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クマに追いかけられても上京したい


「げっ……、くまだ」


 そいつの姿形を認識してすぐに後ろを歩いているエイド少年の動きを手で制する。


 振り返って、口元に指を当てて、大きな音を立てないようにというジェスチャーも交えておく。


「随分デカいんだな……」


「この時期のくまは冬眠から開けたばかりで子育てしてるから、結構気が立ってる。気を付けてね」


「それは良いんだが……、アイツこっちに近づいてきてねぇか?」


「えぇ?」


 振り返ると、確かにくまは真っ直ぐこちらの方に寄ってきていた。


 私たちは今木陰に隠れている。くまは視力はあまり良くないため、この距離ならば本来は見つからないはずだ。


 だのに、何故?


「とりあえず見つからない内にさっさとここから離れよう」


 私の提案に、エイド少年は無言で頷いた。


 ぐるりと、迂回するようなルートで森の中を進んでいったのだけれど……、

「なあ、気のせいじゃなければ、あのクマ俺たちのことを追いかけてきてねぇか?」

 ちらちらと後ろを確認していたエイド少年がそんなことを言った。


 えっ、と思って私も後ろを振り返ってみてみれば、確かにあのくまは何かを探すように首をフリフリ、鼻をクンクンしながらこっちの方へとのっそのっそと歩いてきている。


「なっ、なんでぇ?!」


 私が一人でこの森に分け入った時には一度だってこんなことはなかった。


 もちろんおじいちゃんと一緒だった時だって、こんな時はなかった。


 なんだ、あのときと今とで何が違う?


「もしかして、あなたからおいしそうなニオイでも出てるのかも……」


「はぁ? いやいや、流石に冗談だろ」


「くまは目は良くないけど、鼻は良いから……」


 私も半分は冗談のつもりだった。


 冗談のつもりだったけれども……、

「あっ、もしかしてコロンか?」


「つけているの?」


「えぇとオススメされて、しいのみのニオイがするっていう奴を少し……」

 森のニオイと程よく同化していて気が付かなかった……。


「この辺のくまは大抵しいのみが好物なんだよね……」


「えっ……?」


「つまり、あなたがこのままだと延々くまさんに追い回されるということだねっ!」


 私はエイド少年ににっこりとサムズアップをして見せる。


「うっそ、だろ……」


 彼は愕然とした表情を見せた。


 私だって愕然としたい。


 だって、くまは人よりもずっと足が速いし、力も強いし、そのくせ食べるには臭みが強いから、手間が掛かるし……。


 散々だっ!


 にしても、都会の今の流行は自然派コロンなのか。覚えておこう。



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