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森の恵みを口にしながら上京したい


 そんなこんなで私とエイド少年は二人でフローゼの森へと分け入った。


 今は新緑の季節なので、冬の間に落ちた木の葉や枯れ枝と新しく芽吹いてきた新芽や若葉が重なり合って足元が少しばかり不安定だ。


 冬の間にたまりにたまった霜柱が春の日差しで溶けだして土にぬかるみを作るし、降り積もった雪が溶けだしてきて川じゃない場所やけもの道に緩い水の流れを作りだしたりもしている。


「あっ、アレは……!! 俺んちのオレンジがなってるじゃん! 食べる?」


「……、こんな時期になるオレンジなんてあるんだな、珍しい」


 エイド少年は何かもの言いたげなジト目をしていたが、特に何も言ってこなかった。


 ……、ツッコミを入れろよっ!! クッソしょうもないことを言ってんじゃねーって、言って来いよっ!!


「森の中を進むならこの時期の主食はシカとか小動物とかと、後はこのオレンジだよ」


「主食って……、もしかして神の大樹って遠いのか?」


「私も気にはなってたんだけど、樹だけに。あなたなんでそんなに軽装なの?」


「えっ、いや、さっさと行って来いって村から追い出されて身の着のまま馬車に揺られて来たからな」


「……、」


 思わず唖然としてしまった。

 そんな近くの川で魚釣りするぜレベルの気さくさでこのフローゼの森に分け入られてるのは大分困る。


「ここからだと丸三日は掛かるかな。少なくとも弓矢の一式もなく、ナイフやら手斧やら何やらも持たないままで来るようなとこではないよ?」


「マジかよ……」


 どうやらエイド少年が住んでいる村の人たちは中々に頭のネジが飛んでいる人種らしい。


 それとも一五年も村で成人の儀を行っていなかったから、その辺りのノウハウが遺失してしまったのか。


 何はともあれ、この子が一人で森に入って迷いに迷って死んでしまう前に私のところに降ってきたのは幸運だったな。


 ウンウン。


「でもそれで合点がいったよ。君がそんなに色々なモノを腰から下げている理由に」


「え? そんなに色々下げてるかな……?」


 私の腰のベルトからぶら下がっているモノと言えば、手投げ用の小型の斧にそこそこ長さのあるロープとやや大型のサバイバルナイフだ。腰から下げてないモノとしてはちょっとした荷物もまとめて投げ込みつつも矢を入れている矢籠とそれから短弓。


 私がいつも森に入るときのお決まりのスタイル。


 そうか、これは都会から見ると荷物が多いという分類になるのか……。


 覚えておこう。


「あっ、そこ足元ぬかるんでいるから気を付けてね。この時期は結構足元滑るから」


「おう。この皮硬いな。指が入らねえ……」


「あっ、ナイフ使う? 硬いのは表面だけだから、ヘタのところ切り抜いて、切れ込みを適当に入れると結構すんなりいくよ」


「おお、本当だ。ありがとうな。んっ、うわっこれすっぱい……!」


「まあ時期が時期だからね。もうちょいすると甘くなるんだけど」


「へー……。甘くなった後の奴も食べてみたいな」


「一か月後くらいにまた来たら食べられるよ、多分」


 その頃に私がこの森にいるかどうかは分からないけどなァ――!!


「ほーん……」


「何よ、なんか言いたそうじゃないの」


「いやー、別に何にもない」


「そういう思わせぶりな態度を取るのが都会のトレンドなのね、ふーん」


「ここほどじゃないが、うちの村も大概ド田舎だよ」



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