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エンパス  作者: ヒスイ
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第7話「対策」


「と、いうことがあったわけだ。大変だったな」

「なにそれ。私仲間外れかよ」

 放課後、いつもの部室、いつものメンバー。今日の桃奈は、少し不機嫌だった。昨夜の事件に、自分だけがいないことが原因であった。

「本当に大変でしたよ。ぼろぼろで」

「しかも、あのあとホテルにも出てきたんだよ、影の人」

「え、それは初耳ですよ」

 しかし、その後に起こったことは知らない。記憶があるのは、影が散ったときまでだ。

「そんで、苦しい夢を見て……でも、途中から楽になったな」

 異常なできごとはこれがすべてである。それ以降は普通の生活であり、影に関する情報はないに等しい。年齢、性別、なにもかもが謎なのだ。

「おーうお前ら!待たせたなァ!」

 晴翔が一息ついて、お茶飲み始めたころ、ミコトが遅れてやってくる。勢いのよすぎる扉にまだ慣れないのか、一花の体が飛び跳ねる。

「ミコト、死刑」

「基準緩くねぇ!?」

 ミコトが晴翔の横に座る。晴翔が無言でお茶を入れる。ミコトは見向きすることなく、しかし軽く手をあげ感謝を示した。

「あの……ミコトさん?お礼くらいは……」

「男同士なんて、こんなもんだぜ。なぁ?」

「あぁ、こんなもんだな」

「なるほど!これが友情なんですね!」

「いやもう少し疑問持ったほうがいい」

 男女間では、友情にも差があるのだろう。この男子二人が珍しい、といえばそうなるのだが。

気を使う、遠慮する、そういったことはない、面倒なことはしない。

「まぁ、友情なんていいんだ。それより、今日のメインは————こいつだ」

 言って、ミコトがカバンから取り出したのは、雪だるまのように、白い球体が二つ連なるものであった。不可解さから、声をあげる者はいない。

「さて……こいつの名前はなんにする?」

「説明不足が過ぎるぞ」

「あぁ、そうだな。これ、ロボットだ。俺が作った。晴翔にしか見えないものを、感知してくれる。どうも、悪意というやつは、常識をかき乱すようだからな」

「あぁ、そういえばミコトは、プログラムが得意だったな」

「は?なによそれ」

 桃奈の疑問はもっともだった。悪意、それにまつわる事象は、非科学である。それを、プログラムで感知できるように、とは理解も納得もいかない。

「相手の能力や特性を解析してくれるんだ。便利だろ?晴翔の言う影とやらを解析できれば、と思ってな」

 ミコト自身、理論は完璧であった。問題は、まだ実行していないということ。しかし、これがあれば、あの影に近づけるかもしれない。

「影の目的、能力……なにか一つでもわかるならば……。ミコト、感謝する」

「気にすんな。お前がいないくなると、俺も困るからな」

 笑顔で手を叩いた。そのさまはやはりというべきか、一花には青春と映った。無言で強く頷いている。もはや誰も気にしない。

「んで、こいつの名前だが。起動してから考えようか」

 頭?を押すと、一度引っ込んで、また出てきた。よく見ると、顔らしきものもある。青い、目のようなもの。それ以外は雪だるまなのだが。

「起動、完了デス。オ前ラガ主ダッテカ?」

「口悪いなぁ。ショートさせるぞ?」

「モウシワケゴザイマセン」

 起動早々、口の悪さが露呈したが、桃奈に弱かった。機械なのだから、電撃に弱いのは当たり前である。電撃は人間にも強いが。

「で、こいつの名前だが。案のある人おるかー」

「雪だるまでいいだろ」

「却下!却下!」

「機械のくせに生意気だぞ」

「アタリ強クナイデスカ」

 機械のくせに、人間らしさが強すぎる。いまは誰しもが違和感を抱くが、いつかは慣れるだろう。むしろ、貴重な戦力になるのだから、慣れねばならない。

「んー……ちびロボでどうでしょう」

「マンマジャネェカ!ドイツモコイツモ——」

 ぐしゃり。不意に頭をつかまれる。予想外の圧力に、脳内?アラームが鳴り響く。

「一花の提案を断るとは……スクラップにされたいみたいだね?」

「ボク、ちびロボ!イイ名前ダナァ!」

 有無を言わせぬ力技で、名前は決まった。生みの親も頷いている。しかも、いい笑顔で。

「さて……。次は実験だが。晴翔、桃奈、協力してくれるな?」

「当然だ。これで、あの影に近づけるなら」

「しょうがないなぁ。見せてあげますよ!」

 晴翔と桃奈。視線を交わす。両者が手を掲げる。集うは光、心を映した超能力の具現。

「心の奥底に眠る憎悪よ、いまこそ解き放て!(フリーダム)された(ワールド)へ!」

「我が心を奪う愛よ、いまこそ輝きを示せ!(リーベー)一つない(ルター)スカルエムへ!」

 二つの光。片方は剣に、片方は茨に。それは、あらゆる望みを断つ剣、原初の欲望を示す茨。相反するものでありながら、同じ輝きを宿すもの。

「桃奈は詠唱要らずかと思ったのだが」

「そこはノリで!」

「仲間が増えた気分だ。……悪くない」

 この一瞬で詠唱を考えられるのだ、桃奈の中には中学二年生が住んでいるのだろう。

「さぁ、ちびロボ。こいつらの武器や能力を解析してみろ」

「解析!解析!」

 目に相当するランプが、めまぐるしく形を変えていく。全員がそのさまに見入っている。それはどれだけの時間動いただろうか、やがて目は『完了』の文字になる。

「神崎晴翔!相手ノ欲望ヲ喰ラウコトガデキル!攻撃ヲ受ケルト攻撃力ガ上ガル!マタ、剣ヲ持ッタ状態ハ危機察知能力ノ上昇、ナラビニ身体能力ノ向上ガ見ラレル!」

「おぉ……すごいな。ミコト、こいつすごいぞ」

「だろ?」自慢げに腕を組む。誰もそれを不快に思わない。本当に神業の領域だったゆえに。まるで魔法であったゆえに。

「白石桃奈!電撃ヲマトウ鞭ヲ扱ウ!0.2Aノ威力ヲ持チ、カスッタダケデ火傷、アルイハ気絶サセルコトガデキル!ソノ威力モ調整ガデキル!」

「え、マジで?私のこれ、調整できるの?オンとオフしかないと思ってたわ」

「気絶で済んだのが奇跡みたいだぜ」

 本人が知らない情報も解析できるようだ。想像を超える高性能さである。確かにこれならば、未知の敵も解析できるだろう。

「ちびロボちゃん、すごいですね」

「コノクライ、余裕ッテヤツッショー!」

「調子に乗んなよ?」

「ハイ、謙虚ニ生キマス」

 一花に褒められると、機械でも嬉しいようだ。代償に、桃奈からの嫉妬を買うことになったのだが。そもそも機械に美醜などわかるのか。

「で、ほかになんかあんのか?」

「いんや、今日は仕事もねぇよ」

「お休みなんて、珍しいですね」

 早くも予定が終わってしまったようだ。この日はなにもない。依頼も無ければ、解決すべき課題もない。しかし、こんな日もたまには悪くない。

「あー、じゃあ悪いんだが。誰か、次のテスト範囲教えてくれないか。記憶が抜けてな」

「お任せください!こんなときこそ、記録係の出番ですね!」

 自信満々に取り出したのは、一冊のノート。表紙に、女の子らしい文字で『晴翔さんの記録ノート』と書かれている。

「一時間目、数学。この時間から眠そうでした。ぼんやりと黒板を眺めて——」

「あーおい待て。それ違う。授業内容じゃない」

 一花によって記録されたもの、それは晴翔のすべてであった。一花の目がある範囲では、つねに監視されているのだ。

「これで成績上位ってのが気に入らないよねぇ」

「授業なんざ、聞けば覚える。……消えたら無意味だがな」

「ジャア努力シロヨ」

「消えるっつってんだろ。電源消しとけ」

「そのほうがいいな」

「アッ」

 口の悪いおしゃべりロボは停止された。

今後は、こいつといっしょに戦わねばならない。少しだけ不安を抱く。戦闘中に挑発しそうで。

「と、とりあえず教科書開きましょう!そこにすべてがあります!」

「一花、ノート見せてくれ。俺の記録じゃないぞ」

「……今日は、調子悪いですね」

 全員の視線が集まる。一花はバツが悪そうに顔を伏せた。これはきっと、晴翔の記録に夢中で、本人ノートをとっていないということだろう。

「今日は勉強会だぜ。桃奈もそれでいいだろ?」

「教えなきゃいけない人が二人もいるからねー」

 仕方ない、といった表情で、肩をすくめた。この二人も成績上位者である。問題も心配もないだろう。

「しかしミコト、俺は範囲を教えてくれるだけでいいぞ。教科書読めば、だいたいのことはわかるからな」

「さすがは俺の相棒だ。よし、任せとけ。教科書開くぞー」

「あ、ちなみに記憶が抜けたのは古文と日本史だ」

「俺に任せれば、絶対勝利だ!やぁったらーい!」

「機嫌いいな、お前」

 教科書を開く。このテンションは不安であったが、意外にも優しく教えてくれた。

「ここからだな。あ、この注釈覚えとけよ。問題に出るぜ」

 まずは日本史から。ミコトはこれでも天才である。それはプログラムに限った話でない。教師の言葉を記憶するくらい、どうということはないのだ。

「一花、あなたは大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ!……ノート見せてくれるとありがたいですけど」

 しかたない、と小声で呟きノートをとりだす。顔からは嬉しさがにじみでている。一花と会話することは、なんであれ嬉しいのだろう。まさしく恋である。

「なにげに、天才の集いかもな。なぁ晴翔?」

「俺は一般の人間だ、人間でたくさんだ」

「お前も機嫌いいな」

 毎度のごとく笑みを交わし、次のページへ。そこでも丁寧に教えてくれる。むしろミコトが教師になれば良い、とも思ったのだが、よく考えたら無理である。

「お前、面倒見さえよければ、教師になれそうなんだがな」

「無理だぜ。普通の仕事なんてやりたくない」

 この考えさえなければ——とはいえない。なにせ晴翔も同じ思想を持っている。ゆえに、部活を仕事としているのだ。

「こんなもんだろ!」

「あぁ、じゅうぶんだ、ありがとう」

 日の落ちかけたころ、勉強会は終わりを告げた。教えることはこれですべてである。

「あ、晴翔さん。このあと時間あります?」

「あぁ、あるぞ。なんか用事か?」

「少し、付き合ってもらいたくて」

「いいぞ」

 誰もなんとも言わない。ただ桃奈は鞭を携えている。

目に光はなく、ただ怖ろしさを振りまいている。

「手を出すつもりはないぞ」

「信じるからね……?」

 鞭を握りしめているものの、仲間は信じる。これは成長だろう。鞭はきっと、精神安定剤の役目を持っている。

「それじゃ、また会おう」



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