第2話「超能力」
モンスターハンターライズ買っちゃいました。
私にクリアできるか心配です
さて晴翔が大変なことに・・・
「ミコト、そっちどう!?」
「余裕だぜ!晴翔こそ、終われんのか」
放課後、一花は部室にいた。そこでは晴翔とミコトが、真面目に仕事をしていた。内容までは把握できないが、なにやら緊迫している。
「っしゃあ!案件終わり!今回も、俺が決めたぜッ!」
「ふぅー、こっちも終わり!ミコト、お疲れさま」
「おうよ!晴翔もおっつー」
ほとんど同じタイミングで終わり、また同じタイミングで伸びをする。友達というより双子に見えるかもしれない。身長も似ている。顔は似ていないのだが。
「えっと、終わった?」
「あれぇ一花一花ナンデ]
「ほ、放課後だから……」
オーバー過ぎるミコトのリアクションに、若干引きながらも笑顔は絶やさない。一花が人気の理由は、こんな小さなところにもあるのだろう。
「もう、大丈夫ですか?」
「あぁ、終わったよ。この神崎晴翔にできない仕事など、あんまりないからな」
「変なところで謙虚なんですね」
一花の依頼とは別に、SNSの問題を解決していた。これらはそこまでの報酬が出るものではないが、絶対にやらねばならない。
「ていうか、真面目にお仕事していたんですね。てっきり、裏の仕事ばかりだと……」
「表が無きゃ裏も無い。この仕事はカモフラージュだね。だから、報酬もほとんどない」
「泣けるぜ。俺はボランティア嫌いなのによ」
まともに活動しなければ、存続ができない。裏の仕事で大きく稼ぐためには、表の仕事もやらねばならない。ミコトの言うように、報酬のないボランティアだとしても。
「今回はマシだろ?無報酬じゃない」
「雀の涙ってんだよ」
肩を回して、伸びをして、大きく一息吐く。一花は急いで部室に来たが、この二人はいつ来たのだろうか。
長時間労働のあとに見えるのだが。
「表の仕事にも、報酬ってあるんですね」
「あぁ、なけりゃ受けない」
「教師からの依頼は無報酬だけどな!」
良心というより、利益追求の結果なのだろう。教師には、存在を認めてもらわねばならない。言葉は悪いが、こびる必要があるのだ。
「……もしかして、報酬って」
「あーあー、そうだよそれが報酬だよチクショウ」
一花の視線は、長机に積まれたお菓子に注がれている。可愛らしいラッピングや、手書きの文字。それらは、お菓子が手作りであると教えてくれる。
「ハルトくんへ。可愛いですね、これ」
「可愛さじゃ生きていけない」
「たいして腹も満たされねぇ。あとグッズの足しにならねぇ」
女性に……というより人に興味のない二人は、手作りお菓子にも心を動かさない。そもそも、このお菓子たちにウンザリしている。
「見ろよ。俺、多分殺されるわ」
底のほうにある、真っ黒な箱。それはミコトに宛てたものだった。中には、やはり漆黒色のチョコレートと、細かな文字の刻まれた手紙が入っている。
「二人そろって、意外とファン多いんですね」
「あぁ、意外だ。だが慣れた」
「甘味にゃ慣れんがな。どうせ慣れないなら、やっぱ金がいいぜ」
特筆したイケメンというわけではないが、劣っているわけでもない。しかし、異常なほどモテる。晴翔は広い範囲に人気である。ミコトには病的な者が多くついている。
「なぁんでお菓子かねぇ」
「金以外受け付けないって、ホームページに書いとくよ」
悪態をつきながらも、口にお菓子を放り込んでいく。ミコトは魂が抜けたようにだらけているが、晴翔はパソコンを操作している。しかしその顔は虚ろ。
「えーっと、じゃあ今日の予定はどうしましょう?」
「行くよ。用意しとけ。……ミコト、聞いてんのか」
「あー……オーケー、用意するぜ。あー……」
やはり魂は抜けているが、カバンになにかしらは詰めている。
明らかに学業と無関係な物が多いが、なにに使うつもりなのであろうか。
「こっちは行けるぞ」
「よし。せんど、あー、一花。行くぞ」
「はい。……覚えていてくれたんですね」
「ギリギリセーフだな」
一瞬忘れていたが、なんとか踏みとどまる。染みついた苗字呼びは簡単に離れない。だが、一花と呼ぶことに、いつかは慣れるのだろう。
「とりあえず、どこだ。原宿か?」
「えぇ、どこでも構いませんよ」
夕暮れ、廊下を歩く三つの影。穏やかで、皆が笑っている。これが晴翔にしてみれば演技かも知れないが、はたから見れば仲のいい友人に見えた。
「——あら」
影の先、一人の少女が歩いてくる。幼い容姿と愛らしい顔。明るい茶髪はツインテール。
「おう、まだ残ってんのかよ。ちびは早めに帰んなよ?」
「まったく問題ないってー。なにせ私はナンバーワン!」
「どっからどう見てもアウトでは?」
名前を、白石桃奈。同じクラスの女子生徒。クラスではボス的な位置にいる。立ち位置の関係上、主にミコトがよくかかわる人物である。
「私は最強だからいいとしてー……。」
「一花、あなたSNS部」と仲良いのね?」
「えぇ、お友達になったんです」
柔和な笑顔を見せる一花。桃奈も同じく笑顔を向けている。それは友人同士で見られるもののような気もするし、どこか冷たさを秘めているような気もする。
「俺たちは、一花から依頼を受けたんだ。SNS問題の、だぜ」
「お前も気を付けろよ。俺たちは二人しかいないんだ」
「えー、なんかあったら助けてよー。お菓子作るからさ!」
お菓子作りの犯人がわかって、ミコトは頭を抱えた。ボスが言ったのだろう。お菓子を作れば好感度が上がる、と。桃奈の発言に、女子は逆らえない。
「ホームページを要チェックだ。依頼はそこから頼むぞ」
「しゃーないなー。なんかあったら頼むぜー?」
手を振り、晴翔は歩き出す。ミコトがあとに続く。一花は、さらに後ろを歩く。
「……気をつけなさいな」
「えっ…………?」
声が、聞こえた。桃奈のものだった。しかし桃奈は、背を向けて歩いている。
気のせいとは思えない。彼女は一花に、なにを伝えているのか。
「おい、置いていくぞ?」
「——あっ、はい!」
不穏なものは感じた。しかしいまはわからない。
作戦のためといえど、友人として遊びに行くのが先決だ。
一花は、急いであとを追った。
東京、原宿駅。若者が多く歩いている。カラフルな食べ物や、制服姿が目に付く。自分たちがこうなると思うと、少し違和感を覚えた。
「マジか、マジで買い物すんのか」
「えぇ、マジです。お菓子でも食べて、服も見ましょう」
「怖いぜ…………!」
男二人は戦々恐々、しかし一花は楽し気に。そもそも男が来る地であるのかどうか、二人にはそれが気がかりだった。
とても、場違いな気がしたから。
「なぁ……一花。超能力って、信じるか?」
「超能力、ですか?」
人混みの中、唐突に晴翔は問うた。歩みは止めない。一花は歩きながら考える。
いままでの人生で、説明のつかない事象はあったのか。
「昔は、信じていました。魔法や奇跡のような、超能力があるなら……って」
返事はない。なにも言わず、晴翔は歩く。ミコトも、無言で続く。
重くはない。なのに、なぜこうも不安をかきたてるのだろう?
「俺も、欲しかったよ。……
夢に出てくるような、魔法」
振り返ることもせず、小さな声で呟いた。聞こえてはいたが、返す言葉は見当たらない。
「だが、いまの俺にあるものは——」
不意に、空間そのものが冷たく感じた。景色は灰色で、喧騒はどこか遠い。歩いているのに、追いつけない。かげろうのように、人も建物も、なにもかも揺れる。
「一花!走るぞ!」
ミコトの声。はっとして、前を見る。晴翔の姿がない。
「よくねぇヤツがいた!晴翔は目聡いからな、さっさと走ったんだよ!」
「ひ、一人で大丈夫なんですか」
「祈るしかねぇ!」
人混みをすり抜けて、走る、走る。姿は見えない。それでも、走る。ミコトは迷わない。
「こっちだ!急げ、近いぞ!」
カラフルな建物と、陽気な人々から離れて、横道へ。
少し進むと、人は少なくなる。そこからさらに進み、横にそれて、気が付くと見知らぬ場所。
「——喰らえ」
暗く、黒く、陰鬱な空気漂う場所に、晴翔はいた。
大きく顎を開けた大剣のようなものを持っている。
顎の先には、男子生徒。
「おい、晴翔!」
「あぁ、ミコト……。大丈夫、これで、少しは」
虚ろだった。文字どおりの、虚ろ。なにも感じない。機械的なまでの冷たい声色で、目の前に倒れる男子生徒を、捕食した。
「はる、とさん…………?なに、して……」
顎を開ける。男子生徒は倒れている。外傷はない。
しかし目の前で起きた事象を、一花は飲み込めずにいる。
まさか、晴翔が男子生徒を昏倒させたのか。」
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「一花、戻るぞ。晴翔を連れて、戻るぞ」
「でも、いまの……」
「いいから。……戻るぞ。話は、それからだ」
怖ろしかった。凶器を持った晴翔も、ミコトの言葉も。
気が付くと、晴翔の手に凶器はない。しかし、やはり風に消えそうなほど虚ろで、儚く見えた。今度もまた、かける言葉が見当たらない。
「とりあえず、ここでいいな」
ひとけのない路地。そこもまた怪しい雰囲気をまとっていたが、先程の空間よりはマシに感じる。
あの場所が異常であったと、移動して初めて理解できた。
「晴翔、どこまでの記憶ならある?最近のことだぞ」
ゆっくり、ミコトの顔を見る。それから、記憶を呼び起こそうと、首をひねる。
しばしのあいだ思案し、ぽつりとこぼした。
「仙道さんから……依頼が、あるって。ストーカー退治の。曖昧だけど」
ミコトの顔が、苦しそうに歪んだ。一花は状況が読めずにうろたえている。
これが、よくないことであるとわかっている。
しかし、それしかわからない。
「晴翔は、人から生まれる、負の感情が見えるんだ。そして、それを消して、喰らうこともできる。負の感情を喰われたやつは、イイヤツになる」
「人は、一定以上の感情を持つと、それが化け物になるんだ。で、それに操られた人間が、犯罪に手を染める。怨恨の殺人や、ストーカーとか、な」
話しているうちに、晴翔は生気を取り戻す。
それでもまだ、一花は不安を消せないでいる。
「使いようによっちゃ、人間を更生できるんだ。便利だろ?でもな、代償があるんだよ。それが、記憶の消失。晴翔は人を助ける代わりに、記憶を失う」
「じゃ、じゃあ!ストーカーの犯人が見つかったら…………!」
「仙道さんを助けるよ。記憶なんて。不要だから」
信じられなかった。これは夢か、あるいはドッキリだろうと思った。だが、二人の目は真剣そのものだ。……
信じるしか、なかった。
「……
晴翔さん、私のこと、一花と呼んでください」
心の底から信用したわけではない。理解できない、怖ろしい事象に変わりない。それでも、自分を犠牲にしてまで他者を助ける姿を、否定できなかった。
「あぁ、よろしく頼む、一花。……不思議だな、しっくりくる」
「当たり前だぜ。俺ら三人、友達なんだからさ」
いつもの見慣れた笑顔に、晴翔は強く安心を覚えた。今回も、親友の笑顔を忘れることはなかった。大事なことは、消えていない。
「それで、晴翔さん。あの武器って……
安全なんですか?」
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「安全だ。人の悪しき心だけを斬り喰らう……。その名もエモーションソード!」
「晴翔の心とリンクした専用装備だ。旧式でもエリートなんだぜ!」
「銃形態どころか、盾にもならないんだが?」
代償は大きいものの、どうやら誰も傷付かないようである。血を見ないで済むことに、一花は安堵する。いくら人助けでも、怪我をさせてはいけない。
「私にできることは、ないんでしょうか…………?」
「ないな。負の感情は、晴翔にしか見えない聞こえない、そして触れられない。なので俺らにできることといえば、記憶の矛盾を直してやることだ」
「そういうことだ。ではお二人、今後ともよろしく頼む」
軽口を叩けるほどには回復している。晴翔本人もそうだが、ミコトも悲しげな表情は見せない。慣れたのか、それとも諦めたのか。
「ま、そういうわけだ。受け入れて、仲良くやっていこうぜ」
ミコトの笑顔は、本物だ。本当に、受け入れたのだろう。きっと晴翔自身も、記憶より人助
けを選んだのだろう。そこにどんな決意があったのか、想像もできない。
「ところで、さっきのやつ、なんで喰ったんだ?」
「一花に執着していた。手を出すつもりだったのだろう。作戦は成功だな」
得意げに笑む晴翔。一花のストーカーなら、仲のよい男子を許せないはずだと。
その読みは当たり、とりあえず一人捕まえたのだ。
「でも、あれは犯人じゃない。犯人は、もっとヤバい」
「え、違うんですか?なのに、食べたんですか?」
「被害が出る前に、悪の芽は摘んでおく。それが俺のやりかただ」
晴翔の言葉は正しい。放置しておけば、一花の身が危ない。感謝の念はある。それと同時に、心配する気持ちも。近い将来、記憶がすべてなくなるのではないか、そんな心配を。
「とりあえず、帰ろうぜ?犯人はまた釣ればいいさ」
「そのとおりだな。記憶は、ミコトがいるから問題ない。犯人は見つける、喰らう、潰す」
柔らかな表情で、手を差し出す。一花もまた、とびきりの笑顔で手を握り返す。
「はい、帰りましょう!」
次回は二人目のヒロイン登場です