マチルダさん!姫さまを・・・・・・ファーラ様を見ませんでしたか!?」
ほぼ同時に聞こえた声。
「げっ!カリア!」
「カリア・・・・・・姫さまはここにいますよ。」
「マチルダ!」
先ほど、カリアを巻いてファーラは逃げてきたばかりだった。
「捕まえましたよ姫さま!」
ファーラと年の差はなんら変わらぬまだ少女が残る顔でカリアはファーラをおいつめながら言った。
「バカだなあ・・・・・・カリアは。実際に捕まえなければ私を捕まえたことにはならないぞ!」
木の間を二人で行き交いする。
「姫さま!そんな格好をしないでください!それに王が姫さまとお話したいと言っておられます!」
そんな格好というのはぼろ布のような布をまとっているファーラにとって一番動きやすい格好だった。
「別に私が何を着ようと勝手だろう!?」
「王様がお話したいと言っておられます!」
その瞬間。
「捕まえた。」
のんきな声が響き、ファーラはほぼ叫んだ。
「マチルダ!」
「姫さま!」
カリアが木陰からファーラを見つけたとき、マチルダがにこりと笑い、カリアに差し出した。
「何をするんだ!こら!離せ!マチルダの裏切り者ぉ!」
カリアにしっかりと掴まれながらカリアが傷つかない程度に暴れ、マチルダにむかい、叫んだ。
「姫様!」
カリアの声はほぼ発狂だった。
いくらカリアが傷つかないように力を制限しているとしても、それを押さえ込み、さらには引っ張っていこうとするのだからカリアにはかなりの負荷が掛かっていて、とてもつらい状態なのだ。
マチルダはにこやかな表情のままそんな二人を手を振って見えなくなるまで見送った。
城内に入ると、ファーラは観念し、カリアの言うことを聞いた。
「さあ姫さま。ここからは私が先を歩いてはなりません。次期王位にあたる王位継承者の方は自分の力で前に進まねばなりませんからね。」
「家訓などどうでもいい。私は王にはならない。父様も母様も私が王になることは望まれていないのだ。次期王はセタルだ。」
むくれながらファーラはすこしそっぽを向いた。
「いいえ、王位は民から決まります。民は皆セタル王子にはすこし申し訳ありませんが・・・ファーラ様に王位を譲るべきだと考えておりますし、私もその一存ですわ。」
「なぜ私なのだ!私は家訓も守らず自由奔放で王には不向きな子なのだろう!?父様が言っていた!母様だって!」
ファーラが不満をぶつけると、カリアは笑いだした。
「何がおかしい・・・・・・。」
「いいえ。いいえ、姫さま。それらをあなたからとったらそれは姫さまではなくなってしまいます。特に着飾らず、明るくて優しい姫さまだからこそ民に人気があり、次期王には姫さまが選ばれるべきなのです。」
「なぜ私が優しいといえるんだ。私は毎日カリアを困らせているではないか。」
するとカリアは大げさに驚いた。
「まあ、迷惑をかけているとわかっていらしたとは・・・・・・でも姫さま、見てください。今までに姫さまに付けられた傷は今までに一度、この肩のそれも姫さまが四歳の頃のしかございません。」
そう、四歳の頃、姫さまと呼ばれ、落ち着くようにと城内に閉じ込められていた頃、私は不満を大爆発させ、はさみを持ち、誰も近付けぬように振り回していた。
はさみで何をしたかったのか・・・・・・父様や母様に不満をぶつけたかったのか・・・・・・今となってはわからない。
私は泣き叫びながらはさみを振り回していた気がする。
どうして私自身体に傷が付かなかったのか分からないくらいデタラメにはさみを振り回していたと思う。
だから誰一人近づこうとしなかったし、近付けなかった。
そう・・・・・・そんな私を止めたのは・・・・・・カリアだった。