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キスツス  作者: 裏庭その子
7/9

No7

「玄ちゃん、俺は良い事を考えたんだ。聞いてくれ。」

吉尾の拘束を解いて、俺に関わるなと警告して、お家に返してあげた。

あいつらは可哀想な狂人なだけだと、分かったから。

見せしめに成瀬が死ねば十分だと思った。

「俺はもう少し生きたら、あの人とあっちに行こうと思ってる。」

俺がそう言うと、玄ちゃんは驚いて、そして怒った。

「どうしてそんな事を勝手に決めるんだ!?」

俺はまぁまぁ…と手で彼を抑えて続けて言った。

「俺の汚れた魂を浄化してくれてありがとう。そして、今まで、この俺の魂も浄化してきてくれてありがとう…。」

俺はそう言って自分の胸のあたりを抑えて玄ちゃんにお礼を伝えた。

「俺の魂は何故か汚れやすいようで、いつも浄化していないとすぐに汚れてしまう様だ。それで、玄ちゃんにいつも触れていたかったんだ…そうすると、気持ちが落ち着いて、安心した。執着は…愛じゃない。自己防衛だ。」

言い切って、玄ちゃんの隣に座って顔を覗き込むようにして続けて言った。

「あの人にとって、俺が魂を浄化する役目なんだよ。だから、あの人は俺から離れないし、俺にべったりだ。」

ね?と言って指を立てて玄ちゃんに俺の総括を話す。

「つまりだ、玄ちゃんに浄化してもらった俺に浄化してもらう死神…って構図だよ。」

俺の魂が浄化されたのが確たる証拠だ!

どや顔で玄ちゃんに言い終わると、彼の見解を求めた。

「ね?どう思う?」

玄ちゃんは訝しげな顔をして俺に聞いた。

「俺は?俺は誰に浄化してもらうの?」

それは…これから出会うであろう、どっかの女だろ…

「知らない」

俺は興味無さそうに言って顔をそむけた。

俺には関係ない事だ…

「だから、定期的に触ればいいんだよ。分かる?例えば、12時に1回とか…」

「勝手に自己完結するなよ。俺は?俺の気持ちはどうなんだよ?」

玄ちゃんが怒って俺に向かって怒鳴ってくる。

悲しいし…怖いけど、これもきっと、そのうち慣れていくはずだ…。

「そ、そ、それは…自分で考えてよ…俺はそうだと思ったからそうするの。だから、後の事は知らない。だから、玄ちゃんは1日に…4回だけ俺に触られればいいんだよ。分かった?これで良いだろ?」

そう言って玄ちゃんの髪をちょっとだけ触った。

お腹の底からグワッと感情が込み上げて、抱きつきたくなる…

ダメだ…今浄化してるから…好転反応ってやつだ…良くなる前の悪くなるやつだ…

そう思って耐えるけど、玄ちゃんの髪の毛が柔らかくて、もっと触っていたくなる。

「思っていたのと…違う…」

俺はそう言って、玄ちゃんに抱きつくとシクシクと泣いた。

「ごめん。またくっ付いてしまったの…でも、1日に4回だけだから…だから…」

玄ちゃんを抱きしめて、離れたくなくなる…だって、今日1日中触っていなかったじゃないか…こんなに離れたのは中学校の修学旅行以来だ…

「あと、何分?」

玄ちゃんの声が近くに聞こえてクラクラする。

我慢できなくなって、俺は体を離すと、彼にキスした。

そしてそのまま後ろに押し倒して彼の体に抱きついた。

「話が違うじゃないか!」

玄ちゃんが怒ると横隔膜が動いて顔が揺れる。

「あはは、すごい肺活量だ…玄ちゃん凄いぞ。もっと怒鳴ってみて?」

そう言って俺は玄ちゃんを煽った。

「梅ちゃんさ、さっきの話と違うじゃん。もうさっきの理論が破綻してんじゃん。」

「ダメなんだ…離れたくないよ。玄ちゃんが好きなんだ…」

いつもの習慣で“好き”なんて言ってしまったことを後悔する。

俺は体を起こして倒れた状態の玄ちゃんを見下ろした。

「何で…好きとかいうんだろう…気持ち悪いよな…キスしたり、それ以上を望んだり…冗談じゃなく、気持ち悪いだろ…俺も嫌なんだ。玄ちゃんに嫌われたくないよ…だから、一生懸命考えたんだ。お互いが丁度いい距離っていうのを…でも、ダメだった。」

上から見下ろす玄ちゃんはとてもかっこよくて、見るとまた興奮するから、俺は目を逸らして適当に本棚を見た。

それでも触れていたくて、手でちょっとだけ玄ちゃんに触れた。

「そうか…」

玄ちゃんが短くそう言って、俺の触れた手にそっと手を添えて、握ってくれた。

「別に気持ち悪いなんて思っていない…」

玄ちゃんはそう言うと体を起こして俺の手を握った。

「お前の魂が、あんなにボロボロになっていたのがショックだった…。そして、死神がお前をあそこまで深く愛していると知ってショックだった。お前の魂が俺にだけ反応して、美しくなったのは…当然だと思った…」

玄ちゃんのお父さんの読みが外れていたんだ…

彼は俺にとって自分は特別だと…自覚している。

「成瀬君や吉尾の魂もきっとそんな風に汚れてしまったんだよ…」

俺はそう呟いて、玄ちゃんの握る俺の手を見た。

だから、神を恨んでるんだ…

だから神に愛された俺を汚してしまいたかったんだ…

「玄ちゃん…1日4回…10分で…」

「分かった。」

俺はそう伝え終わると、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

でも、それでも、少し彼と話せてよかった…

良かった…

でも、俺は彼を諦めるって決めたんだ…


今日はコロッケを作ってあげた。

子供みたいな舌は玄ちゃんのお父さんの方だった。

年寄なのに1人で4つもコロッケを食べて、胃がもたれないか心配した。

明日は大学もある。バイトもある。

玄ちゃんと1日4回…10分が出来るか、心配しながら俺は眠った。



隣の部屋の扉が開く音がして、俺の部屋のドアが開いた…

「梅ちゃん、朝だよ」

玄ちゃんの声に起こされても、目が開かない俺は何とか体を起こすと、そこでフリーズしてしまった…

「梅ちゃん!」

次の声で完全に目覚めて、起き上がる。

布団を畳んで、パジャマ姿で台所に立つ。

寝ぼけたままお鍋にお水を入れて沸かす。

昆布と煮干しを入れて、煮立たせて出汁を取る。

「良い匂いがするなぁ~、梅之助、おはよう」

勘違い爺が起きてきて俺の出汁の匂いに喜んでいる。

言及しないよ…あえて、言わないさ…

「おはよう。今日は何食べたい?」

玄ちゃんのお父さんに聞くと、卵が良いと言った。

俺は出汁巻き卵を作ろうと、もう一つお鍋を出すと出汁を取った。

朝の忙しい時間…俺は玄ちゃんの家の台所で料理を作る。

次々と出来上がる料理をテーブルに置いていく。

体がじんわり熱くなって、死神が境内に来たことが分かった…

どうしてだろう…最近、彼とのシンクロを強く感じる。

傍に居ると、まるで子供の頃に戻ったように、ベタベタと甘えまくる自分に戸惑う。

成瀬君の事だって…俺が指示した様なものだ…

まるで、理性で押さえていた、彼の命が俺の中で息を吹き返したような、活動し始めたような、そんな風に感じていた。

甘えたくなって、他の事はどうでも良くなって、ずっと一緒に居たくなる。

玄ちゃんへの思いとは違う…抗えない何かを感じていた。

俺はテーブルに食事を用意すると、パジャマ姿のまま死神の元に駆けて行った。

境内の鐘の下で彼を見つけて、走っていくと、彼は俺の方を向いて手を広げた。

そのまま抱きついて顔を埋める。

まるで離れ離れだったものが一つになるような、当然の一体感を感じて目を瞑る。

「おはよう…」

俺がそう言うと、彼も、おはよう。と言って俺の髪を撫でる。

このままどこかへ行きたい…

そんな感情が沸き起こってきて、どうしようもなくなる。

本堂から聞こえる朝の御勤めのお経が終わって、玄ちゃんが縁側に出た。

俺は死神に抱かれながら彼と目が合うと、ゆっくり目を閉じた。

「今日は大学に行くんだ…そのあと、バイトに行くの。バイトが終わるのが8時なんだ。その頃にはお月様は出ていると思う?」

彼の胸に顔を埋めながら聞くと、出てる。と答えるから、俺は言った。

「曇りだったら出ていても見えないね…」

「曇らない。今日は晴れる。」

彼はそう言って俺の髪を撫でて顔を覗いて来る。

彼の目は黒くて、普通の人間の様だった。

俺は彼の頬に手を当てて笑うと言った。

「お月様の色の方が、好きなんだ…」

俺がそう言うと、死神の目の奥が揺らいで徐々に色を変えていく。

あぁ…なんて綺麗なんだろう…

金色に輝く目に赤い点が浮かんで、周りをオレンジに染める。

そんな彼の瞳が美しくて、俺は背伸びしながら彼にキスした。

もうこのまま溶けてしまいたくなる。

本当に一つになって、溶けてしまいたくなる…

「あなたと一つになりたい…」

うっとりとした顔で俺は彼に言った。

もう離れることが無い様に、一つになってしまいたい…

「いつもどこに帰っているの?俺も連れて行ってよ…」

彼の体に抱きつきながら、お願いした。

ここに居るべきじゃない…俺はこの人と居るべきだ…

玄ちゃんへの思いも上手くコントロールできない…

「梅之助、ご飯食べよう!」

縁側から玄ちゃんの声がして、我に返って、俺は死神と離れる。

「また…来る?」

俺が名残惜しそうに手を引いて聞くと、彼は悲しそうな顔をして、俺を自分に引き寄せた。

「行かなくていい…」

死神がそう呟いて、俺を抱きしめた。

それは強くて、激しい抱擁だった。

「んふふ、ダメだよ。俺はご飯を食べて、大学に行かないと…あと、バイトにも行かないと…ね?」

そう笑って言って、体を離して手を放す。

どうしてだろう…まるで、本能と理性を行ったり来たりする恋人同士の様だ…

分け与えられた命のせいか…あの時の俺の汚れた魂を、浄化するまで持っていてくれた事への感謝なのか…俺は確実に死神を愛していた…

玄ちゃんへの思いとは別に…

抗えない…抗う必要もない…だって、それは必然だから…

「梅之助…あの御方に引き付けられているな。いかんぞ。良いのか?死ぬぞ?」

玄ちゃんのお父さんが厳しい顔をして俺に言う。

俺は椅子に座りながら、聞いた。

「出汁巻き卵。美味しい?」

玄ちゃんのお父さんは俺の様子を見て、心配そうにしている。

玄ちゃんも、またしかりだ…

だから、落ち着いた声で言った。

「必然なんだ…こうなる事は決まっていた…だってそうだろ?俺には彼の命が入っているんだから、こうなる事は必然だ。寿命を全うしなくても、俺は楽しく生きたけどな…まだ生きないとだめなのかな…」

俺はそう言いながら箸を持って、いただきますをしてご飯を食べ始めた。

「梅之助、俺の為に生きろよ…」

目の前に座る玄ちゃんが俺の方を見て言う。

その目が真剣な強さを持っていて、彼の瞳に引き付けられた。

でもすぐに我に返って、俺も彼の目を見つめて、真剣に伝えた。

「玄ちゃんは奥さんをもらってこの寺の跡取りを作るんだ…。だから、早いうちに彼女候補を探さないと…太って、ハゲてきたら、誰にも相手にされなくなっちゃうよ…。そして、俺はそれを見たくないんだ…玄ちゃんが俺以外の奴と笑うなんて、愛し合うなんて…考えたくもない。」

「だから逃げるのか?死神に逃げるのか?」

玄ちゃんとの言葉の応酬にご飯を食べる手が止まる。

「逃げるさ。嫌だと分かっている事に、立ち向かう必要なんてない。」

そう言って、ご馳走様して、席を立った。

「お前は俺の事愛していたんじゃないの?」

そういう玄ちゃんの声が震えていて、俺は驚いて、彼の顔を見た。

涙を浮かべて俺の目を見て、小さく震えながら訴えてくる。

「お前が俺の事、愛してるって言うから、俺はお前を愛してしまった!なのに、いまさらどうして俺を置いていくなんて言うんだ!あんまりじゃないか!何が必然だ!そんな事言ったら、幼いころからお前に洗脳された俺がお前を好きになったことも必然だ!違うか?お前は俺に対して責任を取らなくてはいけない。だって、それほどまでにお前はしつこく、俺を洗脳したんだからな!」

そう言って、席を立つと玄ちゃんのお父さんが呆気にとられている中で、彼は俺を抱きしめて、そのままキスをして、体を触ってくる。

玄ちゃんのお父さんは急いでご飯を食べると、流しに食器を置いて、そそくさと、どこかに逃げて行った。

俺は玄ちゃんの手が、息が、体温が、全てが気持ちよくて、彼の背中に手を回して、しがみ付いた。

「玄ちゃん…愛してるよ…」

俺がそう言って彼にキスすると、玄ちゃんも応えてくれる。

彼の頬を触って、柔らかい髪を撫でて、彼の服の下に手を入れて、彼の体を、肌を感じて愛おしく撫でて愛する。

指先の一つ一つで、彼を愛して撫でる。

「玄ちゃん…もう、俺の事抱いてよ…玄ちゃんのにしてよ…」

うっとりと彼の目を見ながら囁くと、彼は一瞬驚いた顔をした後、またキスをくれた。

片付けもしないで玄ちゃんの部屋に行って、服を脱ぐ。

彼に覆いかぶさり、肌に触れて舐める。

このまま本能に従って、迷うことなく、求め合おうよ。

俺はお前が欲しい…

ずっとほしかった…

「玄ちゃん…玄ちゃん…!」

彼の鼓動を感じて、彼の息を飲んで、彼の全てを受け入れて、俺は初めて玄ちゃんに抱かれた…

「梅之助…愛してるから…どこにも行くなよ。」

俺の髪を撫でながら、玄ちゃんが涙を落として、掠れた声で言ってくる。

俺は玄ちゃんの感覚が残る体を感じながら、彼の背中を撫でた。

「玄ちゃん…愛してる…」

そう言って彼の顔に顔を寄せて、キスする。

そのまま彼を抱きしめて、彼の肌に体を埋める。

人の体って、こんなに気持ちよかったんだ…

肌と肌が触れ合った時の感覚が、堪らなく気持ちいい。

相手の熱を感じて、自分の熱を相手に伝えて…

気持ちよくて、離れたくない…

「梅、そろそろ…大学行かないとダメな時間だよ…?」

玄ちゃんに背中を撫でられながら、俺はすっかり微睡んでいた。

「あっ!そうだ…忘れていた…」

そう言って飛び起きると、自分の裸が妙に恥ずかしくなって、急いでパンツを履いて、シャツを着た。

玄ちゃんも急いでパンツを履いてシャツを着ている。

彼の背中が、好きで、俺は背中に抱きついて言った。

「玄ちゃん…愛してるよ…玄ちゃん…前からずっと、玄ちゃん…」

涙がポロポロ落ちてきて、彼の背中で泣いている。

「知ってるよ…」

玄ちゃんはそう言って、彼にしがみ付く俺の手を撫でると顔をこちらへ向けてキスをくれた。

「だから、俺も、お前の事を愛したんだよ。」

玄ちゃんは俺を抱きしめて、喝を入れる様に強く締め付けた。

「だから、俺の傍から離れるな!」

「うん…うん……」

涙を流しながら、何度も頷いて、彼の言葉の意味をかみしめる。

玄ちゃんを好きで良かった…

愛し続けてよかった…


急いで支度をして、家を出る。

死神が俺に笑いかけてくれたけど、急いでいるので、手だけ振って走って通り過ぎた。

立ち止まったら、今度は彼を愛してしまいそうで、怖かった。

いつもより、2本遅れの電車に乗って大学へ向かう。

あ…俺、玄ちゃんとエッチしちゃったんだ…

夢中すぎて、しっかり考えていなかった頭が、電車に揺られる車内で活動を開始する。

初めてを大好きな人にあげれてよかった…

乙女の気持ちって、こんな感じなんだろうか…

俺は今更胸がドキドキして、苦しくなって、目の前がクラクラした。

思い返して、赤面して、次に会う時どんな顔をすればいいのか…嬉しくて、恥ずかしくて、堪らない。

玄ちゃん…玄ちゃん。

そっと心の中で彼の名前を呼んで、愛した。


大学に行くと、成瀬君の訃報を益田から聞いた。

「なんでも、商店街の歩道で暴れてて、その後、発作みたいなものを起こして死んだらしい。あんなにイケメンだったのに、死に顔がひどすぎて通行人たちは恐ろしくて近づけなかったらしいよ…。あの商店街、好きだったのに、変ないわくつきになったな~。」

益田がそう言って俺の顔を覗いて来た。

「梅ちゃん、聞いてる?」

俺は今朝の事がまだ頭の中を駆け巡っていて、ハッキリ言って聞いていなかった。

それに彼を殺したのは俺だ…

いや、とどめを刺したのは…彼に恨みを持っていた霊たちかもしれない…

「益田君…梅ちゃん」

正面から百合子ちゃんが近づいて来て、益田の前に立つ。

「今日、帰りに一緒にお茶に行かない?」

お…マジか…

「…うん。行く。」

照れてるけど、ちゃんと目を見て答える益田に男を感じて、俺は嬉しくなって聞いた。

「付き合ってるの?」

両手を振って、違う!と言うジェスチャーまで、申し合わせた訳でも無く同じなんだもの。

お前らはきっと上手くいくと思うよ。

俺のYouTube企画から、お似合いのカップルが出来た。


予定の授業が終わって、俺はリュックを背負った。

丁度、益田カップルに出会ったので、念のため言っておく。特に益田に。

「動画の編集して、お前の除霊の部分と一緒に出しちゃおうと思ってるんだ~。良い?お前、俺の事襲って、よだれ垂らしてるけど、良い?ふふ。」

益田は拒否したけど、百合子ちゃんが良いって言ったので、お言葉に甘えた。

念のため、アップする前に検閲させてあげることにした。

俺は編集室に寄って、彼らはお茶に向かう。

手を振って2人と別れた。

良いな…


ガチャリ

編集室の鍵が開いていた。

中を覗くと、吉尾が居た。

「お、吉尾。来ていたの?」

俺は何事もなかったように彼に話しかける。

「成瀬の事…殺したの…?」

精いっぱいなのか、小さな声で吉尾が俺にそう聞いて来た。

パソコンの電源を入れて、カメラと接続するケーブルを探す。

「死神に喧嘩売って…死なないと思う方がおかしいよ…」

俺はそう言うと、パソコンの前に座って吉尾の方を向いた。

「ソフトの使い方教えて…」

お前もそのうち死ぬかもしれないから、自分で出来る様にならないとな。

「何で…俺は助けて、成瀬は殺されたの?」

生き残ったことが辛いのか、死んだ成瀬に申し訳なく思うのか。

俺に吉尾の気持ちは分からない。

だって、俺は死神に愛されて、レイプされそうになった被害者だからな。

加害者の気持ちなんて、分からないよ。

「死にたくなったら玄ちゃんの所に行けばいいよ。死神がいつでも殺してくれる。」

俺はそう言って吉尾の方に向くと、彼は俺の首を絞めて言った。

「どうせ殺されるなら、お前を殺してからにする!」

馬鹿なんだ。そんなんだから、呪われるんだ。

“殺される”じゃない、“殺してもらう”んだ。

自分が、今が、この状況が嫌なんだろ?だから、わざと死に近づく選択ばかりして…。周りを巻き込んで大騒ぎして…うるさく騒ぐ。

「人のせいにするな。全部自分の選択の結果だ。お前が呪われるのも、お前が死神を怒らせたのも、誰のせいでもない。お前の選択した行動の結果なだけだ。」

そう言って俺の首を絞める吉尾の腕を撫でる。

「俺を殺したら、どうなるかな…」

死ぬことなんて怖くない。死神の元に戻るだけだから…俺は、玄ちゃんが傷つくことが怖い。1人置いて、死ぬ訳にはいかない…

「お前の家族は…死ぬかな…」

頭はボーっとするのに、体の感覚が鈍く、冷たくなっていく。

「妹も…酷い姿に…されるんだろうな……」

吉尾の腕を撫でていた手に力が入らなくなって、だらんと下に落ちる。

「吉尾…バイバイ…」

目の前が暗くなって、意識が遠のく。

顔が…熱い…


目の前が突然明るくなって、周りを見た。

クリーム色の景色に水色の空がコントラストを描いて、セピア色の風景写真の様に見える草原にいる。

いつもの、黒い服、俺の愛する死神が現れる。

「ここがあなたの居る場所なの?」

そう言って笑う俺の姿を見て、驚いた様子で駆け寄ると、話す間もなく俺の体を後ろに突き飛ばした。

「ガハッ!」

息を吹き返して咽る俺の目の前に、吉尾の足が見える。

頭が割れる様に痛い…

俺はそのまま横に倒れて、忌々しそうに俺を見下ろす吉尾を見る。

彼の後ろに、誰かが立っている…

見てはいけないと思って、俺は目を閉じた。

悲鳴が聞こえる中、俺は深呼吸して、頭に酸素を送る。

しばらくすると、奇声と共にドアを開ける音がして、室内が静かになった。

俺はゆっくりと目を開けて、目の前の人を見た。

倒れる俺の横に座って、俺の体を抱き起すと、強く抱きしめる。

「一瞬死んだ…」

俺が言うと、彼は嗚咽を漏らして泣いた。

「どうして泣くんだよ…泣かないで…」

まだぼんやりしている体は力なく小刻みに震える。

定まらない手を伸ばして、彼の頬を撫でて顔を寄せる。

「梅ちゃんに、生きていて欲しいんだ…」

そう言って、泣く彼を抱きしめて背中をさする。

温かくて、大きな背中に慈愛を感じて、俺は笑った。

「そうか…ふふ、そうか…」

こんな大きなものに愛されて、俺は何を返せばいいの…

ありのままの姿を見せて、隠さず、畏れず、我慢もせず、敬いもせず、正直に、ただ彼を…死神と言う存在ではない、彼を見て、触れて、愛した。

「怖かった…」

俺が呟くと、彼はもっと泣いて、俺を強く抱きしめた。

吉尾は多分もうダメだろう…。

彼の体に背中を温められながら、自分の四肢に力が戻るまで、床に座ってぼんやりする。両手を握ったり、開いたりして、感覚が戻るまで、大人しくしている。

死神は俺の体を後ろから抱きしめている。

俺の髪の匂いを嗅いで、愛おしそうに抱きしめる。

「梅ちゃん…玄太と結ばれたの…?」

匂いで分かるの…怖いな。詳しくは聞かないよ…

「そうなんだ…俺があなたと行きたいって言ったら、玄ちゃんが行かないでって言った…。でも、俺気付いてるんだ。」

俺はそう言うと、彼の方に体を返して彼の頬を両手で包んだ。

じっと見つめる死神の黒い目に、自分が映る。

「ほら…見てよ。この目、俺もあなたと同じ…お月様の色になるんだ…」

今朝、愛し合う中、玄ちゃんが俺を見て驚いた顔をした…

その時、彼の綺麗な瞳に2つの黄色い点が見えたんだ…

あれは俺の目だ…

彼はそれに驚いて…でも、俺をそのまま抱いた…

「最近、あなたと一緒に居たくて仕方が無いんだ…このまま一緒にどこかへ行ってしまいたくなる。あなたと一つになりたい。愛してるんだ…」

そう言って、彼の瞳を力を込めて覗く。

「俺の事、抱いてよ…死神はそういう事、しないの?」

彼の唇にキスして、舌を入れる。

彼の唇に触れて、感情がむき出しになって、彼の舌を求める様に執拗にキスする。

息が熱くなる。顔が、体が熱くなる。

彼に触ってほしくて、猫の様に体を捩らせて、彼に甘える。

「梅ちゃん…」

彼の黒い服の中に手を入れて、肌を撫でて、見たくて、服を剥ぐ。

剥き出しになった彼の肌に頬を寄せて、舌で舐めた。

「抱いてよ…ねぇ、俺の事、抱いてよ…」

彼の目を見て懇願すると、彼は俺を愛おしそうに見つめて、深いキスをした。

そのまま俺の体を押し倒すと、俺の首に顔を寄せて、首筋を舐めた。

彼の舌の感触に体が跳ねて、背中に腕を回して、離れて行かない様に掴む。

俺だけに愛を注がれて、喜ぶ。

ずっと前からこうして欲しかった。

このままこの人と一つになってしまいたい。

2度と離れない様に、一つになってしまいたい…

顔を紅潮させて、俺に熱いキスをすると、彼はそのまま俺の首に顔を落とした。

ガリっという音がして、首に激痛が走る。

彼は俺の首を噛むとそのまま持ち上げていく。

背中に生ぬるい液が伝う感覚を感じて、ゾクゾクと背中が震える。

痛みなのか、快感なのか…

2つが混ざりあった中、俺は彼に抱かれて果てた。


「梅ちゃん…ごめんね。」

そう言って死神は俺の首の傷をすぐに治した。

でも、滴った血が背中に付いて、床を汚した。

「…事件現場の様だ…」

俺はそう言って、彼の肌にまたくっ付くと、ムラムラとしてきて、彼の体を求めた。

どうなっているのか…まるで発情した犬みたいに、彼を求めた。

ずっと我慢していたように、激しく…


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