たぬき、参上。13
部下のヨロイに駿河を紹介すると、快く迎え入れられた。口が聞けなくても、愛嬌のある風貌にヨロイも癒されたらしい。
「ヨロイ、駿河を頼む。言葉が少々難しいようだ。こちらの話はわかっているから問題ないだろう。台帳は俺がつけておく」
景宗から駿河を託された男は部下の中でも最年長で、濃い眉に角ばった顎でいかめしい面構えだが、人当たりが良く面倒見も良い。そのため部下からの信頼も厚く、景宗の右腕としてまとめ役を担っている。
「承知」
短く答えたヨロイは早速駿河の世話を焼き始めた。
「俺はヨロイ。よろしくな」
「ら」
「それじゃあ鬱陶しいだろ、結ってやろう」
伸ばしたい放題の髪を結い終わると、愛くるしい表情が露わになって、ヨロイは満足げに頷く。
「仕事場に案内しよう」
連れられてやってきたのは、男らが木の皮を削ったり、立て掛けられている人の背丈よりもうんと長い角材に乗っかって、上のほうから大きな鋸で板を切ったりしている製材作業場だった。
「ここがお前の仕事場だ。今は製材作業に取りかかっているから、それを手伝って欲しい」
「ら」
「一緒に働く仲間を紹介しよう。おいお前ら、普請を手伝いに来てくれた駿河だ。少々言葉が難しいがこちらの話はわかっている、よしなに頼んだぞ。んじゃ、ネコ、お前から順に挨拶を」
左端にいたネコと呼ばれる青年を指せば、部下たちの自己紹介が始まった。
「俺ネコ。空の機嫌を読むのが俺の仕事。よろしく」
「俺はギン、船大工の頭領だ。困った事があったらなんでも聞けよ」
「俺ぁホシってんだ。賄い方をしている。普請の手伝いを頑張ったら美味い飯食わせてやっからな」
「俺、ナヌカ。カラクリ担当」
「俺はノド。船が迷わないようにするのが俺の仕事。それから、俺に釣れない魚はない。ま、太公望ってやつさ」
逞しい海の男らの挨拶にめっぽう感動した駿河はポーっと聞き入っていたが、ヨロイに促されて最後に自己紹介をした。
「らっ」
気合の入った返事の後に見せた屈託のない笑みは、普請の手伝いに人っ子一人集まらず若干ささくれはじめていた海の男らのハートを瞬く間に癒したのだった。
 




