筋トレを学ぼう(1)
いつも読んでいただきありがとうございます!
感想にレビューまで、恐縮です!
ティナさんによる実技訓練が終わると、時刻は16時となっていた。つまり2時間に渡って訓練が行われたということになるが、なかなか濃い内容になったと思う。
そして今から少し休憩を挟んでから、いよいよ俺の番というわけです。とりあえず初日は講義からスタート。筋トレと一口に言っても、筋肉のこと、トレーニングを進める上で押さえるべきポイントなどは、しっかりと理解していただかないといけないわけですよ。
というわけで、まるで学校の教室を思わせる、新米冒険者に対する説明会を行うために作られた一室を借りて、5人に対して講義を行う。もちろんティナさんも一緒。むしろ一番やる気かも。
「じゃあまずは筋肉とは何かということから始めていこうか。まず筋肉の種類だけど、大きく分けて二つある。一つは随意筋、もう一つは不随意筋。要するに自分の意思で動かせるかどうかっていうこと」
「え?自分で動かせない筋肉なんてあるんですか?」
アルス君が挙手をするでもなく、思わず口に出す。
「うん、あるよ。不随意筋に分類されるのは、心筋と内臓筋。心臓とか内臓って意識的に動かしていないでしょ?」
俺の言葉に、5人+ティナさんがなるほどと言うように頷く。
「それに対して随意筋に分類されるのが、骨格筋。一般的に筋トレって言えば、この骨格筋を鍛えるものになる。じゃあ次に筋肉の構造を説明していくよ。筋肉には覚えておくと便利な三つの項目があるんだ。それが起始、停止、作用の三つ。そもそも筋肉って言うのはざっくり言うと、関節をまたいで骨に付着していて、その関節を動かすためのものって言う認識を持ってほしい。それで起始っていうのは、骨に付着している部分(腱)のうち、体の胴体に近い側(近位側)、動きが小さい側とも言う。停止はその逆で遠い側(遠位側)、動きが大きい側とも言う。最後の作用って言うのは働きと言い換えてもいい。つまりその筋肉が、どこの関節がどういう動きをしたときに働くかってこと」
そこまで説明してから俺が取り出したのは、人体の骨格標本。こっちにあった本をもとにして魔法で作ったやつ。ちょっと5人が引いているけれど、話を聞くだけよりも、見てもらった方が分かりやすいからね。眠くなりにくいし。
この標本には一ヶ所だけ筋肉をつけてある。それが上腕二頭筋、いわゆる力こぶを形作る筋肉だ。
「みんなこの筋肉が見えるかな?これが上腕二頭筋で、その名前の通り、長頭と短頭を持つ二頭筋。起始は長頭がここ、肩甲骨の関節上結節。短頭は肩甲骨の烏口突起先端。それでここ橈骨粗面と上腕二頭筋腱膜を介して前腕筋膜の二ヶ所に停止しているんだ。それで作用なんだけど」
「す、すまん。全く覚えられそうにないんだが……」
ティナさんが目を回しながらギブアップを伝えてくる。
「ああ、覚えなくていいですよ。一例として挙げているだけですから。何となくこの辺から始まって、この辺で終わるって言う認識を持っておいてもらえば十分です」
「そ、そうか」
ティナさんプラスファイブがホッとした顔を見せる。
「でもね、作用はある程度しっかりと覚えてほしいかな。ちなみに上腕二頭筋の主な作用は、肘関節の屈曲と、前腕の回外。長頭に絞れば肩関節の屈曲、短頭は肩関節の水平内転になるんだ。このなかでも肘関節の屈曲は絶対に覚えておいて」
「ゴウさん、肘関節の屈曲っていうのは、要するに肘を曲げるってことでいいんですか?」
「うん、そういうこと。ちょっと聞きなれないかもしれないけれど、これは慣れてほしい。一応紙にまとめてきたから渡しておくね」
「じゃあ何でここまでして起始、停止、作用の話をしたかってことなんだけど、これを知っていると知っていないとでは筋トレの効果に大きな差が出てくるんだ。筋トレの動きっていうのは、基本的に起始と停止の距離を近づけたり、遠ざけたりする動きになるんだ。それでこの距離の差が大きければ大きいほど、効果が高まるって思ってくれればいい。要するに筋トレでは可動域をなるべく大きくとるってことが大前提で、小さな可動域でちょこちょこ動かしてもあんまり効果はないよってこと」
「つまり上腕二頭筋を鍛えるのであれば、肘をしっかり伸ばした状態から、最後まで曲げきるのが理想的と言うことか?」
いつものようにティナさんが、俺の言ったことを咀嚼して聞き返してくる。これは正直すごく助かる。合っていれば合っているでOKだし、伝わっていないんなら言い方を変えないといけないって分かるし。それで、今回の件はYESともNOとも言える。
それを実践しながら説明するために、収納空間に用意していた3キロのダンベルを二つティナさんに手渡し、ダンベルカールのやり方を教える。
「じゃあティナさん、さっき言っていたことを念頭に置いて、やってもらってもいい?」
「ああ、分かった」
さすが現役の騎士様。普通の女性では結構大変なはずだけど、軽々と回数をこなしていき、5人もその様子を熱心に見ている。ティナさんのやり方は、ダンベルを下ろしたときには、完全に肘を伸ばしてダランとさせ、上げたときにはもう曲がらないってところまで曲げるといったもの。先程俺が言ったことを忠実に守っていると言える。
「じゃあティナさん、伸ばしきったときと、曲げきったときってしんどい?それとも楽?」
「楽だな、力を入れているっていう感じはない」
「うん、じゃあ次はこうやってみて」
次にティナさんにしてもらったのは、ダンベルを下ろしたときは伸ばしきる手前で止め、上げきった時は肘の真上にダンベルが来ないようにするやり方。
「これは……きついな。楽なところがない」
「筋トレで効果を出すために大事なことの一つとして、筋肉に負荷(張力)をかけ続けるっていうことがあるんだ。さっきみたいに下ろしきったり、肘の上まで上げきってしまうと、ターゲットの上腕二頭筋とダンベルの距離(矢状面におけるモーメントアーム※)がゼロになってしまう。そうすると上腕二頭筋にかかる負荷が抜けてしまうんだ」
「確かに筋肉が先程よりも張っている感覚があるな……」
5人もやってみたいと言うので、それぞれにダンベルを手渡して体験してもらうと、やはり同じような感想を抱いてくれる。
「筋肉を成長させるには、大きく分けると3つのことが重要になるんだ。1つは負荷を筋肉にかける力学的刺激。2つ目は今体験してもらったみたいに、筋肉を酸欠にしたりする化学的刺激。3つ目は筋繊維に小さな傷をつけることなんだ」
また難しい言葉を……っていう感じで、5人とティナさんがこちらを見てきた。
というわけで講義が始まりました
今回出てきたのは筋肉の種類、起始、停止、作用と3つのトレーニング刺激について
まず筋肉の種類ですがこれは形状でもっと細かく分けられますが
そこまで重要というわけではないので割愛します
次に起始、停止、作用です
これは正直なところ、ある程度理解した方がいいです
とはいえ覚えるのは大変なので、筋トレ中や筋トレ前に
今日やる部位をスマホなどで確認するといいでしょう
また、※印で矢状面におけるモーメントアームという言葉が本編で少し出てきましたが
これも筋トレをする上で大事な考え方になります
この言葉とセットになるのが前額面と水平面、それぞれ説明していきます
矢状面→体を左右対称に分ける面
前額面→体を腹側と背側に分ける面
水平面→体を上下に分ける面
そしてこれを踏まえた上で今回出てきた関節の動きを解説します
屈曲→矢状面で関節を曲げる運動
伸展→矢状面で関節を伸ばす運動
水平外転→水平面で腕を前に振る肩関節の運動
水平内転→水平面で腕を後ろに振る肩関節の運動
回外→前腕を外向きに捻って、手のひらを上に向ける運動
回内→前腕を内向きに捻って、手のひらを下に向ける運動
他にも外転、内転、外旋、内旋などがありますが、それはまた出てきたときに
つづいてモーメントアームの説明です
今回のアームカールですが、肘関節の屈曲がメインとなる運動です
このアームカール、果たしてどこが一番きついのか?
それを理解するカギこそがモーメントアームとなります
アームカールをすると鍛えたいと思っている上腕二頭筋と
ダンベルとの距離が変化するのは理解できるでしょうか?
肘を伸ばした状態→モーメントアームが短い
肘を90度曲げた状態→モーメントアームが長い
肘を曲げきった状態→モーメントアームが短い
といったように変化します
当然肘を90度曲げた状態が一番きついですよね?
つまりモーメントアームを限りなくゼロに近づけることは、
筋トレに於いては、対象筋にかかる負荷を抜く行為に相当すると言えます
逆に言えば重いものを持ち上げるときには、
体からなるべく離さないようにする
こうすることで少ない力で重いものが持ち上げられるようになります
最後のトレーニング刺激については
本編でも途中になってしまったので次回に持ち越しです
思ったより講義が長引きそうだ……