初悪役ですが、頑張ります
ちょっと、残念な悪役令嬢ですが、よろしくお願いします。
この度、私、初の主役級に転生することが決まりました。
今までモブとしか言えないようなものばかりだったので、念願叶って飛び上がるくらいの嬉しさです。
「次は、悪役令嬢ステファニーだからよろしくね」
「私、頑張ってヒロインを虐めて悪役令嬢やりきります!」
「そんなに力まなくて大丈夫だから。前任者もそれで自信喪失して降板しちゃったからさ」
「前任者?降板?」
「あれ、言ってなかった?あなたが転生というか入れ替わるのは、ステファニーが16才、学園二年生の二学期からだから」
「なんでそんな中途半端なんですか?」
「まあ、いろいろとね。あなたの役割は、第一王子の婚約者で悪役令嬢のステファニーとして物語を進める事だから。多少へんな流れになっても気にしない事。いい?絶対降板しないで。これだけ守ってくれればいいから」
「はい」
「では、行ってらっしゃい」
私が目を開けると、そこはステファニーの自室のようだった。
(さすが主役級!)
鏡にうつる自分は、金色の髪でお決まりの縦ロール、そして、見事なまでのプロポーション。自分で鏡を見ながら、うっとりとするほどだった。
「お嬢様、そろそろお時間でございます」
メイドに声をかけられ、私は学園へと向かった。もちろん、気合い充分で。
しかし、そんな気合いなどすぐ消えてしまうくらいにヒロインのマリンは強かった。
「あら、マリンさん。その髪型は、平民で流行っているのかしら?貧乏くさい髪型ね」
「ステファニー様、知らないんですか?流行に疎いんですね。だから、今どき縦ロールなんですね。縦ロールなんて、おばあちゃん世代が若い頃に流行ってたやつじゃないですか?さすが公爵家、古いだけあって髪型も旧式なんですね」
「これは、私のアイデンティティーなの!」
「あら、マリンさん。教科書見つからないの?教科書ないなら帰ったら」
「教科書ならありますけど」
「え?なんで」
「あら?あそこに捨てられてるのステファニー様の教科書じゃないですか?ステファニー様、勉強が嫌いだからって教科書を捨てるなんて斬新ですね」
「やだ、私の教科書が…」
「マリンさん、お化粧くらいちゃんとしたら?貧相な顔立ちなんだから」
「ステファニー様は、綺麗にお顔を作られているんですね。でも、大変ですわ!厚塗り過ぎて顔にひび割れが!」
「そんなに厚塗りしてないわよ!」
「あら、てっきり化粧しないと他の人に見せられない顔なのかと思いました」
「酷い…」
「ギルフォード様は、私の婚約者よ。馴れ馴れしくしないでくれる?」
「なら、ステファニー様からも説明して下さいよ」
「説明?」
「ギルフォード様が私がステファニー様を虐めるのをやめろってしつこいんです。ステファニー様、私にいじめられていませんよね。まさか、公爵令嬢が平民からいじめられるなんてありえませをよね?」
「え?」
「ですよね。ステファニー様」
「はい…」
どうしたことか全くうまくいかない。それどころか、気がつくと私が言い負かされている。最近は、マリンの強さに私が涙を浮かべてしまうくらいだ。
(もう、嫌だ。やめたい…)
しかし、約束した通り、私は最後までやり続けなければならない。
(よし、負けるな私。頑張るぞ)
気がつけば、今日は、学園最後のパーティー。普通だったら、私、悪役令嬢はヒロインを虐めていたと婚約破棄され、追放されるのだろう。
しかし、実際には。
「マリン嬢、お前が私の大切な婚約者であるステファニーを長い間、虐めていた罪は重い。例え、お前が成績優秀で将来、国を支えるだけの力を持っていたとしてもその罪からは逃れられない」
「何をおっしゃいますか。私とステファニー様は同じクラスメイト。ただのじゃれあいでございます。それを虐めなど。大変な誤解でございます」
その瞬間、マリンが私を見た。
「ねえ、ステファニー様」
その顔は、私より悪役で恐怖のあまり私は後退りをしてしまった。
「ステファニー、大丈夫か?」
「はい、ギルフォード様」
私は、ギルフォードに抱きしめられ、まさかの展開にどうしていいか分からなくなった。
そんな様子を誰かが空から見ていた。
「やっぱり、悪役令嬢をヒロインに転生させたのが不味かったのかな。あのモブの子も最初は悪役令嬢頑張ってくれたのに残念だったな。やっぱり、人材は適材適所だな」
そんな声は、もちろん私の所に届く訳もなく。私は、王子の腕の中でヒロインに怯えていた。
(もう、悪役令嬢やめたい…)