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真実を確かめてから上京しようと思う


 全て話し終えた黒ずくめの女の子は、苦虫を噛み潰した様な表情をして、プッと地面に唾を吐き捨てた。


「何というか、ちょっと思ってた以上にヤバいっぽいなあの人……」


「まあ、正直狂人っぽいなとは思っていたけれどもね……、流石にその話が本当なのだとしたら、ちょっと洒落にならないかも……」


「つうかさ、あの人あの一件でゴーレムの……、」


 エイド少年がそこまで口にしてから、ちらりと黒ずくめの女の子の方を見て、言葉を閉ざした。


「……、もしかすると思いのほかヤバイかもしれない……?」


 あの古城での出来事の折にアーシアは旧時代のゴーレムの技術を得てしまっている……。元々人体実験に手を出すような人格の持ち主が、遺失したはずのゴーレムの技術を得たならば、そのさらに先を求めようとするのに不思議はない。いや、それどころかやらない理由を探す方が難しいかもしれない。


「まあもっとも、この子の話が全部本当だとしたら、だけれどもね」


「アタシのことを信じないというのか?」


「よく考えてみてほしいのだけれど、あなたはいきなり自分のことをアンブッシュしようとしてきた相手の言葉を鵜呑みに出来る?」


「……、アタシは嘘は言っていない!!」


 もしかすると共感性ばっかり高くて、論理的思考が苦手なタイプの人種である可能性があった。


 これならば割かし秘密主義的なくせして、初対面の相手に男漁りが趣味ですと放言して憚らないアーシア=クーロッドの方がまだしも信用できるような気がして来てしまう。


「あなたはどっちの方が信用できると思う?」


「分からないな。正直俺はあの人のこともよく分からないし、この子のこともよく分からない。ただ、この子の言葉が嘘じゃなかった場合のリスクがデカすぎるから、そこについてはきちんと確かめる必要があると思う」


 私よりも中立な意見だった。

 うっかり感情的にこの子は信用できないと決め付けていたことを少々反省する。


「じゃあ、とりあえずこのままでこの子を村まで連れて行こうか」


 エイド少年の意見を加味して、私が出した結論はそれだった。彼も私の出した結論には異論がないらしく、神妙に頷いている。


「まさかアタシのことをこの縛った状態のままであの女の前に連れて行こうって言うんじゃないだろうな……?」


 だから異を唱えたのはもちろんこの黒ずくめの女の子。


「……、じゃああなたの拘束を解いた状態であの人の前に連れて行ったとしたら、あなたはどうするの?」


 仕方がないので、逆に聞き返すと、

「そりゃもちろんアンタの持ってるナイフを奪って胸元に突き刺してやるさ」

 返ってきたのはそんな言葉で、あまりの本音と建て前という概念の無さに軽く頭を抱えた。


「だからさっき言ったけれどもね、私はというか、私たちは知り合いがいきなり往来で刺殺されるような事態を許容する気はないんだってば……。そしてそれは、どれだけあなたが言葉を尽くしてアーシア=クーロッドが悪人であるかということを説明してくれたところで、覆りはしないの。分かる?」


「何故だ!! あの女は、あの女は……!!」


「それは私とあなたが別の人間で、別の感情を持っていて、別の生き方で生きてきているから。だから、私は正しいあなたの考えに一〇〇パーセントの同意をすることは出来ない。逆にあなただって、私のことを一〇〇パーセント信用なんて出来ないでしょう」


「私が一〇〇パーセント正しいと認めているなら、なんで私のやり方に賛同しない!?」


 もう訂正するのも面倒くさくなって来てしまうくらいに話が通じなかった。


 流石に少しびっくりする。


 実はこう見えて私はずっとおじいちゃんと二人暮らしだったから、他の人と会った時にきちんとコミュニケーションを取ることが出来るのかどうか、少し不安に思っていたところがあるのだ。


 だから、エイド少年やアーシアと普通にコミュニケーションが図れたことや、フロリアス一世に最期に言葉を交わしたのがお主で良かったと言って貰えたことはとてもうれしかった。


 そのおかげで私は普通に人と会話が出来る人間であるんだなっていう自信が付いた部分がある。


 そして本物の話が通じない人というモノがどういう生き物なのか今初体験している。


 感慨深いものだ。


「そんなことは一言も言っていないから。ほら立ちなさい、足は縛ってないんだから立つくらいは出来るでしょう」


「くそ、なんなんだお前……!!」


 都会とは意外とコミュニケーション能力が低くともやっていけるところなのかもしれない、そう思うと少しだけ気が楽になる気がした。



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