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「器用貧乏過ぎて役に立たないとパーティ追放されたが万能魔法に目覚めてSSSランク魔導師になりました〜賢者と呼ばれるようになったからといって、今更戻れと言われてももう遅い〜」などと宣う冒険者が居たんだが

作者: 後悔の亡霊



むかしむかし、あるところにこの世の全ての魔法を習得した賢者がいました。偉大な賢者ら数多くのアーティファクトを創り、新たな魔法を生み、人と魔族の住まう地を分割しました。


人は賢者の知恵を。魔族は賢者の魔力を受け継ぎ、両者は独自に発展してゆきました。


そんな世界のある日あるところ、アインは「賢者の再来」と噂される青年に出会いました。

しかし賢者と呼ばれている青年をアインは幾度となく見た事があるものですから、まさかこの青年が噂の人物だとは思っておらず、生涯で最も間の抜けた顔をしてしまいました。


アインは冒険者としては落ちこぼれで、ギルドへ来てはいつもお酒を飲んでいました。ですので、ギルド内のいざこざは全て耳に入ります。

その青年は、満遍なく色々な魔法を使えたようですが高難易度の迷宮では一切役に立たず、ならば命が危険だとパーティから除名されたのでした。

青年は怒りと絶望にその瞳を支配され、あたかも「自分には非がなかっただろう」というような顔で言い逃れようとしていたのをアインは覚えています。


パーティのリーダーを任されるような熟練の冒険者の意見に楯突こうなど、馬鹿なやつがいたものだと鼻で笑ったのは記憶に新しいのです。


賢者の噂が流れ始めたのはそれから数週間後。どうやら、どんな魔法も使える魔法使いが現れたと言うのです。領主様の不治の病を治し、殉職なさった聖女様に《蘇生の奇跡》をかけ、恐ろしい魔物を見たことも無いほど激しい爆炎で討伐せしめた、と。


そんな凄い若者が、どうして最近になるまで騒がれなかったのが不思議なくらいだと思っていた矢先でした。


「賢者様よ」

「わぁ、なんて賢そうなお顔」

「私もあんな殿方に娶られたいわ」


ギルド内の職員や女冒険者がざわめきながら、ギルドに入ってきた青年を囲んでいました。

そんなに素晴らしい青年ならばとアインは重い腰を上げ、久方ぶりに特等席を離れました。


人海をかき分け、アインの前に現れたのは、数週間前にアインが鼻で笑ったあの青年でした。


上等な外套に身を包み、見たことも無い輝きの剣と杖を腰に下げています。隣には二人、見目麗しい獣人の少女を控えさせていました。

アインは冒険なんて全くしませんが、それでも佇まいからしてその獣人の少女達も一流の冒険者なのだと分かります。


そこに、数週間前に彼を除名したパーティの一同がやって来ました。リーダーの男は手を差し出すと、再会を楽しそうにはにかみました。


「久しぶりだな。見違える程強くなったな。……あれから皆と話し合ったのだ。器用貧乏だと言ったが、お前の使う回復魔法には何度も助けられたし、補助魔法が無かったら倒しきれなかった場面もあった。ダメージこそ与えられていなかったが、お前の火球魔法は相手の気を逸らした。お前なり色んなことをしてくれていたのだと、お前が居なくなって初めて気がついた。どうだろう、もう一度私達とパーティを組まないか。今ならば、もう誰もお前に不平不満も言うまい」


彼のパーティは確かに強く、しかしながら数週間前からあまり実績を挙げられていないのは周知の事実であった。そしてそれが自らの人選ミスであったと嘆いているのをアインは見ていました。

彼はパーティ外の冒険者からも信頼が厚く、こんなアインですらも立派な人間であると尊敬しています。いくらあの青年であっても、差し出された手をとるものとばかり思っていました。


しかし、青年は男の顔を睨みつけ、手をポケットに入れたまま言いました。


「俺はもう賢者だ。1人でもSSSランクの冒険者になれるし、今は新しいパーティを組んでいる。今更戻れと言われても、もう遅い」


青年は冷淡にそう言いましたが、アインには嘲笑っているかのように感じました。


アインは尊敬していた男が小馬鹿にされたのが気に入らず、持っていた酒瓶を青年に投げつけました。脇に控えていた獣人の少女がそれを掴み、アインを睨みます。

しかし、激しい怒りに囚われたアインはそれに臆せず檄を飛ばしました。


「言わせておけば!俺はナァ、尊敬してるやつが三つあるんだ。お酒と、賢者様と、そこの男だ。こいつを蔑ろにするなど言語道断だ。それにお前がどれだけ強いかは知らんが、賢者は全魔法を使えるから賢者なんじゃねぇ。賢者だから全魔法を使えるんだ。今のお前は魔法が沢山使えるだけの阿呆じゃねぇか」


アインは大きく深呼吸してから、言葉を続けます。


「俺は酒場にずっといたからギルド内でのお前の事なら知っている。いかに頭の悪いやつだって事をな。お前が賢者様の再来であるはずがねぇ。確かに賢者様は聖人君子だなんて記録はねぇが、お前の猪口みてぇな度量よりは大きかったはずだぜ。せめてこの男くらいは相手を許す心と、冷静な判断を培えってんだい。こんな器もおつむも足りねぇやつが賢者だァ?笑わせるな!」


肩を上下させながら、アインは青年を睨みつけました。青年はずっと無表情でその様子を見ていましたが、話し終わったのをみてようやく口を開きました。


「で?それが何さ?」


その顔は皮肉でもなんでもなく、本当にアインの言った言葉を理解していないようでした。言葉を話す人間にとって、それすらも通用しないなど話す話さない以前の問題です。

アインはその様子に絶望し、目を開いて口をぱくぱくと動かしました。


一瞬遅れて青年の横にいた二人の少女が黄色い声で言いました。


「流石です、ご主人様」


「あの人、何も言い返せてませんよ」


アインは頭を抱えました。正義なき力は悪に近いように、理性なき力は天災そのものです。

アインは激しい虚脱感に襲われました。そもそもがそんなに気力のある人間では無かったものですから、男に「割り入った上騒いですまんな」と謝り元いた席に戻りました。


パーティリーダーの男もアインを許すと青年に向きなおり、「なるほど、お前などもう要らん」と言い放ちその場を去っていきました。


その夜、奇しくも聡明な酒飲みは何者かの獣人の冒険者に殺されました。


数年後、あのパーティは街を竜から守り、相討ちになりました。後一人メンバーがいたなら、全滅は免れたやもと言われる程の激戦だったそうです。



そして、名実ともに賢者と呼ばれるようになった青年は魔族を滅ぼし、人の世が始まりました。



めでたしめでたし。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆





本がぱたりと閉じると少年が拍手をしました。


「わぁ、その賢者の再来って人凄いね」


それを聞き、少女は眉を顰めました。


「何を聞いていた小僧。私が『めでたしめでたし』と言う場合、ほとんどめでたくないに決まっているだろう。弟がそんなので姉は悲しいぞ」


少女は人差し指をピンと立て、親が子に説教をするように言いました。


「どうして私がわざわざ自分の失敗談をしたと思う?」


「失敗談だったの?」


「えぇ、その男は魔族を滅ぼしたけど、そもそも魔族と人間は、大昔の賢者によって分割されて争っていなかったわ。あいつは賢者の創った均衡をぶち壊したの。というか、賢者は私からなんの加護も貰っていないのにあんな事が出来たの。だから、私は大いなる力があれば人間は善行に使うと思ったのよ。でも、人間は自己中心的にそれを使う。突然降って湧いた力だったからいけなかったのかしらね。自分の力じゃなかったらもっと謙虚に使うと思っていたわ。あなたも今度世界を創るんだから、人に加護を授けるなら、相手は慎重に選ぶ事ね」


「はーい」


少女は本を本棚に戻し、部屋の隅にある埃の被った大きなルーレットをくるりと回しました。


「あーあ、こんなだったらルーレットで決めるんじゃなかったわ。アインってやつのアルコール抜いた方がよっぽど世界の利益になった気がするのに」


少年は不思議そうに首を傾げました。少年は「力」を司る存在ですから、なぜ姉がそんな力のないアインに肩入れしているのか分からないのです。

少女は少年の心中を読み取り、ため息混じりに答えました。


「力だけじゃ世界は発展していかないわ。私の世界は結局、好敵手を失った人間は発展しないわ魔族は滅んで発展しないわで大失敗よ。それにね。理不尽な力に荒らされた人はどう思う?」


「別に人間がどう考えていても僕らには関係ないんじゃないの?」


「確かに関係ないけどね。なんて言うのかしら…不幸な人を見るのは私の趣味じゃないのよ。あなたにもそういった心を育んで貰いたかったのだけれど」


「そう…わかった。お姉ちゃんの言う通りにやってみるよ」


「こらこら、私の言う通りじゃなくて、あなたが考えて世界を創るのよ」


はーい、と少年は楽しげに返事をし、眠りにつきます。少女はその様子を微笑みながら見つめておりました。


こうしてありとあらゆる世界が出来上がり、失敗し、成功し、発展し、退化し、しかしながらそれらは私達の預かり知らぬことでしょう。

それではそれでは。また、この世界が終わる時にでもお会いしましょう。

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