思考記録 石工達
まだ磨かれていない大きな石を眺める石工職人は隣を見やると粗末ながらも大量のブロックを前に呆然とする男を見つけた。
自分で作ったのだろう。
形は歪で誉められた物では無いが決して価値の無い物には見えなかった。
「大した数だ。これは橋にでもなるのだろうか?」
男は憔悴しきった様子だ。
くさびもマレットも水筒さえも足元に転がしていた。
「これは何になるかわからないのだ。数ばかりは多いが何になるかは決まっていないのだ。」
それでも男は道具を二つ三つ拾うと必死に石を削りだした。
「それだけの数を仕上げたのなら胸を張ればいい。」
自分の前を見ると小さな塔や彫刻が数える程しかない。
小さいながらも丁寧に作ったそれは石工としての些細な誇りだった。
この男はこれだけの仕事を成したのなら、さぞやいい石工として生きているのだろう。
だが男は語った。
「君はいい仕事をしている。私はもう石工をやめるよ。」
「このブロックはどうするのか?」
「さてね、誰かがこれを見てより良い物を作ろうと躍起になるかもしれないし、こんな程度でもいいのかと肩の荷を下ろすかもしれない。」
ゆっくり立ち去る男を見送ると、石工職人はやるせなくなり、なるべくゆっくりと仕事に手をつけた。